決断
「皆、配った本は読んだか?」
次の日、朝食の席でピーターがたずねる。皆が頷くと、ピーターは昨日と同じように部下を下がらせると、再び防音の半球を作った。
「運命の子は神々の子孫、その中でも能力を引き継いだ直系の子孫だ。予言ではこの6人が集まるとは書いてあるが、その後どうなるかは書いていなかった。だから能力が使いこなせるようにしないといけないんだ、念のためにね。」
そう言うピーターの表情は真剣そうだ。
「お兄様、その様子だと何か不穏な情報があったのですね?」
黙り込んでしまったピーターにソフィが聞く。ピーターは周りの国々にスパイを送り、定期的に情報を集めているのだという。
「実は隣の国で内乱が起こっているらしい。その飛び火が来るかもしれない。」
内乱の原因は不明、規模は小さく嫌がらせとも捉えられるもの。しかし、王宮付近で起こっているため、内乱と思われると連絡が来たらしい。その国は光の国と闇の国の両方と接している国で農業が発達しており、多くの国へ食糧を輸出しているそうだ。
「1番危ないのは建人かもしれないわね。建人を利用すれば大きな内乱が起きても貿易は維持出来るもの。」
建人の能力は植物を操るものだ。使い方に慣れれば何もないところから森を造り出すことも可能なのだ、とソフィは言った。
「そうだ。見つかれば捕らえられる可能性が高い。......そこで建人、麻李、麻弥の3人にはここに残るか人間界へ帰るか決めて欲しい。」
ピーターは名を挙げた3人に目を向ける。すると麻弥は不思議そうに首をかしげた。
「でも3年に一度しか繋がらないでしょ?どうやって戻るの?」
人間界と魔法界は普段は繋がっていないが、3年に一度接するとされている。繋がっていない世界に移動することは出来ないはずだ。
「その事なんだが、1つだけ戻れる方法がある。」
ピーターは麻李の方を向く。ぼんやりと会話を聞いていた麻李は大きくため息をつくとうなだれた。
「......私の能力ね?私の祖先は時空間に世界を造り出したって書いてあったもの。でも、出来るとは思えないわ。」
まだ基本魔法すら使えないのだと訴えるとピーターは頷く。
「どっちを選んでも魔法の練習は必要だ。だから麻李に可能かどうかはひとまず考えずに3人で話し合ってくれ。」
そう告げるとピーターはソフィとスイを連れて食堂から出ていった。
「僕は麻李についていくよ。せっかく再会出来たのだから。」
曇りのない眼差しで麻李を見つめる建人の言葉に続いて麻弥は頷く。
「お姉ちゃんはどうしたい?」
麻李はうつむいて考え込んでいる。
「......私は戻りたいけど、魔法が上手くいくとは限らないでしょう?2人を危険にさらす訳にはいかないわ。」
妹島である麻弥はもちろん、ようやく再会できた建人にも安全なところで過ごして欲しい、そう考える麻李はすぐに決断は出来ないと結論づけた。