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ロールプレイン・ディス・ワールド  作者: たる。
第一章 あぶれ者と自称勇者
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「……で、これか」

 グラウンド脇にある倉庫の前には、全長2メートルほどの石人形が置き去りにされていた。目の役割を果たしている水晶体は暗くなっていて、うんともすんとも言わない。どうやら確かに壊れているようだ。

「……リヤカーで運べるか、こんなの」

 〈戦士〉のような力持ちの〈ロール〉を持つ者がいれば素手でも運べるかもしれないが、志乃には無理な相談だった。一応リヤカーは持ってきているが、まずここに積むのが大変そうだ。

 とりあえず持ち上げようと試みる。

「うぐっ……!」

 ……とてつもなく重い。わずかに持ち上がりはするものの、リヤカーに乗せるのは無理かもしれない。

「あれ、また奉仕活動?」

 誰かが声をかけてきた。ふわりと甘い香りがして、志乃は顔を上げる。

 そこに立っていたのは、長い髪の女子生徒。リボンの色が志乃の一つ上の三年生であることを示しているが、顔立ちはどこか幼さを感じさせる。腰には二本の刀を帯びていた。

「お手伝いしようか、しーくん?」

「……だから、『しーくん』はやめろって……」

 志乃のことを「しーくん」と呼ぶ彼女は鬼柳千歳(きりゅうちとせ)。志乃の従姉である。人懐っこい笑顔を浮かべるその柔らかい物腰や可愛らしくも大人びた外見から、彼女は志乃とは対照的に学園でトップクラスの人気者だ。

「だってしーくんはしーくんだよ」

「いや、恥ずかしいだろ、先輩」

「あー! また先輩って言ったー! もう、昔みたいに『おねえちゃん』って呼んでよ」

「いや、昔っていつだよ。とにかく大丈夫だから……」

 と、もう一度〈ゴーレム〉に向けていた視線を再び千歳に向けかけ、……慌てて逸らした。

「……が、学園トップクラス……」

「ふぇ? どうしたの、しーくん?」

「だから『しーくん』は……いや、この際それはいい。よくないけど、構わない」

 前かがみ気味に覗きこんでくる千歳。膝に手をついているその体勢故に、……腕が、胸を押し上げて、強調しているのである。

「それもこの角度だと谷間とか見えかねんぞただでさえトップクラスだってのに……」

「え?」

「なんでもない! 手伝ってくれ先輩! 反対側! 持って!」

「うん……?」

 きょとんと小首を傾げる。従姉という微妙な距離の存在であるがゆえの微妙な背徳感が志乃を責めていた。

 学園トップクラスのスタイル。……人気を助長している最たる要因の一つである。

「……これだけ無警戒なのも従姉弟だからだし、この点においては恵まれてる……?」

「しーくん、持ちあげるよー?」

「お、おう!」

 女性相手に力仕事の手伝いを頼むというのも志乃にとっては気の引ける話だった。しかし千歳はいわゆる前衛系に区分される〈ロール〉の持ち主である。

「せーの! ……あ、思ったより軽いねー」

「あー、うん、そうだな……」

 ……悲しいことではあるが、彼女は志乃よりずっと力持ちだ。

 これでも志乃は、〈ロール〉により筋力などを強化されていない、例えば〈魔術師〉のような〈ロール〉に目覚めた成人男性と比べればずっと力は強い方である。足も早く体も頑丈で、とにかく「素の人間よりは強い人間」というのが唯一の取り柄だった。

 だが、それでも千歳には及ばない。千歳の〈適応率(レベル)〉が特別高いことを差し引いても、やはり〈ロール〉の力というのは絶大なものなのだ。

「よいしょっと。……えっと、どこまで持っていくのかな」

 〈ゴーレム〉をリヤカーに乗せると、千歳は小さく小首を傾げた。

「裏の廃棄場だってよ。もう後は俺一人でもいいぞ」

「そう? でも重くない?」

「平気平気。これを引っ張るだけなら」

 グイッと力を込めて引っ張る。

 ……重い。どうやらこの〈ゴーレム〉というのは力尽くで動かす分にはべらぼうに重いらしい。

「……なんとか、校舎、裏、まで、くらい、なら……」

 ずるずるとリヤカーを引っ張る志乃。終わる頃には日が暮れそうな遅さだった。

「手伝うよ?」

「……おう」

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