バロック邸とマギー婆や
「あまり顔を見られないように、少しうつむいて歩いてちょうだい。必ず離れずについてくるのよ?......アラサス」
森を出ると服にヘレナを隠したソフィがスタスタと歩いていく。ヘレナは光の妖精であるため、どうしても目立ってしまうからだ。
慌てて建人と麻李が着いていこうとしたが、ソフィは振り返らずに歩いていってしまったので、見失ってしまった。
「ソフィ様どこ行ったんだろ?僕も初めてだから分からないや。とりあえずここは人が多いから路地に行こうか」
はぐれてしまった二人は側にあった路地へ駆け込んだ。そして人通りが激しい大通りを眺める。
「ソフィは戻ってくるかしら。いないと気付けば良いのだけど。......あれ?何か引っ張られてる気がしない?あっちの方」
麻李の言葉に建人は頷く。
確かに糸で引っ張られているような感覚がある。
「とりあえず行ってみるか」
二人は導かれるように路地裏の奥へと入った。複雑な道を引っ張られるがままにくねくねと進んでいく。しばらくすると、ある1軒の古民家の前にソフィが佇んでいるのが見えた。
「やっと来たわね。一応導きの魔法をかけておいて良かったわ」
自分に駆け寄ってくる二人をみたソフィは呆れたように言った。
「ここには唯一私が信用している人がいるの。今日はここに泊まるわよ。暗いから分からないでしょうけど、もう夜だからね」
ソフィが入り口のドアを開けると、今まで被っていたフードをとり、受付のようなカウンターにいた人が顔をあげた。
「まぁ、久しぶりねソフィ様。随分綺麗に育ったこと」
「お久しぶりです、婆や。私の部屋は空いているかしら?使いたいのだけど」
「もちろん空いていますよ。いつでも入れるように準備してありますからごゆっくり」
婆やと呼ばれた女性は闇の国では珍しいふんわりとした笑顔で1番奥の部屋へ案内してくれた。
部屋に入ると、建人と麻李は目を細めた。闇の国は暗いにも関わらずこの部屋は光の国のように明るい。その部屋にはベッドとソファー、テーブル、クローゼットなど、生活に必要な家具が揃っている。
「ここは私の隠れ家のような所よ。さっきのマギー婆やは味方よ、安心してちょうだい。......イトラク」
服にかけた魔法を解いたソフィは建人と麻李にソファーを勧め、上着を脱ぎながら説明する。部屋に入った瞬間飛び出てきたヘレナはテーブルの上のクッションに腰かけている。
「さて、落ち着いたところで麻李には詳しい事を説明しないといけないわね。魔法界の終わりについての説明がまだだったわ」