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水の魔物  作者: たかまち ゆう
第六章 飛翔 

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6-7. 解放

「う……」

 地面の震動を感じて、ウエインは薄目を開けた。

 最初は頭がぼうっとして、自分の目が何を見ているのか理解できなかったが、

『……リーンか』

 呟いた特異な声を聞き、身体の痛みと共に今の状況を思い出した。

 慌てて起き上がろうとしたが、身体がなかなかいうことをきかない。

 それでも、膝に手をついてウエインはなんとか立ち上がった。

 竜は、洞窟の天井を見上げていた。

『よくやった!』

 満足そうに言い、竜が翼を広げる。

「う……」

 ウエインは後ずさり、壁に手をついてなんとか転ぶのを防いだ。

 風で飛んでくる細かい石や砂から、腕で目を庇う。

 次の瞬間、一瞬耳が聞こえなくなるほどの大音響が上から降ってきた。

 腕を外して見上げたウエインが見たものは、洞窟の天井に開いた大穴から差し込む日の光だった。

(逃げられた。……いや、見逃してもらった、というべきか……?)

 ウエインは穴の真下までよろよろと走った。

 崩れて積み重なった岩をよじ登り見上げると、清々しいほどに青い空と、その空を時折横切る竜の姿が見えた。

 竜は遙か上空、絶対に剣の届かないところへ去ってしまった。

(……エスリコ、ごめん。仇は取れなかったよ……)

 ウエインは肩を落とし、それからふと気付いて辺りを見回した。

(モニムは?)

 モニムも、リーンも、姿がない。

(まさか……)

 ウエインが最悪の想像をしかけた時、

「ウエイン! 大丈夫!?」

 凛とした声が天井の穴から降ってきた。

 穴の縁から心配そうにこちらを覗き込むモニムの顔を見て、ウエインは安堵した。

「モニムこそ大丈夫? 怪我はない?」

「ええ。でも、ごめんなさい。わたし……」

 モニムが何か言ったが、急に声が小さくなったため、よく聞き取れない。

「ちょっと待って! 今からそっちに行くから」

 ウエインは岩を下り、エスリコの遺品となった彼の剣とランプ、それから、再び柄だけになっていた自分の剣を探して拾い上げた。

(ケイトさんに、何て言って謝ろう……)

 それを考えると気が重かったが、今は自分達の命があっただけでも感謝するべきだろう。


     *


 ウエインは元来た道を戻り、壁の割れ目を通って外へ出た。

 天井の穴から蔓か何かを下ろしてもらえば早かったのではないかと途中で気付いたが、今の身体の状態で登るのは難しいし、もうここまで来れば普通に歩いた方が早かった。

 洞窟から外へ出て、太陽の光に目を細めながら見回すと、丘の上で座り込むモニムの姿が目に入った。

「モニム!」

 ウエインが駆け寄ると、モニムは顔を上げたが、その表情は冴えない。

「大丈夫? どこか痛む?」

「いいえ、それは、大丈夫なのだけれど。ごめんなさい。わたし、あの竜が外へ出るのを助けてしまったの……」

「え?」

 ウエインは目を見開いた。

「どうして? 相手は人喰い竜なのに!?」

 少し責めるような声が出てしまった。

 モニムは黙ったまま俯いた。

 ウエインは一つの可能性に思い至った。

「もしかして……、俺の、ため?」

 気絶していたウエインを竜が放っておいてくれたのは、モニムのおかげなのだろうか。

「それだけではないけれど……」

 モニムは言い淀んだ。

「…………」

 ウエインは、複雑な感情を抱えて沈黙した。

 エスリコのことを思えば、ありがとう、とは言いたくない。

 だが、モニムを責めることもできなかった。

「でも、たぶん……」

 しばらくして、顔を上げて空を見上げながら、モニムが言った。

「あの竜はもう二度と、人間を食べないと思うわ」


     *


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