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僕は思う。
この世の大多数の人間には、必ずある一瞬が訪れるのではないのかと。
「自分が特別ではないと自覚する一瞬が。」
勿論、こんなことを思うのは、自分がその一瞬を経験したからなのだが…
他の誰かがどう思っているかは別として、少なくとも僕には、不思議とこの一瞬が悪いものだとは思わなかった。
幼い時に漠然と抱いていた、自分には何でもできる、自分は特別な存在なんだという「それ」は、いつしか自分の中の虚無に変わった。
何ができるの?何が特別なの?
そんな答えられない自問の答えが、すっぱりと落ちてきたように思えた。
心が楽になって、周りとの関わり方も楽になった気がした。
それはきっと、自分の立ち位置が理解出来たからだ。
それと同時に理解した。
「僕はヒーローにはなれない。」
あるテストの勉強を頑張って、学年で上位の成績をとったとして、それは特別じゃない。
部活で頑張ってレギュラーを取れたとして、それは特別じゃない。
でも、その特別じゃないそれをした奴は、きっとヒーローだ。
「特別じゃないと気付いた上で、それをできる奴らは、きっとヒーローだ。」
だから、それを気付いているくせにやらない僕は、ヒーローにはなれないのだろう。
あの一瞬にあらがえなかった自分は、ヒーローにはなれないのだ。
「他の大多数と同じように。」
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目に映る風景を、僕は眺めていた。
自分がいて、でも自分はそこに立っていなかった。
なんというか、舞台を見ているような気分だった。
立っているのは、数人の女子と、僕の好きな女の子。
舞台で行われるのは、残酷な「いじめ」の一場面。
昨日まで友達だったはずの、少なくとも、僕の目には友達同士だった彼女たちの、華麗な手の平返しの様子だ。
予告なしにホラー映画を見せられたなら、こんな衝撃を受けるのだろうか。
アニメの主人公がいきなり殺されたらこんな気分になるのだろうか。
そんな衝撃を受けた後の、僕の反応はどうなのだろうか。
すぐに布団をかぶって眠ろうとするのだろうか。
すぐにテレビの電源を切ってお菓子をあさるだろうか。
今の僕は、それよりずっと「薄い」。
僕はあくまで傍観者の一人だった。
その場で声を上げるわけではなく、目を背けるわけでもない。
彼女らと僕の間には、いや、「僕ら」の間には、薄い膜が張られていた。
僕らが作り出した薄い膜。
これは、演劇だ。
その途中で、声を上げるなんて非常識だ。
そうだろう?
そうやって自分を落ち着かして、まるで当たり前みたいに、まるでなんでもないかのように。
それでも、どこかで叫び出したいなにかは確かにあって。
僕はどんな顔で彼女たちを見ているのだろう。
彼女を見ているのだろう。
そんな僕を、彼女は見ていなかった。
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