8
その日の夜に、コウスケに電話をした。
第一声は決まっていた。
「やっぱりさ、お前のこと嫌いだわ。」
「は?」
素っ頓狂な声に、ついつい笑いが漏れてしまう。
「お前って、やっぱ凄い奴だから、お前なら、お前ならって自分と比べて虚しくなっちゃって。」
「えっ、いきなり何?」
「それでいて、いい奴でさ、頼れよとか言われるとついつい甘えちゃいたくなるんだよね。」
冗談めかした言い方をしているけど、紛れもない真実だ。
「…なんか気持ち悪いな。」
「気持ち悪いって酷いな…」
「それで何?
宿題でも写させて欲しいの?」
「ちげーよ。
てか、お前の奴なんて見ても間違えだらけだろ。」
「なんだよ、さっきまで褒めてたくせに…
まあ間違いねえけど。
じゃあ、『いじめ』の話とか。」
なんだかんだ言って、こいつは鋭い。
自分からその言葉を言わなかったことに安堵しながら、答える。
「そういうこと。
それで…」
「何やればいいの?」
こちらの言葉を遮ってまでの反応に、今度はこっちが素っ頓狂な声をあげた。
「ん?」
「何その反応。
まだ決まってなかったりするの?」
「いや、大体決まってるけど…」
「じゃあ早く言ってよ。
もう眠くってさ。」
欠伸交じりに言われた言葉に、思わず聞き返した。
「もしかしたら、お前に全部押し付けるだけかもしれないんだぞ、別に断っても…」
「良いよ、別に。」
「いやいや、よくないだろ。」
「良いんだよ。
お前はさ、ちょっと根詰めすぎなんだって。
自分で、自分でって。
こっちに相談もないかと思ってたし。
だからさ、いいんだ。」
その言葉に、息が詰まって。
受話器の奥に、息が漏れないように意識した。
「やっぱり、お前のこと嫌いだわ…」
「またそれか。」
しょうがないじゃん、それしか出てこないんだから。
言葉を飲み込んで、呼吸を置いた。
「それで、やってもらいたいことなんだけど…」
「うん。」
「取り敢えず、明日の朝教室にいること。」
「…それだけ?」
「そんで、雰囲気を作って欲しい。」
「雰囲気?」
「そう。
『流石に酷すぎだったよね。』『俺は最初からヤバいと思ってたんだよ。』
『あいつらマジで最悪だよな。』って雰囲気。」
「はあ……そんなん出来なくね?」
「その為の元を、俺が作ってくるから。」
「?」
「頼むよ。頼む。」
「…」
「ダメなんだ。
2回目はないんだ。
もし、それで彼女の被害を悪化させるようなことになってしまったら、もうどうにもできない。」
「あー。。
なんていうかさ、そうなんだけど、そうかもしれないけどさ、
2回目はなくても、やり直しはあるよ。」
「…」
「じゃあ、朝も早いみたいだし寝るわ。
お休み。」
「お休み。」
電話を切って、ベットに沈んだ。
優しい言葉が足元を暖かくした。
「寝よ。」
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