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「昨日の風邪って本当だったんだ。
てっきりサボりかと思ってた。」
席で突っ伏していたら、そういってコウスケが前の席の椅子に体重を預けた。
「そう見える?」
「うん、かなり顔色悪く見える。」
「そっか…」
自分の目の下を引っ張って、見える筈もない色を確認した。
昨日寝れなかったのだから、それはそれは酷い顔をしているのだろう。
「でも、吹っ切れたっていうかさ。
いいよ。
今の方が。」
「そっか。」
そう答えたら、コウスケは子供みたいな笑顔で笑った。
「…なんだよ。」
「別に~
まあ、あんま一人で抱え込まずに相談しろよ。
友達なんだからさ。」
予鈴が鳴って、コウスケは慌てて自分の席に戻った。
担任の教師が入ってきて、出席を確認する。
「友達か…
ほんと、いい奴だよな。
…嫌なくらいに。」
今日の朝、いじめは起こらなかった。
そして多分、明日も起こらない。
明日は朝から駅前のホールで演劇鑑賞だからだ。
彼女はいつも通りに学校に来て、席に座って、ただ、時間が過ぎるのを待っているように見えた。
そう、ただ何もなく過ぎていくこの時間が、彼女を締め付ける。
僕を締め付ける。
息も出来ないくらいに。
今日の二時間目に、彼女が教師に当てられた。
英語の授業だった。
難しい問題だったと思う。
多分三割の生徒が答えられるかといったところだろう。
彼女は答えられなくて、沈黙が続いた。
クスクスと、嘲笑がどこからともなく漏れていって、クラスに充満した。
彼女はいつも明るくて、分からない時だって、素直にそう言って笑いを取ったり。
少しぼーっとしてる所はあるけれど、努力する子で、成績も悪くなくて。
少なくとも、こんなことで嘲笑の的になるような人ではなかった。
変わってきているんだ。
決して立ち向かうことの出来ない、空気とか、雰囲気ってやつが。
その事実に、確かな焦りを、苛立ちを感じた。
あれもダメで、これもダメで、時間もなくて。
自分で考えれば考えるほど、自分の指に力が入っていった。
自分の首にかけた自分の指が。
そして、恐れている。
彼女の手が、空気が、この首にかかることを。
そのことを考えるだけで、のどの奥で息が空回った。
情けない自分に苛立って、コウスケの言葉に苛立って。
そんな自分にまた苛立った。
結局自分が何かやろうとしたって、すべてが無駄なんじゃないかって、片隅ではいつも思ってしまうのだ。
コウスケみたいな、ちゃんと出来る、俺じゃない誰かがやったら……
「嫌いだなあ。」
俺も。
俺じゃない、出来る奴も。
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