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日常のようなもの 3

 何をするにも自分から決して行動しようとはせず、周りが行動に移しても積極的に同じ行動を取れない。


 極度の引っ込み思案。それが俺だった。



 今でも、あの時素直に元男だと打ち明けられていたら、と何度も後悔している。


 忘れられない、同じ境遇の者同士の自己紹介の時。各々自らの情報を晒していく、秘密を打ち明けるには絶好の場。


 緑髪や銀髪小人など全く同じ秘密を抱えた者もそれを打ち明けていたというのに、俺は打ち明けることが出来なかった。

 それどころか、何をとち狂ったのか、何処ぞの毒舌系ヒロインのような態度を取ってしまっていた。


 何やってんだ俺、どころの話ではない。いくら転生で混乱していたとしてもあれはなかった。


 そんな絶好の機会を逃した後、迎えたのは男女の棲み分け。いくら同じ境遇の者同士でも、完全に心を許すには時間が足りなかったのだろう。


 それにより、男、女、性別が変わってしまった者の三つに分けられたわけだが。


 当然秘密を隠したままの俺が、性別が変わってしまった者の集まりに入れるわけがなく、女性陣の中に放り込まれることに…。

 それから、方針が決まり、皆各地にバラバラに旅立つまで地獄のような日々を送る羽目になった。


 あの日々のことは思い出したくもない。

 取り敢えず言えることは、俺が元男だとバレたら間違いなく殺される。ことだけだ。



 そして、それは今でも変わらない。



 俺が秘密を打ち明けたのは、旅立つ時に一緒に行動していた緑髪と紫髪。

 とある国で再会を果たし、仲良くなった黒髪剣士と銀髪小人の四人だけだ。

 無論この中に女はいない。いたら死んでる、割とマジで。


 そんなレベルの話だから、現代に帰還してからそれなりに関わりが出来たとはいえ、女である赤髪吸血鬼や金髪エルフにも教えているはずがなく。


「…マジでどうしよう。本気でバックれたいんだけど……」


 何を隠そう。俺はピンチだった。




 銀髪小人と料理を作った次の日の昼下がり。

 緑髪と黒髪剣士から全力で就活を止められた俺は、居間で頭を抱えていた。

 悩みの種は言うまでもない。来週日曜の集会についてだ。


「今から悩んでもしょうがないって。まだあと一週間以上も先の話だよ。ほら、コーヒー淹れてきたからさ。飲みなよ」

 

 台所から戻ってきた銀髪小人が、両手に掴んでいたカップの一つを渡してきた。

 カップを受け取り、一口。


「…甘い」

「けど美味しいでしょ?」

「うん……少し頭痛が落ち着いてきたかも。ありがと」

「そりゃよかった」


 ようやく頭を上げた俺に、銀髪小人が笑いかける。

 優しい気遣いからの優しげな笑顔。

 元男だという情報がなければロリコンに目覚めていたかもしれない。

 なんてしみじみ思いながら、大きな溜息を吐いた。


「まだ悩んでるの? もう、ほら。あの時みたいに振る舞えばいいじゃんか。どうせ僕ら以外皆秘密を知らないんだし」

「それじゃダメなんだよ…」

「えー、なんでさ」

「お前らが知ってるからだよ! あの時は誰にも知られてなかったから出来たんだ。本性を知っている人の前であんなことできるか! 恥ずかしくて死ねるわ!」

「って言われてもね。僕にはどんな感覚か分からないからさ。分かりやすく例えるならどんな感じ?」

「……親や親戚にSNSの裏垢を知られた時のような感じ」

「あー……そりゃ辛いね。うん。その気持ちすっごい分かるよ」


 身に覚えがあったのか、遠い目をする銀髪小人と二人で溜息をつく。


 暫し沈黙が流れる。


「……でもさ」


 数分にも及ぶ静寂を破ったのは銀髪小人の方だった。


「…なに?」

「ソラちゃんは秘密を他の人にも打ち明けるつもりはないんだよね?」


 小さく頷く。

 仲が良いコイツらに打ち明けたことですら後悔してるのに、関わりが薄い他の人になんて打ち明けたくないしそんなつもりもない。何より殺される。


「じゃあ結局、演技するしか選択肢はなくない?」

「……行かないっていう選択肢がある」

「それはやめといた方がいいと思う。ネタじゃなくて本気で」


 昨日と違い、真剣な顔で告げる銀髪小人。

 思い当たる節がない、わけではない。

 むしろ、今回の集会の半分くらいそれが目的なのだと確信していた。


 今まで転生者仲間の誰しもが心の何処かで考えていたこと。それはーー


「魔王討伐したのが誰なのか…って話だよな」

「うん」


 ーーそれは、俺たちを現代に帰還させる条件を果たした者が誰なのか。そんな疑問だった。


 素晴らしい快挙だというのに、誰一人、名乗り上げることをしない。

 故に、誰が討伐したのか不明のままだった。



 まぁ、十中八九関わりが薄い者の誰かだろう。

 と言うのも、俺の異世界での最後の記憶は、魔王討伐に向けて、緑髪、紫髪、黒髪剣士、銀髪小人と共に二年の間滞在した王国を出発した、ところで途絶えていたからである。

 命を掛ける覚悟とか決めていたのに、いざ旅立てば数分歩いてミッションクリア。俺たちの努力は一体何だったのだろうか……? 




 …話を戻すが、普通なら魔王を倒したら名乗りあげるはず。

 それをしないと言うことは……つまり、俺みたく極度の引っ込み思案体質なのだろう。


 同じ体質持ちの俺としてはその気持ちが良く分かるし行動も理解できるのだが。

 おそらく他の人には理解できていない。


 大方、何か秘密を隠しているから打ち明けないとか考えているに違いない。だからこそ、見つけようとしているのだ。


「で、行かなかったら後ろめたいことがあるから出なかったと俺が疑われるってことか。くだらない話だな」

「まぁ有力候補には入れられるだろうね」

「はぁ……別に俺は疑われても良いんだけど」

「そうなったら一緒に暮らしてる僕たちまで疑われるよ。僕としては極力転生者仲間同士の人間関係のいざこざは起こしたくないね…」


 再び溜息を吐く。

 選択肢が二個潰れている以上、答えは決まったようなものだった。


「…絶対笑わないでくれよ。ネタに使わないでくれよ」

「うん、約束するよ」






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