光と闇
「はっきりと言っておこう。俺はソフィの兄だ」
次の日、朝食中にピーターは語りだした。
「母上は光の王女、父上は闇の王子だったんだ。隣り合う2つの大国は親交を深める為に子供を結婚させた。母上は闇の国に嫁入りしたんだよ。
僕は父上に育てられた。きっと息子に王の座を継がせたいという親心だろうな。それに対して、ソフィは母上に育てられた。父上は俺に付きっきりで妹であるソフィには見向きもしなかったからだ。初めは特殊な環境である割には仲良くしていたと思う。ソフィとスイと3人でよく遊んだからね。
しかし、父上が病気になってから状況は変わった。僕が闇の王の力を受け継ぐことになって、儀式を行ったからだ」
そこまで話すと、ピーターは左目の眼帯を外した。隠されていた薄茶の瞳には黒い魔方陣が写っている。
「この瞳が闇の王である証だ。まぁ俺は政治が出来る年齢じゃないから王子のままだがな」
「俺が力を受け継いだ後、ソフィは母上から光の王の力を受け継いだ。ソフィの右目は前髪で隠れていただろう?隠れている瞳には金色の魔方陣が輝いているはずだ。ちなみに、力を受け継ぐ代償として俺らは片目の視力を失っている。当たり前だな。僕の左目は闇を、ソフィの右目は光を司っているのだから。俺の片目の視界は真っ暗、ソフィの片目の視界は眩しすぎて真っ白だ」
「話を戻そう。力を受け継いだ俺は、闇を惹き付けるようになった。この城に一緒に住んでいたソフィは僕と一緒にいると光が遠ざかるから、精神的に参ってしまったようでね。ソフィは家出してしまったよ。もちろんソフィだって力を受け継いだから、ソフィは光を惹き付けるはずだ。けど、兄である俺よりは力が弱いみたいだった。
そして一年くらい前、ソフィは家出してしまったよ。光が光の国に集まっているようだからきっと光の城に行ったのだと分かっていた。でも俺が行くと、光の国まで闇に染まってしまうのだよ。
だから近づけなかった。その時にちょうど仲が良い姉妹が光の国でかくまわれたとしたら?きっとソフィは助けにくる。だから俺は唯一信用できている側近のスイに君を連れてくるように言ったんだ。
これがこの世界の状況と君をさらった理由だ」
話し終わったピーターは「質問はあるか?」と麻弥に尋ねた。麻弥は少し考えた後、ピーターに聞く。
「どうして魔法界全体を闇に染めようと思わないの?」
しかし、ピーターは麻弥に向けていた視線を外すと、微笑を浮かべて「どうしてだろうな......」と呟いただけで、答えてくれることはなかった。