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101. デビュー

 十一月十五日水曜日。

 サロンの工事が終わり、グランドピアノが搬入された。

 搬入後調律され、納品が完了すると、試しに弾いて下さいと言われ、僕が最初に弾かせてもらった。業者さんいるから控えめに…。

 ラ・カンパネラを弾いて、音を確かめる。

 鍵盤はいつも弾いてるピアノよりちょっと重い感じがするけど、音はいい。

 また音がずれたら調整に来てくれるということで業者さんが帰った。


 早速、僕が今弾ける曲を弾いてお手本を見せる。

「どう、弾けそう?」

 リリアナがにんまりして頷いた。

「やっぱテンペストかな。」

 リリアナがアンドレに向かって両手を広げ目を瞑る。本日も長いキス、しかも気のせいか、舌…入れてないか?うぅ、幼児相手にそれは…。

 ピンクの光の粒子に包まれ、ジュリアンが実体化する。今日はまた目元がセクシーな気がする。

 中性的な容姿と、スタイルの良さ、すべてが完璧な気がする。

 ジュリアンがピアノの前に座り、少し呼吸を整える。

 アンジェラが用意した撮影機材とスマホ二台を使って少しずつ角度や距離を変え準備ができたら合図をする。

 ジュリアンが目を瞑り、長いまつ毛を伏せがちに薄く目を開けたかというところで、演奏が始まった。

 サロン全体の光量が増し、空気中のエネルギーがところどころで小さなシャボンのようにはじける。

 クライマックスでは、花のような光のプリズムがキラキラと煌めき幻想的な雰囲気を出している。弾きながら時々目を開け、瞬きするジュリアンはとても魅力的だった。

 身内だけれど、ドキドキが止まらない。アンジェラのライブを見た時みたい。

 極めつけは、演奏終了時に軽くウィンクして口パクで何か言ったこと。

 ビデオを止めてアンジェラから一言あった。

「世界中の男がお前を探し回りそうだな。」

「え?男?」

「あぁ、男なのに男が好きな…。」

「皆まで言うな~。で、最後何て言ったの?」

「Lock on you.だろ?」

「くぅ~。いやらしい…。」

 デモビデオの撮影は一発でオッケーだった。

 アンジェラはその場でデータを事務所に送る。

「明日、編集したものをまたオンラインミーティングで再考するから。」

 そう言って撮影は終了した。

 リリアナとアンドレに戻った二人は、いつの間にかキッチンでイチャイチャしながらプリンを食べている。味見とか言いながらチューしてるし…。なんの味を見ているんだか…。

 二人のくっつき具合を親の気持ちになりつつ気に病みながら、ドッと疲れて昼寝をしてしまう僕だった。


 翌日、編集済みのビデオが送られてきた。

「ヤバい。マジ、ヤバい。」と編集を担当したスタッフがオンラインミーティングで騒いでいた。

 このままこのビデオをストリーミングで配信したいと言われ、アンジェラもオッケーを出した。

 元手がゼロでどれだけ稼げるかって感じでしょうか。

 そして、翌日…たった十秒のCM用のショートビデオを、アンジェラの芸能事務所のウェブサイトにアップしたら火が付いた。

 ネットの話題はジュリアンだらけ。

 リリアナがエゴサーチして白目がちになっていた。

『この美少年はだれ?』

『どこに住んでいるかおしえて。』

『一発やりたい。』

『シモベになりたい。』

『踏まれてみたい。』

『他の人間がサルに見える。』

『生きててよかった。』

 確かに、男の書き込みが多そうだ。

 ストリーミングのダウンロード回数がデイリーランキングの一位だったらしく、周囲が熱くなっている様だ。


 一夜明け、アンドレとリリアナはクールなもので、我関せずという感じで、さっさとユートレアに遊びに行ってしまった。

 後に知ることになるが、リリアナは一日に四時間、一時間ずつ別の日に転移してちびっこアンドレに読み書きや算術、外国語など、いろいろなことを教えていたらしい。

 ずるいと思うが時間を超えてどんどんアンドレに知識を与えているのだ。

 そして、不思議なことも起きていた。

 こちらで四時間使うと、過去のアンドレは週一で一か月をリリアナと過ごしている。

 当然回数を重ねると身長も伸び、成長していく。そして、ちびっこアンドレの成長に合わせるように、リリアナも少しずつ成長していた。

 ユートレアに行き始めて五日目、行った先では五か月経っている。

 アンドレの報告では、リリアナが転移し、ちびっこアンドレに近づいて触ると、アンドレが大きくなっている分を補正するようにリリアナが大きくなるんだとか…。

 一か月も経つ頃にはリリアナは七歳ほどの大きさになっていた。

 不思議な現象に気づいてからは、服のサイズがどんどん小さくなるので、買い替えが大変だった。

 アンジェラに出してもらったお小遣いはちびっこアンドレの教材を用意するのに使っているようで、ある意味、自分の未来の夫に投資しているのだとリリアナは言っていた。

 アンドレに聞くと、一緒に過去に行って見守っているのだが、戻ってくると、過去に自分自身が体験し、美しい思い出としてちゃんと記憶に残っているらしい。

 日々の積み重ねで二人の結びつきはかなり強固になっている様だ。


 そんな忙しい生活の中、芸能活動中のジュリアンも順調で、相変わらず正体不明の美少年についてネットでは騒がれているらしい。

 決して生でメディアには出ないように心掛け、余計に注目を集めているらしい。

 第二弾として日常の生活の様子を撮ったビデオを編集したものを出すとアンジェラが言っていたけど…。どこで撮影するんだろう?


 十二月十五日木曜日。

 頼んであった身分証明書が届いた。

 アンドレとリリアナはジュリアンじゃない方の金髪の青年に合体変化をし、どこかへ出かけて行った。

 戻ってきたときには、アンジェラと僕へのプレゼントを持っていた。

 リリアナが黙っててごめんと言いながら金塊の話をしてくれた。

 少し換金したので、プレゼントを買ってくれたのだという。

 うれしくてまた目頭が熱くなった。でもプレゼントの中身が…大うけ。金の延べ棒だった。


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