6話
今回は物語の設定、みたいな感じです。
そこは異様な空気に包まれていた。
その場にいる者のいずれもが重苦しいオーラを醸し出しており、事態の重大さを表していた。
年齢層としては高齢の者が多く、そうでないは少数であった。
しかしそれも当然と言えるかもしれない。
なぜなら彼等こそがギルドの最高意思決定機関、『元龍院』の構成員なのだから。
構成員のいずれもが卓越した才能を持ち、華やかな功績を残してきた者達だ。
今となっては各国のギルド長という地位に就いて第一線からは引退しているが、今尚その力は通常の兵士数百人に匹敵するとされる。
そしてそんな彼等がこのように集まるのは余程の緊急時のみ。
それも、国が滅ぶか否か、ぐらいの案件でなければならないのだ。
「…で、何故我々が緊急召集されるのかね?」
構成員の1人が口火をきる。
ただ質問者の表情から察するに、彼は質問に反して何らかの事情を知っている様であり、質問というよりかは確認という意味合いでの発言だったようだ。
当たり前ながら本当に事情を知らずにこの場に来る愚か者などいないに決まっている。
ここで1人の構成員から説明が入る。
その構成員は『元龍院』唯一の女性であり、そして若かった。
しかし彼女を侮ってはならない。
彼女こそがギルド本部のサブギルドマスターなのだから。
「今回の件については私の方から説明させて頂きます。
恐らく皆さんには予想がついていると思いますが、今回の議題は今現在この大陸に多量に発生したダンジョンについてです。
ダンジョンが発生し始めてから約2ヶ月が経過し、その間に発生したダンジョンの合計数はおおよそ30程でしたが、そのうちのいくつかは既に殲滅しましたので残りは20と少しです。ただしこれはギルドが把握している範囲での情報ですので実際は更に多いということも考えられます。その点は十分にご留意下さい。」
「それは既に聞きましたな。
今回の召集の目的はそのようなことではないのでは?」
別の初老の男性が尋ねる。
「おっしゃる通りです。
この度、特に危険性が高いと判断されたダンジョンが複数発生したため、ギルド本部では『2つ名』を設定することにしました。」
サブギルドマスターがそう言うと用意していた冊子が待機部屋外で待機していた職員によって配られていった。
その冊子にはダンジョンの所在地、ダンジョンによる侵攻の状況、ダンジョンの特徴などが書かれていた。
ギルドが存在している大陸には大きく分けて4つの勢力が存在していた。
1つ目は大陸最大の規模を誇る国家、『ヴォルビス帝国』。大陸の北部の大部分を占める国で、鉱物資源が豊かな国である。
兵士の動員数は約80万。
2つ目は、『チチェンツァ王国』。国家の規模は帝国と比べて小規模だが、常備軍の全てが魔法と剣を併用して戦う魔導騎士であり、精練された極めて強力な戦力を保持する。
ちなみに我らがダンジョンがあるのはこの国である。
兵士の数は約9万。
3つ目は、『テノン都市国家連邦』。
その名の通り、小さな都市国家が集まってできた国家であり、永久中立国であることを宣言している。帝国と王国の間に挟まれている国家であり、唯一の民主主義国家である。
兵士の動員数は20万人。
ここまでの3つが『人』の国家である。
残った勢力には亜人や魔人の住む地域、通称『キルレンジ』がある。
ここについてはあまり調査が進んでおらず、手付かずのままだった。
今回ギルドで『2つ名』を付けられたダンジョンは、帝国と王国にそれぞれ2つ、連邦に1つの計5つだった。
1つは帝国北部の氷雪地帯にできたダンジョン、『絶対零度』。
出現したのが帝国の大規模な鉱山の近くで、帝国とギルドが気がついた時には既に鉱山都市がまるごと1つ氷に埋もれていた。
氷系の強力なモンスターが特色である。
2つ目は同じく帝国の中部に出現したダンジョン、『猛毒郷』。
侵攻は確認されていないが帝都(=帝国の首都)に比較的近い地域のダンジョンで、その性質の危険性から2つ名が与えられることとなった。
3つ目は連邦と王国の国境付近にあるダンジョン、『巨人の魔窟』。一応は連邦内にあるが、王国も警戒を強めている。
ただ、連邦が中立国であることと王国自体に余裕が無いことから軍の派遣やパトロールは行われていない。
トロールなどの人型モンスター達が特徴だ。
『巨人の魔窟』という名称に反して小型のモンスターであるゴブリンなども確認されている。
4つ目は王国の火山地帯に出現したダンジョン、『獄炎地獄』。
こちらは近くに王国軍の訓練所や慰安施設、さらには軍向けの温泉などの城下町ならぬ軍下町があったらしく、出現後すぐに戦闘となった。
『獄炎地獄』の火力は凄まじく、精鋭揃いの王国軍でも手こずったそうだ。現在はにらみ合いが続いている。
最後の1つは同じく王国の森林地帯にあるダンジョン、『蠢く森』だ。
このダンジョンのクリーチャーは、ずばり虫だ。
このダンジョンを発見した者曰わく、あまりの虫の多さに森が動いているように見えたらしい。
これらのことが詳しく書かれた冊子をほとんどの者が読み終えたのを見計らって、サブギルドマスターが説明を続けようとすると係員の1人が青ざめた顔で息を切らしながら会議室に駆け込んできた。
「何事ですか?
会議中に関係ない者の入室は禁止されているはずです。」
「も、申し訳ありません。ですが、、…」
「なんか言うことがあるなら速やかに報告なさい。」
「で、では。
先程入った連絡で信じ難いのですが…
『蠢く森』が何者かに殲滅され、ダンジョンが消滅した模様です。」
次回から主人公視点に戻ります。
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