7話
今回の話は残酷な描写を含みます。
あらかじめご了承下さい。
ー『元龍院』非常召集2日前
いろんなことのあったダンジョン解放日から一週間が経った。
あの後目を覚ました少女には色々と話を聞くことが出来た。
ゆっくり休んだことで落ち着いてくれたらしく、この世界のことだけでなく、彼女自身のこともいろいろと教えてくれた。
彼女の名前はアリアン・シュバルツハインというそうだ。
シュバルツハインって何となく貴族みたいな名前だなと思っていたら、なんと彼女の家はこの近辺の街を治める本当の貴族だそうだ。
屋敷の一室に幽閉されていたことも、家から追い出されて奴隷商人(…この世界にはいるらしい)に売られたということも教えてくれた。
それ以来何故かアリア(フルネームは長くて嫌なんだとか)は俺に懐くようになり、どこかへ行くと必ずと言っていい程ついてくるようになった。
今では俺がアリアを連れて歩くのがダンジョンの日常風景となっている。
この日はダンジョンから数kmの位置にある街、アリアの故郷、についての会議だった。
会議とは言っても俺と鈴木一佐、クレア一尉(階級が自衛隊のものに統一。偵察部隊の増員により一尉になった。)、そしてアリアのみだ。尚、この会議の途中に街への偵察に行ってるヘリから映像が送られてくることになっていた。
会議に参加したアリアの話しによると、
・人口は約3000人
・街の兵力はシュバルツハイン家の私兵約700人のみ
・街全体が壁で囲まれている
などということだった。
アリアの説明を聞いた俺は、無理に攻め落とす必要性は無いと考えた。
確かに街を攻め落とすだけなら簡単だ。ヘリからのミサイルの嵐に戦車による蹂躙、仕上げとして普通科で制圧すれば一瞬で達成出来ることだろう。
恐らくこちらに損害は出ることなく、大量のDPも手に入るだろう。
だが、無理に攻めて大勢の無辜の民を殺すのは申し訳なく感じたのだ。
その旨を3人に話すと、鈴木一佐とクレア一尉はすんなり了承して貰えた。
彼女達だって虐殺はしたくないのだろ。
唯一アリアは、
「シュバルツハイン家の人間ならいくら死んでも構わないのですが…。」
と、悔しそうにしていた。
…正直ちょっと怖かった。
まぁ積もる恨みもあるだろうし、しょうがないか。
そんな時にヘリから報告が入る。
なにやら焦ってるような声に嫌な予感を覚える。
「ストーカー1よりHQ、こりゃ一体どうなってんだ!?」
「HQよりストーカー1、落ち着いて状況を詳しく…」
「これが落ち着いて居られるか!!
映像を送るからそちらで確認してくれ。アウト。」
なんだったんだ?
まるで何かに怯えているような…。
すぐさまプロジェクターにヘリからの映像が映しだされる。
それを見て俺と鈴木一佐、クレア一尉は絶句し、
「え?」
アリアからは思わず声が漏れた。
確かにこれを直に見たパイロットが冷静で居られるのは厳しいだろう。
むしろ任務を遂行し続けるのを評価したいぐらいだ。
スクリーンに映っていたのは、
夥しい数の虫とそれに捕食される人々だった。
それは明らかに自然の虫ではなかった。つまり作為的な、大量虐殺だ。
そこまで思考がたどり着いた時に、ブチッという音が聞こえた気がした。
任務を遂行し続けるパイロットに撤退命令を出し、プロジェクターの電源を落とした。
今の映像から俺は1つの考えが浮かんでいた。
そしてその考えにたどり着いた瞬間にブチ切れた俺は鈴木一佐とクレア一尉に指示を出す。
「クレア一尉、ダンジョン外に展開中の全部隊に戦闘態勢をとらせろ。
必要なら火炎放射器もガスも使って構わない。
1匹もダンジョンに来させるな。」
「了解。」
「鈴木一佐、ダンジョン内の全てのヘリ部隊に12時間以内に出撃準備を完了させろ。追加のヘリも償還しておく。」
「了解。」
命令を受けた2人はそれぞれ散っていく。
アリアと2人になった俺は彼女と向き合って言った。
「アリア、すまないが恐らくは君の故郷を焼き払ってしまうことになる。」
「構いませんよ。
あそこには辛い思い出しかありませんから。
むしろ存分に焼き払って下さいね。」
「…すまない。」
明るく振る舞おうとしているが、内心は複雑なのだろう。
いくらに辛いことしかなかった場所でも故郷は故郷なのだから。
そんな場所で戦うのだから中途半端なことは許されない。
俺は再び覚悟を決め、製作に取り掛かった。
ー『元龍院』非常召集前日
ダンジョンでの会議の約12時間後、ダンジョンから飛び立ったヘリ部隊は街へと到着しようとしていた。念のため偵察ヘリを先行させて生存者がいないか探させたが、いるのは地面を覆い尽くす虫のみだったそうだ。
人の死体すら見られなかったそうだ。
やるしかない…。
大量虐殺した報いを受けやがれ。
俺はマイクをとり、命令を下した。
「HQより全機へ、敵を殲滅せよ。
1匹もその街からだすなよ。」
そして命令は即座に実行された。
アパッチからロケット弾がはき出され、ブラックホークから機銃が掃射される。虫達はどんどん数を減らして行き、10分もすると粗方は終了していた。
途中大型のゴキブリみたいなのがいたが呆気なくヘルファイアで沈黙したし、巨大なバッタみたいなのがとんで逃げようとしたらスティンガーで粉砕してた。
まさにヘリ無双である。
そして攻撃開始から15分経ち弾薬が切れかかってきた所で、いきなり全ての虫が消滅した。
そう、死んだのではなく消滅したのだ。
ヘリ部隊からも困惑の声が上がる。
誰もが何が起きたか分からずに混乱していた。
……俺以外は。
俺には心あたりがあったのだ。
クリーチャー(・・)達が一気に消えるということの意味することが。
それはダンジョンマスターの死だ。
ダンジョンマスターが死ぬとダンジョンは全て消滅する。
多分これだろう。
案の定ウィンドウには俺の予想を裏付ける情報が載せられていた。
<New>ダンジョンがレベルアップしました。
部隊の償還制限、兵器の製作制限がなくなりました。
『メニュー』より償還及び製作可能です。
<New>ダンジョンマスターを撃破しました。
DPが引き継がれました。
ボーナスポイントが発生しました。
<New>『神の気まぐれ』を入手しました
DPが10倍になりました
…何か最後に変なのあったけどDPを10倍とか大丈夫なのか…?
虫を焼き払ったことと、ダンジョンマスター(わざわざ虫を率いて街に来てたらしい馬鹿)を撃破したことで大量のDPが手に入り、『神の気まぐれ』でDPが10倍になったことで俺のDPはほとんどカンスト状態になった。
…もう必要ないなら殺したりはしたくないんだけどな。
カンストしたDPを表示するウィンドウを見ながら俺はそんなことを考えていた。
しかし直ぐにそんなことは不可能だと、知るようになる。
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