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閑話(?) 食を求めた結果……

あの大地人家族から大量の食材アイテムをもらい、何とか餓死することは避けられた。

そもそも餓死という概念があるかまだ分からないが、これだけあればこのギルドのメンバーでもしばらくはやっていけるはずだ。そして俺たちは、味気のない食事を何日か繰り返していた

そんな中、俺は食料アイテム、口直し用の野菜・果実を前にして思う。


美味い飯が食べたい……


肉……白米……そうだ、生姜焼きを作ろう。



甘しょっぱいタレがしみ込んだ豚肉と玉ねぎ、同じ皿にはキャベツの千切りとプチトマトが2つ、シンプルなワカメと豆腐の味噌汁……そして炊き立ての白米!

何故生姜焼きかはわからない、現実(リアル)で好物の一つだったものを無性に食べたくなったのだ。最近の食事ではその事しか考えられず、果物でもほとんど喉を通さないほどだ。おかげで常に腹ペコ状態、HPは減ってないけど……

そこで俺は今、ある部屋の中にいる。


「まぁこの部屋なら大丈夫だろ、姐さんも知らないし」


ギルドの中にある秘密の部屋だ。<大災害>に巻き込まれる前にネタで作った部屋が役に立つときが来るとは思わなかった。入り方は簡単。地下にある大きめの本棚の後ろにあるのだ、ある程度筋力があれば開けれるが、今は俺しか出入りできないだろう。

此処には大きめの調理台、1人用のテーブルと椅子があり、その上にはむき出しの電球がぶら下がっているだけだが、なぜか普通に明るい。外に光は漏れていないかだと? 隅っこの方だから問題ないだろ、多分……。


「試してみたかったんだよな~、さて準備準備」


皆が知っているように現実(リアル)で料理が得意な方、例えそれが一流のシェフであっても、食材アイテムを調理しようとすると謎のゲル状物質になってしまう。

その事から、味のある料理を作る方法がわかるまで食材アイテムの調理は禁止された。

だがしかし、この世界(エルダーテイル)での職、《料理人》が調理を行ったらどうなるのだろうか?

運がいいことに俺はサブ職で《料理人》を取っていた。

好きな職を選べるRPGでは、攻略する時あまり必要のない職を鍛えるのが好きな方なのだ。

そしてダメと言われるとやりたくなってしまうものだ


「まずは……キャベツを切ってみるか」


持って見たところ、固くしっかりと巻いてあってずっしりと重い。良いキャベツだ。

さて、ここからが本番だ。キャベツを縦に四つ割するため包丁を軽く当てる。

おもわず数秒沈黙してしまう……俺はゲル状にならないことを祈り包丁に力を込めた。


ザクッ……


キャベツは良い音をたて、きれいに真っ二つになった。


「……切れた」


ザクザクザクッと切るスピードを上げてみる。包丁はスムーズにキャベツを切ってゆく……。

あまりの嬉しさに丸々1玉を千切りしてしまった。ボールにこんもりと山ができた。


「調子に乗って切りすぎちゃったな……どうしよ」


説明を見てみると、名前はキャベツのままだが、種類が食材から食料と変わっていた。説明もそのままキャベツの千切りとだけ。たぶん冷蔵庫に入れとけば大丈夫だろう。軽く水洗いし、今回食べる分だけ皿に盛り付ける。トマトも1㎝くらいに輪切りにして盛り付ける。

ついでに米も炊飯器にセットしておいた。

窯で炊くという選択もあったが手が出せなかったので便利アイテムに頼ったのだ。


さぁ味噌汁だ。千切りを行っている間昆布で出汁を取っておいたのだ。

もちろん沸騰させてはいない、これをやってしまうと風味が逃げてしまうらしい。

続いては具材の準備だ。豆腐はさいの目に切り、長ねぎは小口切りにして、乾燥品は無いので普通のワカメを切ったものを鍋に入れ煮立たせる。

具材に火が通ったら一度火を止め、沸騰を沈める。頃合いを見て味噌を溶き入れ、ここでも煮立たせないように注意しなければならない。これは何かの雑誌で見た覚えがあった。


終わりが近づいてきた、次はタレを作ろう。

塩、コショウをはじめ、調味料系は食材アイテムとしてこの世界にも存在している。現在は作る事ができるかは不明であり、各店でも品切れの状態の為、貴重な食材に分類されるだろう。


「無難に醤油ベースに仕上げますか、大さじ2のみりんも同様に入れて……をして……生姜も忘れずに」


こうして自分好みのタレができた。味見をしたけど上々だ。

次で最後の作業だ。豚肉と切った玉ねぎを炒めるため、フライパンを温める。

肉の事だが、正確にはただの豚肉ではない。豚に似た魔物(モンスター)からのドロップアイテムだ。

確か名前は暴食の苔豚だったかな? アイテム説明を見るとこの世界では高級な豚肉で味も美味いらしい。

アヤゾノと大知はあまり興味を示していなかった。「持ってても腐らせるだけだから」と言ってその場に置いていったのをこっそり回収しておいたのだ。やっぱり腐るのだろうか……


「高級肉って言われると使うのも戸惑っちゃうな」


そうは言いつつ顔は笑っていた。これで作った生姜焼きを食べれると思うとよだれが……

作業を進めよう。良い感じにフライパンも温まってきた。

油をひき、肉と玉ねぎを入れる。ジュ~と音がし、良い匂いが広がる。


「おぉ、焦げない。 一瞬で真っ黒にならないぞ」


両面が焼けた頃にタレを投入。さらに匂いが加わり、生姜焼きの匂いになってくる。

タレもしみ込み、煮詰まってくる。次第にとろみ、照りが出てきた。


……完成だ!


米も炊き上がり、それぞれの食器に盛り付けていく。

机の上には生姜焼き定食が置かれている。

椅子に座り、箸を持ち、手を合わせる。


「じゃあさっそく! いただきます!! 」


最初はやはり豚肉を食べる。口の中にタレの甘しょっぱさと肉の旨味が広がる……


「美味い……美味いぞぉ!」


美味い。それしか言葉が浮かばない、顔もにやけてしまうほどだ。

しかし、俺の目からは涙が流れていた。


「お、おおお? なんで……涙が? あれ?」


なぜ涙が出たかはわからない、食べている間、心の底から救われていたような気がした。

涙を拭き、食事を続ける。楽しい時間はあっという間に過ぎるものだ、気が付けば一口分の米と肉しか残っていなかった。名残惜しいが、使用した食材に感謝しつつ口に運んだ。


「……ごちそう、さまでしたっ! 」


今回の事でわかった事を姐さんに報告しないとな、お仕置きがありそうだけど……。

そんなことを考えていると、ある人物から念話がかかってくる。


「念話? いったいだ――――!」


相手の名前を見ると言葉を失ってしまった。ある意味、姐さんよりも恐ろしい人物からだった。


「シロエ…………さん、なんで? 」


腹黒メガネの異名で有名なシロエさんからだった。過去にかかわりがあったとはいえ、このタイミングで来るとは思わなかった。覚悟を決め、念話に出る。


「……もしもし? 」

『やあ、シン君。 久しぶりだね? 話すのはあの時以来かな? 』

「そう、ですね。在籍期間が短いって言うのはおかしいですが、お久しぶりです」


挨拶もそこそこに、シロエさんは本題に入り始める。


『いきなりで悪いけど本題に入るよ。あるアイテム……いや、もっとストレートに言うべきかな?

 味のある食料アイテムの作り方についてさ』

「なっ……!? 」

『その反応、もしかして君は何か知っているのかい? それとも……』

「い、いや、その――――」

『もう作ってしまった……とか? 』


何でわかるんですかシロエさん、あなたはエスパーですか?


『妙な時に感が良いからね君は。反応もわかりやすいし』

「はい、作りました。そして……何も言い返せないです」

『やっぱり、早めに連絡を取ってよかった。 その作り方、まだ誰にも言ってないね?』

「今作って食べ終わったばかりで……え? 言っちゃダメなんですか? 」

『うん。 今はまだ、誰にも言わないでほしい。 僕たちもアキバに戻ってきたばかりなんだけど……』


シロエさんはこれまで自分が行った事、そしてある計画を話してくれた。

あまりのスケールのデカさに脳が追いつかなかった。

少し間を開けて返事を返す。


「えっと……アキバの街を、変える? 」

『そう、変えるんだ。 君も色々感じて、自分なりに考えただろ?

 この世界の雰囲気や冒険者の力、魔獣の存在……そして大地人もこの世界では生きているってことも』


シロエさんの話は続く


『そんな中、僕たち冒険者は何をしている?

 ほとんどの人は無気力、自暴自棄になり、ある街では略奪行為を行う冒険者もいたくらいさ……

 ホント、極度の環境変化による人間の弱さってものを見せつけられた感じがしたよ。』

「で、でも! この料理を教えてはいけない理由にはならないですよ!

 他の人だって美味い飯を食べれれば――――」

『一時的には良くなるだろうね、でも、それじゃダメなんだ』


キッパリと否定する。どこまで見通しているんだこの人は


『だから、それを武器にまずは資金を稼がなきゃならない。

 この街を、そして冒険者達を変えるための第一歩を進めるためにさ……。

 いつまでも僕たちは我が侭な客人でいるわけにはいかないんだ』


街だけじゃなく冒険者も変える、そのためには街にルールを作らねばならない。

俺は黙ってシロエさんの計画を聞き続ける。

ある程度大きな力のあるギルドが集まり、話し合い、街のルールを作り上げてゆく。

ざっぱにまとめるとそんな感じだ。そしてその場を作り上げるために大量の資金も必要である事も話してくれた。そのためにも正しい調理方法という情報を外に漏らしてはいけない理由も……


『正直、君には辛いことだと思う。ギルドメンバーに隠し事をするわけだからね

 だけど、理解してほしい。この機会を逃すと何も変わらなくなるんだ』

「……わかりました」

『またえらく早い決断だね、本当にいいのかい? 』

「正直言いますと、半分納得してないところもあります。でも、シロエさんなら大丈夫でしょ? 」

『わかった。 じゃあ君に協力してもらうことがもう一つできた』

「……はいぃ? 」

『僕の、僕たちの考える計画に協力してもらう。 簡単だろ? もう1歩進んでもらうだけさ』

「それを断った場合は? 」

『残念だけど、その選択は意味がない。僕は〈渡り鳥〉に依頼を出す、ある人物を借りる為の。

 そうなると、説明の為今回の事を君のギルマスに話さないといけなくなる、納得させるために……ね? 』


どのみち拒否権はなかった。シロエさんと話した時点で詰んでいたんだ、わかりきっていたことだろ?

こうして俺はシロエさんの考える計画に参加させられることになった。

《料理人》の職を取っていたことが運の尽きだったのだろうか?


俺はただ、美味い飯を食べたかっただけなのに……

無性に生姜焼きを食べたくなったので書いてみました。

会話でシロエらしさが出ていないと思う方がいるかもしれませんが、勘弁してください、お願いします……。

あの後、シンは料理人としてシロエの策に駆り出されましたとさ……

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