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今日、学校を休んだ。


学校を、さぼった。

親はいなかった。


昨日のコウスケの言葉が頭から離れなかった。

いや、昨日のことが頭から離れないというのは、自分に対するある種の建前だ。


特に用事もなく携帯をいじった。

飽きたら、テレビをつけて、それも飽きたらゲーム機を取り出して。


それから、ゲーム機を置いて、考えた。


目をつむった。



カラッとした、青空の匂いがした。

肌寒いな、と思った。

平坦に喋るニュースキャスターの声が遠くに感じた。

近くで自転車が車輪を回した。

少し高めのイヤホンから流れ出る音楽が、綺麗だった。


冬服に着替えて、笑って振り向く彼女が、瞼の裏から離れなかった。



俯いて、「ごめんね。」って言った彼女の声が、耳の奥から離れなかった。



考えた。



いじめは、悪なのか。


いじめを見過ごして、のうのうと生きている僕を、僕は悪じゃないと答えた。

それでいて、いじめの実行犯の彼女たちを悪だと弾叫できると答えた。


じゃあ、いじめは悪だろうか。


悪だと、「僕」なら答えるのだろう。

でも、「僕」じゃあ、ヒーローにはなれないのだ。


いじめが悪だと答える「僕」は、ヒーローにはなれない。


特別じゃなくていい。

いじめを根本的になくすとか、その解決策とか、そんなことは特別じゃない僕には立ち向かうことだって出来ない。


特別じゃなくていい、いいから。


ヒーローになりたい。


あの日、あの瞬間。

特別じゃないと気付いたあの瞬間にあきらめたヒーローに、僕はならなくちゃいけない。


彼女をあの場所から連れ出す為に。



ーーーでも、どうやって?




繰り返す思考の中に、甲高いインターホンの音が響いた。

母親でもないだろうし、誰だろうと思って覗いて、驚いた。


扉の前に立っているのは、確かに彼女だった。


急いで階段を降りて、扉を開ける。

彼女は驚いた顔をして、目をさまよわせた。


「どうしたの?」


出来るだけ、平坦な、感情を込めないような言葉だったと思う。

それでも、彼女の指先は酷く震えていて、差し出したプリントに軽く皺が入った。


「…これ、今日のプリント…」


差し出したプリントを受け取りながら、いじめをしているあの子達の指示なんだろうと思うと、胸が痛かった。


「ありがとう。」


いつものように言った言葉だった。

その言葉で、彼女は、顔を歪めて。


笑って欲しかった。

「ありがとう。」って言って、いつもみたいに笑ってーーー


「笑ってよ。」


つい、口から出た言葉は、本当は言う筈はなかったのに。

その言葉に、彼女は顔をあげた。


「いつもみたいにさ。」


彼女は困惑の表情を浮かべて、その間抜けな顔に、思わず笑いが漏れた。

彼女には、そっちの方が似合ってる。


「じゃあ、本当にありがとうね。

プリント。

それじゃあ。」


そう言い残して、扉を閉める。

疲労感が押し寄せて来て、ベットまでの階段がやけに長く感じた。

倒れ込むようにベットに入って、彼女に謝った。


僕が言ったことは、最低で、彼女のことを何も考えてないような言葉で。

だからこそ、やらなくちゃいけなかった。


「もう、後戻りは出来ないんだ。」


そうやって、また思考は海へと沈んだ。




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