鬼頭幸雄
「おっし、個人ランキング一桁いった!このままランキング維持できれば……」
画面にはイベントのランキング表が表示されており、二位の所に自分のプレイヤーネーム『鬼頭幸雄』と書かれている。
イベント終了まで残り一時間、このままいけば確実に一桁の順位は維持出来るだろう。
「俺は何の為に大学をサボったんだ!一桁の順位になるだけじゃダメだろ!一位に俺はなるんだ!」
エナジードリンクを一気に飲み干し、自分を鼓舞する。俺にとってこのイベントはリアルよりも大事なイベントだ。
バイト先でも大学でも一人でぼっちの俺がただ一つだけ自慢できるとすれば、このゲームのやり込み度だろう。なにしろリリース開始直後から始めているのだ。
無心でマウスをクリックし、淡々と同じクエストをひたすら繰り返す。
気づけば残り十分。ランキングを見ると俺と一位との差は僅かクエスト三回分の差だ。
「あと少し!もうちょい!だってこの差はめっちゃ悔しいじゃん!」
自然とマウスをクリックする指に力が入る。
買い貯めておいた最後のエナジードリンクを飲み、ラストスパートをかける。
そして十分後、ついにその時が訪れた。ゲーム画面に表示されるイベント終了の文字。俺は急いでランキングのサイトに移動する。
鬼頭幸雄の順位は二位。一位との差はクエスト一回分だった。
「あーくそ!!負けた!」
正直、ここまで悔しくなるなんて思ってもいなかった。
やるせない気持ちのまま画面をぼーっと眺めていると、突然ゲーム内のチャットに着信が入った。
「ん、何だ?」
チャットを開くと、『あなたは資格を得ました。』と書かれている。
「資格?なんだこいつ。意味がわかんねぇ。」
そう呟いた途端、画面が眩い光を放ち出した。
「うぉ!なんだこれ!?」
咄嗟に画面から離れようとしたが、金縛りにあったかのように、何故か体が動かない。眩い光を浴び続けた俺はいつの間にか気を失ってしまった。
*
次に目を覚ましたのは見知らぬ大地のど真ん中だった。どれくらいの間気を失っていたのかは分からない。
「えっと、確かさっきまでイベントやってたはずなんだけど……」
俺は気を失う前の記憶を少しづつ思い出していく。
「あの後、変なチャットが届いてからそれから……」
徐々に記憶を思い出しつつ、周囲を眺める。最初は見た事ない所だと思っていたが、よく見ると何となくどこかで見た事があるような気がしてきた。
「あ、もしかしてこれって白昼夢ってやつか?よく見るとこの場所もゲームのステージによく似てるし。という事は……」
俺は自分の体を確認する。すると気を失う前までの服装では無く、ゲームでの自分のアバターの装備になっていることに気がついた。
「やっぱりそうだ。俺ってば、夢の中でもゲームしてるのかよ……」
我ながらそこまでこのゲームにのめり込んでいるとは。そんな事を考えていると、突然背後から鳴き声のようなものが聞こえた。
「グルルルル」
「うぉ、早速敵かよ。」
後ろを振り返ると、そこにはこのゲームをやっている人なら誰もが知っている魔物の『ヒュドラ』が現れた。
「なんだ、雑魚じゃん。よし、力試しだ。」
俺は背中に腰に装備していた剣を引き抜く。実際に戦闘をしたことは一度も無いのだが、夢だからだろう。恐怖心等は一切無い。
ヒュドラが三つの首のうちの一つから火を吐く。俺は冷静に回避し、反撃を繰り出す。
「はぁ!」
「グルゥ!?」
切り込みが浅く、ヒュドラの前足の表面しか削ることは出来なかったが、ヒュドラを怯ませることは出来たようだ。
「トドメだ!」
俺はヒュドラの頭上に飛び上がり頭をスパッと切り落とす。ヒュドラは声を上げる事すら出来ずに地面に倒れた。
「ふぅ、やっぱり序盤の敵なだけあってすぐ倒せたな。」
対して俺の装備はイベントやガチャで集めた最強の装備だ。どんな敵が来ようと負けるはずがない。
「よし、この夢が覚めるまで存分に楽しむか!まぁ、どうせすぐに覚めると思うけど。」
せっかくの夢なんだから楽しまないともったいない。俺はウキウキとした足取りで一歩踏み出した。