森を抜けたら
「麻弥、待ちなさい!」
8月、お盆の真っ只中。おばあちゃん家へ遊びに来ていた麻李は麻弥を呼び戻そうとした。しかし、麻弥は駆け出してしまう。麻李は14才。7才の麻弥を止めるのは荷が重いようだ。
「もう......落ち着きがないなぁ」
仕方なく追いかけていると、麻弥は森の方へ走っていく。確かおばあちゃんに裏山には行っちゃいけないと言われていたはずだ。
「おばあちゃんに森には入るなって言われたでしょう?言いつけちゃうよ?」
「ちゃんと帰れば大丈夫だよ、お姉ちゃん」
1人で行かせるのは心配なので走っていく麻弥についていくと、いつの間にか森のずいぶん奥に来てしまったようだ。
「麻弥?本当に帰れるんだね?」
「お姉ちゃん、道分からないの?お姉ちゃんがついてきてたから大丈夫だと思った」
どうやら完全に迷子になってしまったようだ。
「もう、だから森には入るなって言......麻弥、どうしたの?」
「お姉ちゃん、見て!ちょうちょがいるよ!ちょうちょって明るいところに行くよね、ついていってみない?」
10分ほどたっただろうか。こんな山奥にいてもどうしようもないので、とりあえずついていった麻弥と麻李の目に信じられない光景が写った。
「お姉ちゃんあっち見て!ちょうちょがいっぱい!」
興奮して駆け出す麻弥についていくと、たくさんのヒラヒラと舞う光に囲まれて1人の女の子がこちらを向いて立っているのが見えた。そしてもう1つ、ちょうちょだと思っていたヒラヒラと舞う生き物には人間のような体があった。
辺りを見回していると、女の子が歩いてきた。白い肌にすらりとした手足、赤いリボンをつけた髪の毛は太陽のように輝き、長い前髪は右目を覆い隠している。
「こんにちは。ヘレナが誰か来たと言ったからどんな子かと思ったら、人の子供ね」
「私達は人間だけど、あなたは誰?ヘレナって?それからここはどこなの?」
「私はソフィ。ここにいる妖精達の面倒をみているの。それから、この子がヘレナよ」
ソフィの視線の先には麻李と麻弥が追いかけて来た妖精がいる。
「それと、ここは魔法界よ。あなた達、名前は?」
「私は麻李。この子は妹の麻弥よ」
「そう、私についていらっしゃい」
麻李は素直に頷いたが、麻弥は不満げな顔をしている。
「ねぇお姉ちゃん、ソフィ。私ここで妖精さん達と遊んでたいな。ダメ?」
麻弥が聞くと、ソフィはヘレナに目配せして頷く。
「いいわよ。ヘレナから離れないでね」
そう言って、歩き出した。しばらくするとお城が見えてきた。
お城の一室に連れてこられた麻李は部屋の広さに目を丸くした。どうやらここは図書室のようだ。部屋を見回していると、ソフィが部屋の奥から分厚い本を持って戻ってきた。
「これを見てちょうだい」
ソフィが示したページには来訪者について書かれていた。
「ここには3年に一度時空が重なり、来訪者がやってくると書いてあるわ。そして今日は前回来訪者が来てからちょうど3年、つまりあなた達2人は正式な来訪者ということよ」
ソフィは深刻な顔をしている。
「正式な来訪者であることに問題があるの?」
「人間界から来訪者が来た時、魔法界には大きな変化が訪れると言われているわ。それは政治に関わるものや、気候の変化、時によって様々よ」
ソフィは本を指で示しながら語る。
「そして、来訪者が来ても異常の気配がない時、この世界は終わりを迎えるの」
本をパタリと閉じたソフィは麻李の方を向くと、真面目な顔をして続ける。
「普段来訪者が訪れる時は数日前から異変が起こるわ。それに併せて来訪者を受け入れる準備をしていたの。でもね、今回麻李と麻弥がやって来たのには予兆がなかった」
「つまり、私と麻弥はこの世界を終わりへ導いてしまうという事ね。私達が人間界へ帰れば問題ないのではなくて?」
麻李が聞くと、ソフィはゆっくりと首を振る。
「今回はある意味異常なのよ。毎年来訪者は3人ずつ来ていたのに、今回は2人だわ。そう言えば、去年は1人だったわね」
ソフィが不思議そうに首を傾げた瞬間、ヘレナが大慌てで窓から飛び込んできた。
「大変よ!麻弥が黒の王子にさらわれちゃったの!」
ソフィはヘレナの方にパッと振り向いた。
「何ですって?」
私の2つ目の小説です。去年書いた小説をアレンジしながら投稿していきます