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レーダー、悪代官を殺す  作者: 七条 泰啓
レーダー、悪代官を殺す
3/8

レーダー、いけ好かない貴族から仕事を請けて偵察に向かう

 流石に慣れてるのか、領主のとこの門番はギルドの紹介状を見せたらすぐに通してくれた。

 そりゃいいんだが、領地は普通な感じなのに妙に館がでかかったんだ。

 二階建てで回廊までついてやがった。しかも壁の木板がまだ白いから最近になって建てられたみたいだったんだよな。

 やっこさん、命でも狙われているのか知らんが、中に入る時に武器を取り上げやがった。別に俺は殺しに来たわけじゃないし、いざとなれば武装してる領主の手下から奪えばいいんで、ナイフと剣はすぐに手渡した。

 代官は敷地の中でも特にでかい建物に居た。二階の広間に通されたんだが、調度品がとにかく豪華だったんだ。ビックリしたぜ。

 別に色々と比較するほど騎士とか領主の館を見て回ったわけじゃないが、それでも燭台がよくある青銅じゃなくて銀色にピカピカしてたり、代官のゴブレットにゴテゴテと宝石がくっついてたりすると違和感あるわな。

 しかも、想像してみろよ。それが窓枠にハメられた透明の板から差し込む光でギラギラ輝きやがるんだ。イヤらしいだろう?

 身分的には単なるバーロア公の臣下の騎士に過ぎないと聞いていたんだが、その割には贅沢し過ぎだったんだよな。

 あんまりにもあんまりだったんで思わず「なんじゃあ、こりゃあ」ってため息と驚きが出てきちゃったんだよな。

 で、あの野郎、大物ぶりたかったのか目の前に案内したクセに書きものをして俺を待たせやがるんだ。

「ふむ、名前は?」

 書くのが終わったのかペンを置いた男が鷹揚ぶって言ったんだが、待たされたのにムカついてたんで俺は素っ気なく名前だけ答えた。

 何が気に入らないのかって偉そうな態度もそうなんだが、それ以上にでっぷりと太った腹とむくれすぎて指輪が抜けなくなった指を見ると明らかに動けなくて弱そうな奴が騎士やってるのが気に入らないんだよな。

 騎士ってのは戦うことでその地位を担保されるもんで、その力がないのに地位にふんぞり返ってるってのがどうしても我慢ならんのだ。

 俺が持たざるものだってのはそのとおりだけどよ、別にうらやましいってわけじゃないな。

 ギルドの紹介状を要求されたから木札を掲げてやると、ヤツの家来がそれを取り次いだ。

 ヨソものが直接手渡すのは無礼だからとかいうなんだかよく判らん風習のせいらしいが、まああんなのに近づきたくもないんで助かったってもんだ。

 だが、あの野郎は俺の態度が気に入らなかったのか、眉をひそめて隣に侍していた痩せた男に何か言った。あっちは多分執事か何かだったと思う。

「無礼な男だな」

「野卑な冒険者ですから」

「フン」

 代官は不機嫌そうに鼻を鳴らしたんだが、太った見た目と相まって豚にしか見えなかった。

 どっちかって言うとあんなのに使われるのが気に入らなかったんで、俺のほうが不機嫌になりたかった。

 さっさと出て行きたかったからすぐに仕事の話をした。

「税金の取り立てと聞いたが、幾ら取り立てたらいいんだ?」

「村全体で5000ミールだ。さっさともってこい」 

 答えた執事もあからさまに見下した口調だった。冒険者は命令を聞いて当たり前という態度。野良犬を見るような目。すべてが気に入らない。

 だが今揉めても何もいいことがないのは判りきっていたから話を進めた。

「はじめての土地だが、案内は?」

「村との往復には兵をつけよう。信用していないわけではないが、回収した金を失くされると困るからな」

 まるで信用してねえじゃねえかなんて思ったが、並の冒険者だと余計に徴収したり集めた金持って逃げたりするんだろうな。

 俺は前金で女抱いた時点でこの仕事を請ける目的は果たしちまったからそんな面倒なことするつもりないんだが、仕事は仕事だからキッチリ片付けることにした。

「いや、取り立ては明日だ。今日は村の様子を見てくる」

「様子?」

「ただの旅人のフリをする。兵士がついてくると財産を隠すかもしれん」

「なるほど。流石、ギルドが送ってくるだけあってプロだな」

「だが、」

 気になるのは、代官がこれだけ贅沢をしているというだ。そのためにかなりの重税をかけていてロクに取り立てるモノが残っていないんじゃないか?

「本当に取り立てる金がなかったらどうするんだ?」

「家財を差し押さえるか何かしてでも回収しろ」

 きつい言いつけである。だが、客の要求は絶対だ。

「了解。じゃあ、取れそうなものがあるか見てくる」

 適当に会話を切り上げて館を出た。

 屋敷の庭で待つように言われ、しばらくすると案内役の兵士が現れた。 

 そいつらの見た目のはみすぼらしいこと。街にいたら不良集団に居そうな、チンピラみたいな感じだ。

 それに前後を挟まれて村に向かった。

 案内されているというより、連行されているような気分だ。

「あれだ」

 林を抜けた先にある柵を指して兵士が言う。側を流れる川沿いに畑が広がっている。

「存外に近いな」

 明け方にモカールを出て、代官の所に寄ったりもしたがまだ昼前だ。

「偵察してくる」

 そう言って兵士たちと別れたのだが、正直に言って望み薄っぽかった。

 遠くから見てわかるくらいに柵がボロボロで、穴の空いた箇所が放ったらかしだし、カカシにはボロ布すらつけられていない。

 要するに余裕が全然ねえんだな。多分、今日のメシにも困ってる感じだ。

「どうやって回収すっかね」

 ないものは取れねえから、何かしらの物品を奪って売り払うくらいしか手はないだろう。

 だがそうなると、金取るのなんかよりも遥かに激しく抵抗しやがるんで面倒くさい。

 ま、中に入れば何かしらあるかもしれねえ。

 でもたいていの村は勝手に入り込むと不法侵入で罪に問われる。最悪の場合、住民にフクロ叩きにされて命を落とす。

 連中がよそ者を拒む理由は領主の命令だったり、盗賊の侵入を警戒してのものだったりと様々だが、大体はよそ者は敵、みたいに考えてやがる。

 とはいえ、貧乏農民程度は返り討ちにできる俺にしてみれば別に怖くもなんともねえから普段なら気にせずに入っちまうんだが、今回は善良な旅人を装う必要があったから少し離れたところで雑草を抜いている村人に声をかけた。

「おうい、おぉい」

「はぁい」

 娘が返事をしてこっちにやってきた。

 長い赤髪のスラッとした娘だ。腰の細さの割に胸が大きい。

 栄養状態はあまり良くないようで、肘などは骨ばっているが、ほっそりとした頬と涼し気な目つきは俺の好みにピッタリだった。

「どなた?」

「レーダー。旅人だ。飲み物が欲しいんだが、売ってもらえないか」

「はあ、どうぞ村の中に」

 割とアッサリと案内してもらえた。

 村の構造は普通だ。柵に囲われた村の周りに広がる畑。土壁や木造の平屋の家が両手で少し余るくらいで、おおよそ円形に、中央の井戸のある広場を囲う形で並んでいる。入り口から真っすぐ行った奥には礼拝所がある。多分、豊穣神あたりが祭神だろう。見てないからわからなかったしどうでもいいけど。

 娘はおもむろに井戸に近づくと、つるべを放り込んだ。

 ガラガラと引き上げる娘に尋ねた。

「できればワインとかを売って欲しいんだが」

「ないです」

 あっさりとしたもんだ。

 だが、どうも嘘じゃないらしく彼女自身も引き上げた桶から水を手ですくって飲み始めた。

「ウウム」

 唸るしかなかった。

 ワインくらいあるんじゃねえかと思ってたんだが。

 しょうがねえから周囲の家を見回していると、煙突から煙を出しているものがあった。

 注意してみると、かすかだが食欲を刺激する匂いがしてきた。

 ちょうど飯時か。都合がいい。

「あと、できれば昼飯を分けてほしい。ナンなら金は出すから」

 図々しいが、旅人はよくこういうふうに食事をせびる。持ち歩いている保存食を消費するより、村にある新鮮なものをできるだけ食べたいからだ。

「ちょっと……みんなに相談してみます」

 少し躊躇した彼女は、控えめにそう言った。

 俺にしちゃあ断られても構わねえんだが、同じ鍋の飯を食えればどういった状況なのかを確認できる。

 水を口にするが、嫌な泥臭さがある。毒はなさそうだが、うんざりする不味さだ。

 チビチビやっていると、農具を持った連中が連れ立って村に入ってきた。

 畑を耕しているんだろう、日焼け具合は割合と健康的だが、やっぱりどいつも痩せている。

 どんどん礼拝所に入っていく中のひとりを娘が呼び止めた。

「おっとさん、この人がご飯食べたいって」

「あー、村長にきかねえとわかんねえな」

 応じた中年男がそう答えた。

 責任を取りたくないんだろうな。タライまわしされた。

 そりゃ、苛立ったけどここは我慢することにした。流石にこの程度で暴れて仕事を無意味に面倒にするほど愚かではないのだ。

 しばらくすると、男が礼拝所から出てきて声をかけてきた。

「みんなが食べた残りならいいってよ」

 ということで、待つことになった。

 靴先で床を叩きながら飯を食っている村人を睨みつける。

 木製のコップに入ったあからさまに薄いスープをちびちびとすくっているのだが、どいつもこいつも具が殆ど無い。あっても豆か得体の知れない葉っぱだ。

「チッ」

 どう見ても困窮している。

 税金を取り立てようにも金はないだろう。食うものに困っているこの様子だと、換金できるようなものもないに違いない。

 つまり端的に言えば、

「面倒だな」

 とため息をつくしかない状況であることが分かったのである。

 結局、ただでさえ薄くて具のないスープの残りを飲んだのだが、ほとんどお湯みたいなものだった。

 ワインなんかあるわけもないし、今回の偵察の成果はこの仕事が本当に面倒なだけの案件であることがわかったということぐらいだ。

 げんなりした気分で俺は村を出た。

 一応カネは払ったがそもそも貰ったものが大したモノでないので僅かな額だったのだが、銅貨を渡すととても感謝された。

 結局はこれもあとで取り立てるのでなんともいえない気分だったが、この感謝されるというのがまた、奴らが金を持っていない証拠なので、仕事への意欲を削ぎ落とさせた。

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