全ては今この時のために 7話
目が覚めると僕は真っ白な空間にいた。
「あれ?確か透也が打った球が当たった所までは覚えてるんだがここは……」
そこで僕は自分の体が動かないことに気づいた。自分が一体どこにいるのかもわからず、周りを見ても何もない空間にいることだけはわかった。しかし抜け出す方法もわからなければ動くことすら出来ないので不安と恐怖が増していく。
『やっと気づきましたね。ここは貴方の、いえ、貴方"達"の空間です』
どこからともなく聞き覚えのない女性の声がする。
「達?他にも誰か居るってこと?」
『はい。正しくはここに居た、となりますが』
ここに居た?一体誰が、いつ、そしてどうやってこの空間に訪れ抜け出した?
入ってくる情報が少ないため考えれば考えるほど混乱する。
「とりあえず君は誰だ!そしてこの空間から抜け出す方法を教えてくれ!」
『私が誰かですか?ここで名乗るのはつまらないでしょう、それに貴方がよく知る人物ですよ。あと、ここから抜け出すも何も先程も述べました様にこの空間は貴方達の空間、つまり貴方の中にあるんですよ?』
僕のよく知る人物だと?いや、それどころじゃない、僕の……中にあるだって?
『おや、そろそろ時間のようですね。それでは、また会いましょう。運命に選ばれし子よ……』
そう言うと、謎の女性の気配が消えた。そして同時に僕の意識も薄くなっていく。
「……さ……ゃん」
声がする。
「な……さちゃん」
聞き覚えのある声だ。ただ少し震えているように感じる。
「渚ちゃん……!」
月咲の声だ。どうやら泣いているようだった。
「お願い!目を覚ましてよ、渚ちゃん!」
「残念ながら……もう彼は……」
「嘘だよ!起きてよ渚ちゃん……!」
「勝手に殺すなぁぁぁぁぁあ!」
布団を押しのけ体を思い切り起こすといつもの学校の保健室だった。
周りを見ると、医者のつもりなのか白衣を着ている透也と、僕の足のあたりで泣いている月咲、そしてそれを笑いながら見ている透香がいた。
「揃いも揃って、勝手に僕殺して遊ぶなよ!それに透也、お前元凶だろうが!」
「まぁまぁ、そんな怒んなさんなって。いいじゃないか別に、お前が無事だってわかったからやってるんだし」
「そうよ。それに私の演技うまかったでしょ~」
さっきまで泣いていたはずがいつの間にか涙が引いている。こいつほんとになんでもできるな。
「ま、そんなことより悪かったな、完全に俺のミスのせいだ」
「いや、まぁこうして何もないから平気だよ」
と言ったはいいものの、僕の頭の中はさっきのあの空間での出来事でいっぱいだった。
彼女が言っていた多くの謎を解決させるためにも少し時間が必要なようだ。
一応頭を打っているということもあり、6時間目の数学も保健室で過ごすことになった。
とりあえず、今わかっている情報をまとめ、調べなければいけないことを整理した。
まず最初に、あの空間だがあれは彼女の発言から僕の中、つまり精神や夢の中ということになる。
ここまではいい、問題は次からだ。
貴方達、という発言から僕以外にも存在していたということがわかる。しかしそれが誰かなのかが全くわからない。なぜ僕の中にある空間に他の人が居たのか、それが理解できないのである。二重人格か?それとも洗脳とかで操られていた?
考えれば考えるほど謎は深まるばかりである。
最後にあの謎の声の主である。一体彼女は誰なんだ。僕がよく知る人物?記憶してる限りでの人を思い出したが一切当てはまらない。本当に僕が知っている人物なのだろうか。彼女は一体何が目的で僕の中に居るのかすらわからない。
そうやって考えている間に気がつくと6時間目が終わっていた。
先生が帰りになにかあると不安だと言うので親に迎えに来てもらい帰ることにした。
流石に誰かに相談することはまだ早いと思った僕は、明日から情報を集めることを決心し眠ることにした。
眠ればまた、あの空間に行けるのではと僅かに期待しながら僕の意識は夢の中へと落ちていった。