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学校の課外授業の一貫で演劇を見るために、駅のホールへと向かった。
少し早めに来たと思ったけれど、予想以上に生徒で溢れて、普段関わらない他のクラスの奴もいたから、彼女を探すことは出来なかった。
開場まで少しコウスケと駄弁って、ホールの中に入った。
席は舞台の真ん前とは言わないけれど、それなりに前で、音響もあるだろうし、寝られなさそうだった。
当然のように周りはクラスの奴ら。
それが少し、嫌だった。
舞台が始まって、痛いほどの照明が目に染みた。
演技をする役者の顔が輝いて見えて、今の僕に眩しい。
昔は抱かなかったのに、この胸にあるのは、確かに「羨望」だった。
劇自体の内容は少し変わったものだった。
まずフォーカスをあてられたのは、「悪役」だった。
「正義」を倒す為に思考錯誤をして悩む様子が事細かに演じられていて、それなりに悪いこともしている筈なのだけど、僕たちはこの「悪役」を心の底から応援するのだ。
それでも、最後にやってくるのは「正義」だ。
「悪役」は淘汰されて、「正義」に諭される。
僕たちは、さっきまで応援していた筈の「悪役」なんか忘れて、「正義」を見て拍手を送るのだった。
拍手をして、役者の人たちがお辞儀をして、何故かこの光景の中に既視感を覚えた。
ちょっとだけ、ちょっとだけ似てる。
僕たちのクラスの中身に。
落ちていくカーテンの中で、無意識に思考は回っていった。
今まで進まなかった思考が、一気に「入ってきた」ような感触があった。
「悪役」を僕らは応援して、でもそれって、なんで?
その答えは、よく知っていた。
『共感』。
僕らは、僕は、どこかで持ってるんだ。
正義に苛立つ感覚を。
どうしようもない「正論」に殴られて、なんだよって腐って。
正義を否定したくて、出来なくて。
それを見ないようにして逃れた振りをしている。
そんな感覚を、多分僕らは知ってる。
それでいて最後「正義」に拍手を送った理由も、痛いほど分かる。
持っていない、持てなかったそれを、僕らは焦がれている。
欲しいんだ。
自分が正しいとか、「正義」だって物が。
欲しいけど、届かないって諦めて、「悪役」に感情移入する。
だから、僕は「正義」になろうと思って。
なろうと思って…
「あれ?」
僕は、前に思った筈だった。
最初に。
この惨状を傍観している僕は、いじめている彼女たちを悪だと弾叫出来るって、確かに思った筈だった。
その感情は、偽善だったのか?
多分、そうじゃないんだ。
そうじゃなくて…もっと純粋な。
空気に圧殺されて、それでも確かにあるような…僕らの正義ってやつなんじゃないのか。
それなら、それだったら、僕がやるべきことは、正義になることじゃない。
その正義を『乗せられる』雰囲気を作ることなんじゃないのか。
詰まっていた頭の中が、晴れていった。
僕みたいな負け組に与えられたチャンスは、きっと一回だ。
二回目はない。
それでも、それを掴める何かが、確かにあるのだと、
そんな気がした。
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