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文化研究部  作者: 松竹
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プロローグ

「君バスケ部に興味ない?」

 と俺は見知らぬ男子生徒に呼び止められた。

 「いや、興味ないです」

 「そんな事言わないでさ、ほらあっちで説明会してるから」

 その男子生徒が指差す先にはカラーコーンで区切られた一角に多くの人だかり、その前にはバスケ部と書かれた立て看板が置かれている。

 「気が向いたら聞きに行きます」

 「なら、今行っても同じだよね!」

 そういうと共に男子生徒は俺の腕をつかむや否やズンズンとバスケ部と書かれたスペースに連れていく。

 これで運動部の勧誘を受けるのは3回目1度目はサッカー部、2度目はバレー部だ。そしてどこの部活も俺の意志は無視し半ば無理やり説明会に連れていく。そして説明会の最後にはこう言うのだ「青春を楽しむならぜひこの部活へ!」それはもう何かに取りつかれたかの様に運動部は楽しいと力説する。

 しかし俺はこういう運動部独特の雰囲気が嫌いなのだ。理由は簡単、どことなく薄ら寒いから。

 彼らの言動、行動、態度それらすべてが俺にとっては寒い、ノリだとか、そういうキャラだとか自分たちの良いように人に対し位置付けをしそれを逸れた人間を仲間外れにしたりするのが何より気に食わないと思っている。

 薄ら寒いバスケ部の説明会を終え逃げるように校舎に入る。

 「バカバカしい、何が部活動勧誘だ。時間の無駄だろ」

 誰もいない特別棟の1階でケータイを見ながら呟いた。俺の通う一之瀬高校には3つの棟があり特別教室のある特別棟、教室のある一般棟、そして図書室や職員室などの中央棟に分かれている。そして校舎とは別に部室館がある。

 俺の今いるところは特別棟1階の自動販売機前、ここは飲み物の種類も少なく一般棟からも離れているため滅多なことが無いと人が来ない場所。ここで帰宅時間まで時間をつぶす予定だ。

 俺は自動販売機に120円を入れ大好きなオレンジジュースを買い横に備え付けてあるベンチに腰掛け一息つく。中央棟と一般棟で繰り広げられている部活動勧誘の物音がほとんど聞こえず嘘のような静けさが俺を包む。 

 聞こえてくるのは風で木が揺れる音だけ、ポカポカとした春独特の空気が季節を感じさせる。

 5分ほどの時間が経ち今までの静けさに似つかわしくないコツコツと誰かの足音が聞こえてくる。

 足音の正体は女子生徒リボンの色から俺と同じ1年生だと分かる。どこか疲れたような雰囲気の彼女は俺に気がつくアタフタと少し慌て引きつった愛想笑いをしベンチの反対側に腰掛けた。

 二人とも特に話すこともないので無言で時間が経って行く。

 「あ、あの!」

 女子生徒が声をかけてくる。

 「え?どうしたの?」

 「お、同じクラスの鈴木君だよね」

 「えーっと、まだクラスの人の名前覚えきれてなくて」

 今日は学校が始まり2日目この段階でクラス全員の名前を把握しているはずもない。

 「わ、私遠藤佳苗えんどうかなえ

 「よろしく」

 顔を真っ赤にし必死に自己紹介をする遠藤。彼女は極度の人見知りのようだ。はたまた俺が怖いのか。

 「鈴木君はどの部活に入るの」 

 ちらりと佳苗の方を見ると目は左右に小刻みに揺れ両手を何度も組み換え動揺しているのが良く分かった。俺もあまり異性と話すのは慣れていないのだがこれ以上彼女に負担をかけないようなるべくゆっくりと話しやすそうな雰囲気で接する。

 「俺は部活はいいかな。バイトとかもしてみたいし」

 「そうなんだ」

 「遠藤さんは決めたの?」

 「わ、私は文芸部とかに入りたくて」

 確かに似合いそうだと思った。が口には出さない。

 「もう見に行ったの?」

 「これから行こうかと思って」

 「じゃあ、一緒に行く?俺も興味あるし」

 遠藤の表情が明るくなる、人間とは群れたがる生き物なのだ、だからこうして遠藤も一緒に足を運んでくれる人を探していたわけで俺も彼女の意図をくみ取りこうして提案しているわけだ。

 二人で一般棟に向かう、文芸部の部室は3年5組一般棟の3階の端っこだ。

 3階に来ると運動部の姿はなくなり代わりに文化部の立て看板が出てくる、そして目的の文芸部部室へ。

 ドアを開け中に入るとそこには10名ほどの男子生徒が机を囲み絶賛対戦ゲームの真っ最中だった。

 こちらが入ってくるのに気が付くと「適当に見といて」と言うだけで他には何も対応はなし。仕方がないので言われたとうり適当に置いてあるパンフレットに目を通す。

 文芸部活動内容・・・九月文化祭文芸誌発行。それ以外には目ぼしい活動はない。

 「なんか、思っていたのと違うな」

 「う、うん」

 「他のところ見に行こうよ」

 部室を後にした二人はその後もぶらぶらと文化部を回りその中で天文学部と書かれた看板を見つけた。場所は5階の最果てにある保険準備室中はカーテンが閉まっており確認できない。

 「入ってみる?」

 「でも天文学部なんてないよ」

 そう言って遠藤は部活動一覧をに手渡足してくる。手渡された一覧には天文学部の文字はない。

 「まあ、入ってみれば分かるでしょ」

 俺がドアを開けると中から破裂音と共にハッピーバースデーの歌が。

 状況が呑み込めずドアの前で放心していると急に腕を捕まれ室内へ引きずり込まれる。

 室内に入るとそこには色とりどりの電飾に飾られたモミの木とジャックオーランタンそれに大きな卵型の置物も置かれている。この部屋の物を言い表すのなら『カオス』という表現が一番マッチしている。

 「ようこそ!文化研究部へ!」

 と俺の腕をつかんでいる女子生徒が声高らかに宣言をする。

 「は?」

 「新入生だよね!いやーまさか来てくれるとはこの部活存続の危機に現れた男子生徒。うーんカッコいい!まさに救世主!」

 それだけ言い終わると今度は机で作られた簡易ステージに上りマイクを手にする。

 「野郎ども出てきな!」

 教室内にエコーだけが響き渡る。

 「野郎どもでてきな!」

 もう一度言うも同じくエコーが響くだけで何も起こらない。

 「ちょっと待ってて!」

 簡易ステージから降りると今度はその脇の暗幕の中に入っていく。それと入れ替わりで佳苗が教室内に入ってきた。

 「だ、大丈夫?」

 「あ、ああ」

 未だ状況が呑み込めておらず生返事を返すのが精一杯だ。

 「なんか大きな声が外まで聞こえてたけど」

 「いや、まあ。逃げるなら今かな」

 「おーっと、逃がさないぜ!」

 先ほどまで暗幕の中に居たはずの女子生徒が遠藤の後ろに突如として現れた。あまりにも突然のことで佳苗は飛びのきドアから離れてしまい俺と同じく教室の真ん中へと来てしまった。

 「ふっふっふ、これで君たち二人は逃げられない!出て来い野郎ども!」

 「おおー」

 っと覇気のない声で出てくる男子生徒。ぼさぼさの髪の毛と猫背が彼のやる気のなさを際立たせている。

 「龍馬りょうまちゃんと打ち合わせ通り出てきてよ!」

 「おまえ、この装飾部室から俺一人で持ってこさせたくせによくそんな事言えるな」

 「私部長、あなた副部長。アンダースタン?」

 はーっと大きなため息をつき竜馬と呼ばれた男子生徒はそれ以上言い返さなかった。

 「ふっふっふ、これで役者はそろった!さあ説明会を始めよう!」

 俺と遠藤は龍馬からパンフレットを1部ずつ渡され席に座るように促される。

 「よく来た新入生ここは文化研究部!見ての通りに場所だ!」

 「見ても良く分からないんですけど」

 と遠藤。

 「そんな君はパンフレットの1ページ目を見てくれ」

 言われた通り1ページ目を見る、そこには文化研究部とはという見出しの下につらつらと文字が書かれており『要約すると色々な文化を研究する部活』とご丁寧にそのまま書かれている。

 「では次に研究内容!助手よろしく!」

 部屋の照明が落ちプロジェクターに10人ほどの男子生徒が写しだされる。

 「これは下に居る文芸部諸君のライブ中継です」

 「ではここでこれの登場!」

 パンパカパーンと擬音が聞こえてきそうなほど元気よく取りだされたのは小説。

 「これは文芸部部長杉崎すぎさき君の私物です!ではコールオン!」

 女子生徒が電話をかけると3コール程で出た。

 「はい、杉崎です」

 「いいなり教師。俺にはこの春になり彼女ができた。それは4つ上の教育実習生だ」

 そこまで読むと中継現場の男子生徒が教室を飛びした、そして10秒ほどで部室のドアが叩かれる。

 「開けろ!今すぐにだ!お前らの今回の目的はなんだよ!」

 「杉崎!君の力が借りたい!この部活の趣旨を説明してやってくれ!」

 「普通に呼べよ!何で毎度毎度、俺の私物を盗るんだよ!」

 「私は取ってない、毎回龍馬だし」

 杉崎と呼ばれる生徒は俺らの横に腰を下ろしている龍馬に抗議の目を向けるが龍馬本人はさして気にも留めず微笑しているだけだ。

 「はい!では説明どうぞ!」

 「そうだな、この部活は文化研究部なんてのは名前だけだ。簡単に言えば色恋沙汰を解決したり露出狂をいじめたりする」

 「は?」

 改めて説明されるも意味が分からない。

 「簡単に言えば遊んでいるだけの部活だな」

 杉崎に代わり龍馬が答える。

 「それで諸君らは選ばれたのだ、神聖なるこの部活への入部を!今の部員は私と竜馬の二人君たちが入れば計四人部活が続けられる!」

 「いや、入らないから」

 抗議の声を上げるが、女子生徒が取り出した二枚の紙切れによってその抗議が無意味な事を悟った。彼女が持っていたのはまさしく俺と遠藤の入部届。

 「おまえ、それどうやって」

 「さっきの杉崎と私の会話聞いてなかったのかい?毎回盗るのは龍馬だって」

 しまったそう思った時にはもう遅く女子生徒は勢いよくクラスから飛び出した。一之瀬高校では1度入部届を提出するといかなる理由でも3ヶ月は在籍しないと部活をやめられない。そして部活に入るとバイトが許可されないのだ。つまり彼女がアレを先生に提出してしまえば光太郎の夢見る高校生活は最低でも3ヶ月送れない。

 「まあ諦めろ、あいつ、もとい木村香きむらかおりは一度決めたらとことんやる女だ」

 ああ、さようなら楽しい高校生活、こんにちは絶望。



 


 授業が終わり俺のもとに遠藤が近づいてきた。

 「部活ホントに入れられちゃったのかな」

 的を射た質問だ、が俺がそんな事を知っているわけもなく真相を知っているのは木村ただ一人だけなのである。

 「分からん、それの確認の意味も込めて一度部室に行ってみる」

 「あ、あたしも一緒に行っていいかな」

 「そうだな、二人で行こうか」

 文化研究部の部室は部室館の三階であるという事は事前に先生に聞いていたので早速足を運ぶ。

 文化研究部と書かれた部室に入ると、部屋の中の一角にある畳の上でドミノをしている木村と龍馬の姿を見つけた。

 「なあ、ほんとに俺らって在籍させられてるのか?」

俺が話しかける。

 「先輩にためぐちなんて・・・。でもそこがいい」

 ドミノから視線を外すことなく木村が答える。

 「質問に答えてくれませんかね、先輩がた」

 「入ってるよー私昨日提出したから」

 「な・・」

 「でもね」

 俺の声を遮るように木村が続けざまに話す。

 「私たちも鬼じゃない他の部活の様に無理やり留まらせたい訳じゃないし何よりみんなで楽しみたい。そこでだ、今から1ヶ月、仮入部ってことでどうだろう。それまでに止めたいと思えば幽霊部員になってもらって構わない」

 普通に考ええれば圧倒的に俺が望んでいる結果に早く到達できる条件だ、それに木村たちがそのような条件を出してくるからには何か秘策があるのだろう。

 「まあ、それなら」

 「私もいいです」

 「それでは改めて、ようこそ文化研究部へ!」

 木村は二人が了承したことを聞くと満面の笑みで、そして楽しそうな口調で高らかに宣言した。


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