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常識って言葉知ってる?

しがない日々を過ごしていた。

少し金持ちな家に生まれた私は無断外出や友達とのショッピングなどを固く禁じられ、それはまるで鳥籠の小鳥のような生活を強いられていた。そんな私は刺激が欲しくて中学二年の時に裏の山田さんちに空き巣に入った。

案外簡単に入れた。

家に人がいない時間帯はなんとなくだけど知っていたし、築何年かは知らないが山田さん本人が『自転車の鍵でも玄関を開けれる』と言っていたので堂々と玄関から入らせてもらった。でもこの時は何も盗らずに五分ほど滞在して家に帰った。

面白いものは沢山あった。

珍しいものもいくつか見つけた。

でも盗らなかった。盗る勇気がこの時の私には無かった。それに歳老いた独り身の老爺からものを奪うのは少し気が引けた。でもそれから私は毎週土曜日に山田さん家に空き巣に入った。裏口の鍵は玄関のものよりしっかりしていたのでピッキングの練習に使った。室内では外から見えないように動く方法を覚えた。ものが沢山ある場所では確実に配置を覚え、探ったあと完璧に元通りにする練習をした。

とてもスリリングな週末だった。

初めての空き巣から三ヶ月がたった頃、すっかり慣れてしまった私は更なる刺激を求め始めた。山田さん家だけでは飽き足らなく感じていたのだ。

こそで私は友達の家に空き巣に入ることにした。

共働きで一人っ子で運動部に入っていることを条件に休み時間をフルに使って探りを入れ始めた。ヒットした人数はそこそこいた。その中でも親子共々特に帰りが遅く、ピンシリンダータイプの鍵を使っている家を選んだ。なぜピンシリンダータイプの家を選んだかと言うとその方がピッキングの成功率が格段に上がるからだ。

ピンシリンダーとはいわゆる刻みキーの事で、デコボコでゴツゴツとした形の鍵だ。

南京錠や何年か前までの住宅玄関に使われていたものだと言うとイメージがつきやすいだろう。

この鍵の防犯性は五段階評価のせいぜい三と言ったところだと言われている。他にもロータリーディスクシリンダーという鍵は刻みがあるタイプとくぼみがあるタイプの二種類があり、防犯性は先程よりやや高めの四らしい。ならば防犯性五の鍵はどんなものかと言うと、名前をディンプルシリンダーといいキーの表面にくぼみがあり不正解錠は極めて困難とされていると聞いた。実際に自分の家の玄関がこれだったので試してみたが全く成功の兆しが見えなかった。まあ鍵の種類は大まかにこの三種類だが、その中でも私が手こずらずにすんなりと開けられたのはピンシリンダーだけだった。だから私はこの鍵の家を狙うことにした。

クラスメイト、他クラス、他学年。そんなものは厭わず数件の家をピックアップし一ヶ月かけて徹底的に家庭の行動パターンを把握、ついに行動に移した。

この時の私はとても愉快な気分だった。

『悪いことをしている』のは分かっていた。でもその背徳感がたまらなく私の心を震わせた。初めこそ罪悪感もあったが数件で空き巣を繰り返しているうちにそんな感情は熱いコーヒーに沈む角砂糖のように消えていった。

そんなことを続けてかれこれ五年が経つ。今や私も十九歳だ。大学には行っていない。就職もしていないしアルバイトもしていない。まあいわゆるニートというやつだ。そんな私の日々の楽しみといえばターゲットを探し、徹底的に調べ、留守中にプライベートエリアに侵入する謂わば空き巣だ。

でも特に何を盗るでもなく、ただその人の生活感をおすそ分けしてもらうだけだ。

第一に、私が空き巣に入るのは刺激を受けるためであって何かを盗るためではない。それに私の家はそこそこの金持ちなのだから庶民から盗るものなどあるはずが無いのだ。

初めて入った山田さんちには民族武具コレクターなだけあって珍しいものが沢山あった。あの時は持ち帰りたいと少し思ったが何せ初めてだったので持ち出す勇気が無かった。それに建前なんかではなく純粋に独り身の老爺からものを奪う事ができなかった。


実の所私は結構優しい人間なのだ。

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