全ては今この時のために 5.5話
枕元で携帯が鳴っている。どうやら誰かから電話のようだった。完全に寝起きで寝ぼけているため、誰からかを確認せずに電話に出た。
「んぁい、もしもし?どちら様ですかぁ」
「……その感じ、今起きたね?渚ちゃん……」
どこかで聞き覚えのある声がした気がした。
ん?なんで月咲が電話を…?
「あれ、こんな朝早くからどうしたの?」
「どうしたの?じゃないでしょ!今何時か分かってんの?」
そう言われた僕は時計を見た。時刻は8時37分。8時!?
ここで僕の頭の中に昨日の会話が蘇る。
『それじゃあ、明日は8時25分に駅集合でいいね?』
『おーけ、それじゃ後で透香にも伝えておくわね』
『ん、ありがとう。ならそっちは月咲に任せるよ』
『それよりもちゃんと起きれるの?やめてよね、目覚ましかけ忘れて寝坊なんて』
『今更そんな事するわけないじゃん、ちゃんと起きれるよ。』
僕の頭もだんだん回るようになってきて、今の状況を理解し始めた。
「さーて、言い訳は後から聞くとしてとりあえず今は早く準備してこっち来て!」
「はい!ごめんなさい!速攻で準備します!」
朝からバタバタと忙しくなってしまった。
「さて、一応理由を聞こうかしら?」
とニコニコしながら言う月咲、今はその笑顔が怖い。
「えっと……僕の記憶だと目覚ましをかけたんですけど……どうやら記憶違いだったようで……」
「案の定かけ忘れてるじゃない!」
「渚君はうっかりさんなんだね〜」
いつものようにそう笑いながら言う透香。天使、マジで天使に感じる。
「ってそんな事より、急がないと試合始まっちゃうよ!」
そう、今日は透也の引退試合の応援にみんなで行くのだった。
「どっかの渚ちゃんが寝坊しなければこんな焦らなかったのになぁ〜」
どうやら今日は1日言うことを聞かなければいけないようだ。
意外と早く会場に着き、僕らは第1試合から透也の応援をすることが出来た。
運動神経の良さは月咲の次にいいため、苦戦することもなく順調に勝ち抜いていった。
気がつけば次は決勝という所まで勝ち進んでいた。
「元々運動ができるのは知ってたけど、まさか透也君がここまで強いとは思ってなかったよ」
「そりゃありがたい言葉だぜ。ま、この調子で次も勝って優勝してくるわ」
「私的にはここで負けて家で泣く透也を見たいけどね〜」
「いや鬼か!」
「まぁ頑張ってよ!僕たち応援してるからさ!」
「おう任せとけ!困ったら天衣〇縫の極み使うからさ!」
「流石透也君!まるで越前リョ」
「え、なに!?テ〇プリ?テニ〇リなの!?」
「はい、悪ふざけはそこまでにしようね~、そろそろふざけすぎてどっかの遠い誰かさんがビビり始めてる
からね~」
『あ……(察し)』
と、僕と月咲は何かを察し、お互いどこか遠い向こうを見た。
「それにまだあるぜ!俺の必殺技の百八式」
『もうやめて!筆者のライフはとっくにゼロよ!』
「筆者?何口そろえて言ってんだお前ら?あ、さてはゴール〇ンペアの同調(シ〇クロ)だな?」
『違う!違うから!オーバーキルはしないであげて!』
「はい、もう試合始まるから透也は行こうね~」
この時ほど透香が神に思えた瞬間はなかった……と遠い誰かが言っていたらしい。
やはり決勝戦となると白熱した試合になり両者一歩も譲らず接戦へ…なんて展開を想像していた僕らを裏切るかのようにあっさりと優勝してきやがった。運動できるって羨ましいな、クソ。
「透也君おめでとう!」
「まさかあんなに燃えることもなく勝つなんてね。透也、もう少し空気読めるようにしようよ?」
「私としては泣く透也が見たかったのになぁ~」
「いや、月咲以外酷くねぇか?これでも頑張ったのによぉ~」
「冗談だよ、冗談。ま、今日は引退兼優勝祝いってことでこの後ご飯行こうよ!」
『賛成~!』
こうして無事優勝し、引退した透也の祝勝会で僕らがまた騒ぐことになるのは、また別の機会に。