スイとピーター
スイに連れられてきた部屋は他の所と同じく色は暗いが豪華な家具が置かれた一部屋だった。スイはクローゼットを開けると、中の服と麻弥を見比べ、一着のドレスを取り出した。
それをベッドに広げると、ずっと被ったままだった魔女のような帽子を脱ぐ。あらわになった顔を見て麻弥は呆然とした。スイは青年だと思っていたが、ウェーブのかかった黒髪のきれいな女の子だった。思わず見とれていると、スイはムッとしたように罵りだした。
「ほら、私の顔を見ると皆そんな顔をするのです。だからマントも帽子も取りたくないと言うのに、王子の護衛騎手に私しか女がいないからと言って着替えの手伝い役に選ばれるなんて。私はこのような顔に生まれるくらいならばもっと強い剣士に生まれたかったですわ......」
そこまで言うと、ハッとして「申し訳ありませんっ」と麻弥に頭を下げた。麻弥が「大丈夫ですよ」と言うと、ホッとしたように麻弥に着せるつもりのようなドレスの準備を進める。
「私ごときがこんな服を着るんですね。後、スイでしたっけ?そんなに丁寧な口調で話されると気になるから口調を崩して欲しいんだけど......」
ドレスを着るのを手伝われながらスイに言うと、スイは首をふって答えた。
「そういう訳にはいきません。あなたは王子が招いた正式なお客様であり、私はお客様付きの世話係として派遣された王子の側近ですから。まぁ、私が側近になった理由は王子の幼なじみであるというだけですがね。小さい頃は王子とその妹姫と遊んだものです」
麻弥を着替えさせて、髪を結ったスイは部屋を出ていった。主人という立場になれない麻弥は疲れてベッドに横になった。すると、枕の下からガサッと音がする。枕をどけてみると、一枚の写真があった。
「え?」
写真を見た麻弥は思わず声を漏らした。その写真には満面の笑みでピーターと......ソフィが写っていた。それを眺めていると、部屋のドアが開いてピーターが入ってきた。
「そんな写真が部屋にあったのか。スイにはちゃんと片付けろと言っておいたはずなんだが。まぁ、スイがわざと置いたんだろうな」
麻弥から写真を取り上げて、独り言のようにピーターが呟いた。
「そんなにじろじろ見るんじゃない。明日ちゃんと説明してやるよ。だから今日は大人しくしてろ」
それだけ言ってピーターは部屋から出ていった。
[裏設定]
幼なじみで側近という立場で登場するスイはピーターの嫁候補だが、友人という立場を守りたいと訴えて拒否している。