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水の魔物  作者: たかまち ゆう
第二章 失われた故郷 

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2-13. 出発

 ウエインは、モニムとイエラを順に見て、

「俺達はどうする?」

 と訊いた。ちょうどその時、

「……う」

 モニム本人の意識が戻ったらしく、彼女は顔をしかめて何度か瞬いた。

 自分の左胸を見下ろしたが、血で汚れたはずの衣はきれいになっており、破れ目も、見た目には分からなくなっていた。

「……どうなったの?」

 小声で訊いてくる彼女に、ウエインも小声で手短に答えた。

「あの男達は片付けた。今は、この後どうするか相談中」

「……そう」

「モニムはどうしたい?」

「わからない。わたしはここへ来ても、ちっとも故郷へ帰ってきたという気がしないんだもの。……ウエインは?」

「俺は、モニムが安全に暮らせる場所を探すっていうのがエルとの約束だから。それと、できればあの『穴』にいた人達と……イエラさんのことも、きちんと埋葬してあげたい。だから、それができる場所を見つけられたらと思ってる」

「お母様を……、埋めるというの?」

 モニムは、同じ部屋に立っている母の姿を見て、悲しそうな顔になった。

「嫌?」

「……わからないの。わたしには、どうしたらいいのか。お母様の意識はないって聞いて、それは理解したつもりではいるけれど、でも、ああしてちゃんと動いているのに…と思うと、お母様をもう一度殺そうとしているみたいな気がして」

「ああ……、それは分かる」

 ウエインは頷いた。

 イエラはどう見ても、普通に生きているように見えたから。

「エルは? どう思う?」

「ワタシは、モニムを守りたい。望みはそれだけだ。そのためには、イエラの身体は別に必要ではない。……ただ、イエラとワタシは触れ合えば意思が通じ合ったのに、今のモニムとワタシはそうではないから……、この身体があれば会話ができるのが、少し嬉しい」

 そう言ってモニムを見るエルフューレの瞳は、慈しみに溢れていた。まるで本当の母親のように。

 ウエインとしても、この存在を「殺す」と考えるのには少し罪悪感がある。

「なるほど。じゃあ……、とりあえず、イエラさんも一緒に行くということで。どちらにしても俺は一旦家に帰って旅支度をしないといけないから、まずはリューカへ来てくれ。必要ならまたクラム先生に相談することもできるし」

「ええ……、そうね」

「分かった」

 ウエインの提案にモニムもイエラ(エルフューレ)も頷いた。

「あの、もし良かったら、これ」

 そう言ってフィニアが差し出してくれたのは、ディパジットの女性達がよく着ている服と帽子だった。イエラを見て、言う。

「そちらの(かた)は、そのままの格好だと、目立ってしまうと思うので」

「たしかに」

 エルフューレが何の躊躇いもなくその場で着替えようとしたので、フィニアは慌てて彼女(?)を別室へ連れていった。

 ちらりと見えたところから推測すると、夫婦の寝室らしい。

 やや気まずい思いで待っているウエイン達のところに、さほど時間をかけることなく彼女達は戻ってきた。

 イエラの髪の毛は、まとめて帽子の中に隠しているらしく、全く見えなくなっていた。

「準備はいいかい?」

 ジブレが言い、その場にいる全員の顔を見回す。

 各人が、それぞれの決意を秘めた表情で、頷いた。

「じゃあ、行こうか」


     *


 門を出るところまでは、ジブレとフィニアが一緒に行ってくれることになった。

「カイビさん達が他の人に見つかるまでの間に、なるべく町から離れておかないとね」

 とジブレは言った。

 地下室の男達から話を聞けば、イリケ族が二人いたこと、その片方がカイビを殺したことなどが、他の人にも伝わってしまう。

 自宅で人死にを出し、直後に町を出たジブレ達も、共犯として追われる身となるかもしれない。

 それでも、地下の男達やカイビの死体をどうこうしようと言い出す者はいなかった。

 ジブレは、自分が疑われることも仕方ないと思っている様子だったし、フィニアは、ジブレさえ隣にいてくれればそれで満足といった態度である。

 ウエインとしては、モニムやイエラの目撃者が生き残るのは望ましくないと思われたが、だからといって引き返して男達を殺してくる気になるはずもなく――そもそも彼らを殺すなと言ったのはウエインだ――、エルフューレも、直接モニムに危害を加えていない人間の命まで奪うつもりはないようだった。

(たぶん、誰かがリューカまで俺を捜しに来るんだろうなあ……。まあ、仕方ない。さっさと荷物をまとめてどこかへ行ってしまうしかないか。母さんやアンノに迷惑がかからないといいけど……)

 ウエインが改めてそう決心した頃、門が近づいてきた。

 門の内側にいた門番に言って、門を開けてもらう。

「こんにちは」

 外へ出ると、相変わらず暢気そうな声で、ジブレが外の門番達に挨拶した。

 事前に打ち合わせていたとおり、他の四人は軽く会釈してその脇を通り過ぎようとした。

「やけに荷物が多いですな」

 最も年嵩の門番が言った。ごくさりげない口調だった。格別怪しんでいる様子ではない。

「彼らを見送るついでに、友人達と散歩でもしてこようかと思いまして」

 ジブレがにこやかに答え、隣でフィニアが頭を下げた。

「夫がいつもお世話になっています」

「いえ、こちらこそ」

 門番はちらりとイエラに目を向けたが、それ以上は特に何も言わず、彼らを通した。

 自分達が王都へ向かったと分からないよう、ジブレは最初、王都のある西側ではなく、いつも向かう『穴』のある東へ進むことになっていた。

 五人一緒に東へ進み、その後、念のため五人で森へ入った。


 森の中をしばらく歩き、そろそろ二手に分かれようかという頃になって、

「あの、すごく今更なんですけど」

 フィニアが、改めてイエラをしげしげと見つめた。

「私、あなたのお名前をまだ聞いていませんでした」

「ワタシは……、エルフューレという。エルと呼んでほしい」

 エルフューレが一瞬ためらったのは、イエラの名前を出すかどうか迷ったせいだろう。

「フィニアです」

「ああ。ワタシもまだ言っていなかった。服をありがとう、フィニア」

「ええ。ところでエル……、私、あなたにお願いがあるの」

 フィニアが足を止めたので、全員がつられて足を止めた。

「何だ?」

「私たちを、王都まで護衛してくれないかしら?」

「え?」

 これには他の全員が驚いて彼女を見つめた。

「あなた、強いんでしょう? もし、カイビさんのことで追いかけられたら、私たちには、あなたたちのように身を守る術がないわ。でも、あなたがいてくれたらきっと、王都まで無事に辿り着くことができる。そんな気がするの。……もちろん、あなたが嫌だというなら、仕方ないけれど」

「カイビを殺したワタシが一緒にいれば、オマエ達も完全に共犯だと見なされるぞ」

「そんなの、別々に逃げても同じようなものだわ」

「……ジブレの意見は?」

 エルフューレはモニムをちらりと見た後、ジブレへ質問を振った。即答で断らなかったのは、たぶん、心が揺れているからだ。

「僕は、君が一緒に来てくれるなら凄くありがたいよ」

「ワタシは、……二人の邪魔ではないか?」

「え!? いや、そりゃまあ……」

 ジブレは顔を赤くした。

「いやいやいや、今はそんなこと言ってる場合じゃないし! そもそも、誰かが追ってくるなら、王都まではそれどころじゃないだろうし」

「行ってあげたら?」

 あっさり言ったのはモニムだった。

 ウエインも頷く。

「モニムには俺もついてるし、お前だって半分はモニムについてるんだろう?」

「うん。……そうだな」

 エルフューレは、少し寂しげに微笑んだ。

「イエラの身体を最初に守ったのはワタシだが、それを見つけてずっと隠し続けてくれたのはジブレの一族だ。ワタシにはローアス一族に恩がある。王都までは一緒に行こう」

「本当かい? 助かるよ」

「ただし、オマエ達が王都へ入ったら、ワタシはモニムのところへ戻る」

「もちろん、それで構わないよ」

「ありがとう、エル」

 夫婦から口々に礼を言われて、エルフューレは先程より少し嬉しそうに微笑んだ。

「さて、じゃあそろそろ……」

 ジブレは懐から磁石を取り出し、方角を確認した。

「僕達は西へ向かうよ。ウエイン君、モニムさん、お元気で」

「はい。色々、ご迷惑をおかけしました」

「さようなら」


     *


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