103. クリスマスパーティー
十二月二十四日土曜日。
日本時間、午後三時。
約束の時間になったので、日本の朝霧邸に四人で転移した。
自室に入って少ししてから外に出た。
今日はダイニングではなく、ホールにテーブルを設置して立食パーティーにするみたいだ。キッチンを覗いてかえでさんに挨拶をする。
ダイニングで料理ができるのを待っている子供たちがいた。
徠輝、左徠、ライラの三人だ。運ぶのを手伝うつもりらしい。
僕も一緒に手伝いながら、他のことにも注意を払う。そして、アンジェラに頼んでニコラスの様子をアンドレと一緒に確認してもらった。
アンジェラがニコラス、アズラィール、ルカとフィリップを伴ってホールに出てきた。
途中でニコラスが床にしゃがみ込み祈り始めちゃってる。思い出したのかな?
そこに、アンドレがやってきてニコラスに立つように促している。
結局、近くに置いてあった椅子にニコラスとアンドレが座って話し始めたようだ。
アンドレ、うまくやってくれ。
僕は料理の載った大きなお皿を持ってホールへと移動した。
子供たちはワゴンに料理の載った皿を乗せ移動している。
料理のほとんどを運び終わったとき、未徠が出てきた。
「ライル、元気か?」
「あ、はい。おじい様。元気でやっています。」
「大学はどこを受けるんだ?」
「とりあえず共通テストの結果を見て決めたいと思っています。できれば自分で学費が払える国立の医学部をと思っています。」
「医学部なのか?獣医ではなく…。」
「はい、せっかく人を助けられる能力があるのなら、使うべきなのかと思いまして。」
「そうか、がんばれ。」
いつになく、フレンドリーな未徠の様子に困惑しながらも、心の中では「第一関門突破」とガッツポーズを挙げる僕。
徠人以外の全員がホールに集まったところで、徠夢が乾杯の音頭をとる。
「とうとう十二人全員が集まった。不便なこともあるかと思うが、皆で協力して楽しく暮らしていこう。」
「カンパーイ」
「メリークリスマス~。」
マルクスと徠神はもう酔っぱらっているのか…?
ライラと徠輝、左徠が僕とアンジェラの方に近づいてきた。
「ねぇ、でっかいアンジェラ歌うたってよ。」
「ハハハ、やめておくよ。代わりにアンドレとリリアナがピアノを弾いてくれる。」
アンジェラが二人に耳打ちすると、リリアナがニッコリ笑って頷いた。
「いいよ。やったげる。」
すると、リリアナにアンドレがキスをし始めた…だから、人前でやっちゃダメだって…。
子供たちがガン見してるよ。
ピンクの光の粒子が二人を包み一つの個体として形を成していく…。
そこに出現したジュリアンを見て、驚愕の叫びを発したのは、左徠だった。
「嘘、うそでしょ?ジュリアン、本物?」
ジュリアンがピアノの前に出て、椅子に腰かけると、なぜかホールの電気が数段暗くなった。皆が見守る中、ジュリアンがピアノを弾き始める。
今日はラ・カンパネラだ。
まるで照らすようにジュリアンの周りに白い光のオーブがやんわりと出現しはじけていく。曲が終わるまでの間、皆身じろぎもせず目が釘付けだった。
曲が終わり照明が普通に戻った時、左徠はすごい勢いで突進してジュリアンの横にぴったりとくっつき、一緒に写真を撮ってもいいか聞いていた。
事務所の社長であるアンジェラに許可をもらい、ジュリアンと頬が付くほど顔を寄せて写真を撮ってもらった左徠は、今までのおとなしかったイメージがどっか行っちゃうくらいの弾けようだった。
ライラと徠輝も一緒になって写真を撮っていて、満足そうだった。
ライラがアンジェラに近づいてきて珍しく褒めちぎる。
「でかいアンジェラ、やるわね。いいわ。さすがよ。負けたわ。」
どうやらライラもジュリアンのファンらしい。
合体を解いたアンドレとリリアナを不思議そうに見ていたのはアズラィールだ。
「あの、この前も来てた子ですか?」
「あぁ、私の婚約者、リリアナだ。」
アンドレが答える。まぁ、こんだけ人前でキスしてるんだから嫁にもらうのは当然だろうけど…。
そのまま、にぎやかにそれぞれが雑談をして時間がどんどん過ぎてゆく。
アンジェラが、皆にプレゼントを選ばせているとき、アンドレとニコラスが僕の方へ近づいてきた。
「ニコラスが記憶喪失だった時のことを思い出したそうです。」
「そう。ニコラス。あなたが僕たちの先祖だったみたいね。また、明日にでも彼女に会いに行ったらいいんじゃないかな。いつでも挽回できるよ。ね。」
「はいっ。お願いします。」
ニコラスが涙を拭きながら嬉しそうに言った。
ちなみに、おちゃらけ大妖怪のフィリップと徠央はごちそうを食べるのに夢中で、ルカはアンドレとアンジェラを不思議そうに見比べている。
「ルカ、ごめんね。この前自分がいっぱいいっぱいで、ここに置き去りにしちゃったんだ。」
「あ、天使様?お会いできて光栄です。しかも、ユートレア王のアンドレ殿下までいらっしゃって、ここはどういうところかと、驚いているところです。」
「ルカ、ここにいるのはみんな親戚なんだよ。遠慮しないでなんでも言ってね。」
皆バラバラに雑談をしていたのだが、僕の所へ父様が近づいてきた。いやな予感だ。
「ちょっと、いいか。」
「はい、父様。」
僕は父様に地下の書庫にくるよう言われ、後についてエレベーターに乗った。
あわててアンジェラが追いかけたが、エレベーターの扉がしまってしまった。
エレベーターが止まり、ドアが開いて、室内の電気を父様がつけ、椅子に座るよう促された。エレベーターの扉が閉まり、また上へと上がっていく。
僕が席に着くと、父様も横の椅子に座った。
「ライル、もういい加減元の姿に戻ってくれ。」
「父様…これはコントロールできないんです。自分で好きに変えられるならとっくに戻していますよ。」
「色々な面倒事がたくさんあって、正直言って精神的に追い込まれてるんだ。近所の人にライルはどこですかってよく聞かれる。何て答えればいいんだ?女になって嫁に行ったと言えばいいのか?」
「そんなにどんな姿をしているのかが重要ですか?
僕が幸せになっちゃいけないんですか?もしかしたら、死ねば元の姿に戻るのかもしれません。」
「おまえ、よくもそんな生意気な口を…。」
徠夢が僕の胸ぐらを掴んで押した。バランスを崩して僕が後ろに倒れた時、アンジェラがエレベーターを降り、駆け込んでくるのが見えた。
ガツッと音がして僕の意識は無くなった。
頭をテーブルの角にぶつけ床に倒れこんだのだ。
「リリィ、しっかりしろ…。徠夢、何したんだ。」
頭から血が流れて、大きな血だまりが出来ていく。
そして数秒後、僕の体は一瞬で消え去ってしまった。
「リリィ…」
ホールにアンジェラが移動する。
「リリィが消えた。」
泣きながらそう言ったアンジェラにリリアナが泣き叫んだ…。
「死んじゃう。リリィが死んじゃう…。冷たい、暗くて、息ができないって…。」
アンジェラが翼を出しサロンを通り抜け外へ飛んだ。
皆がどよめく中、池の水から青い光の粒子が柱のように上がっていく。
リリアナがガタガタと震え出した。
アンドレはリリアナを抱き寄せる。
アンジェラは躊躇せず池に飛び込み池の底深くに沈んでいるリリィを見つけ抱きしめ浮上した。池のすぐ横で、アンジェラが人工呼吸と心臓マッサージを行う。
アンドレはリリアナを連れてその場へ行き、けがを治すよう促す。
リリィの体を覆っていた青い光の粒子は段々と光を弱くし、とうとう消えてしまった。
「誰か、早く救急車を呼んでくれ。」
アンジェラの悲鳴にもにた叫びを聞き、アズラィールが救急車を呼んだ。




