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「昼飯行こうぜ。」
昼になってから、話しかけてきたのは、昔からの友人のコウスケだった。
いつも昼飯を一緒に食べているけど、食べるのは教室だ。
「行くって、どこへ?」
「たまには外もいいかなって。」
面倒くさいとも思ったけれど、視界の隅に彼女が映って、答えた。
「それもいいね。」
来たのは、グラウンドから少し離れた芝みたいになっているところだった。
周りには誰にもいなくて、傾斜に座って、二人とも黙って弁当を食べた。
いつもならコウスケの方から話しかけてくるのに、今日は心ここにあらずといった感じで、上を見上げていた。
何故かそれに安心して、卵焼きに箸をつけたところで、コウスケが口を開いた。
「お前さあ、あの子のこと好きだろ。」
平坦な口調で発せられた言葉に、卵焼きを離してコウスケの方を向いた。
コウスケはまだ、空を眺めていた。
「…あの子って?」
「あの…いじめられている子。」
思わず、視線がきつくなった。
…こいつは、「あの子」の名前を知ってる。
その上でこんな言い方をしているのだ。
「やっぱりそうか。
お前って普段顔に出ないからさ。
分かんなかったんだけど。」
つまり、こいつが言ってることはこういうことだ。
『あの子がいじめを受け始めてからお前の様子が変わったから分かった。』
だから、こいつが次に言うのは、きっと…
「お前、このままでいいのかよ。」
溜息をついて、箸から離れた卵焼きを引き寄せた。
「例えばさ、あの子たちにお金をあげたら彼女のいじめが終わるっていうんなら、バイトでもなんでもして集めるよ。
でもさ、違うじゃん、空気とか、雰囲気とか。
そんなもんに立ち向かえるみたいな「特別」な人間じゃないんだ。」
「…朝、花瓶の破片を踏んで、あの子が謝って、お前はどう思った?」
コウスケは空から視線を外して、まっすぐこっちを見ていた。
だから、わざとらしく卵焼きに視線を合わせた。
「どうって、そりゃあ…」
「悔しかっただろ。情けなかっただろ。」
無言で、俯いた。
顔を合わせられなかった。
「お前は賢い奴だからさ、どうすればって考えたんだろ?
考えて、考えて。
諦めた。」
途中まで優しい口調だったのに、最後の言葉だけは妙に力が入っていて、思わず肩が上がった。
「幸せは、やっぱ買えねえよ。
そんでもって、手に入らないんだ。
少なくとも、特別なんて言ってるお前にはさ。」
コウスケはこういう奴だ。
普段はあほみたいな話ばかりだけど、時々大人みたいな事を言う。
だから言ってしまうのだ。
「そんなこと言うんならさ、お前がやってくれよ!
見せてくれよ!
それで、あの子を救ってやってくれよ…」
最後の声は酷く震えていて、自分でもみっともないと思った。
「本当に、そう思うんだったら。」
こいつは、いい奴で、甘い奴だけだけど、
凄い奴だ。
ヒーローになれる奴で、きっとこいつがやってくれれば、本当に出来るかも知れない。
でも…
「ごめん。」
そう言って、卵焼きを口に含んだ。
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