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竜の魂   作者: 長月 四郎
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第5話 闇への逃避

 「ジル、怪我は大丈夫かい?」

  

 エステルがジルの背に手を添えて優しく声をかける。辺りを見回すと、既にロランはそこにはいなかった。騒ぎにまぎれて消えたようである。


 「平気だ。あの小僧、生意気にも手加減しやがった。それより、どうする?」


 「妙なことになったね。あたしら嫌われているようだし。それにこのままあの坊やを追っても正攻法ではおそらく私でも勝てないよ。それにしても、青い炎を使えるなんて、あれはラファエル様(=宰相)しか使えないかと思っていたのに・・・・・・。」

 

 「ジル、立てるかい。」


 「ああ。」


 エステルは自らの肩を貸してジルを立ち上がらせると、半歩前へ出て細剣レイピアを抜き、胸を張って直立すると、周囲を睨みつけ、毅然きぜんとした態度で言い放った。


 「あらぬうわさで騒ぎ立てる者!宰相、竜騎士に不満のある者!我の前に出て立ち合え!さもなくば、道を空けよ!」


 鬼気きき迫る様子に気圧けおされ、刃向う者などその場にいるはずもなかった。エステルとジル────二人の行く先には、まさに群衆の間に道が出来ていくかのように開けていくのだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 宿場町ラングは周囲を城壁に囲まれていて、東西南北のそれぞれ四か所に城門が設置されている。先程、決闘騒ぎがあった夕陽丘亭ゆうひがおかていは西の城門近くに位置している。北の城門付近は、宿屋や商店よりも住居が多く、この時間帯は静かであった。北の城門から入ってすぐのところに人工の泉があり、その中央に鎧に槍を構えた姿の女神の石像が立っていて、その周りはちょっとした広場になっている。その広場の隣には、この町唯一の聖堂があって、その裏手が墓地であった。


 ロランとセレーヌはその墓地で落ち合う約束をしていた。


 ロランが泉のそばを抜けて、息絶え絶えの様子で墓地に辿り着く。墓地まで来ると、聖堂の外壁を背に滑るようにして倒れこんだ。全速力で走って来たからか、息が切れているようだが、それ以上に激しく咳き込んでいて苦しそうである。

 

 「セ、セレーヌ、いるのか。」


 辺りを見回すが誰もいない────。


 「ここよ。どうしたのロラン、大丈夫?」


 墓地に立つ木の木陰から、セレーヌが姿を現しロランのそばへ駆け寄る。


 「ゴホッ、ゴホッ────。少し無理したかも。でも大丈夫さ、夜になるといつもこうなんだ。」


 「いつもって・・・・・・。顔色悪いけど、怪我はしてないの?」


 セレーヌはそう言ってロランに怪我したところはないか甲斐甲斐かいがいしく確認する。とにかくどうしていいか分からず、落ち着かない様子だ。


 「竜騎士は確かにキミを狙っていた。セレーヌ────キミは何者なんだ・・・・・。いや、今はとにかくこの町を出よう。竜騎士は殺してはいない。まだ追ってきているかもしれないし、近くに仲間がいるかもしれない。俺は大丈夫だから、とにかく逃げよう。」


 そう言ってロランは立ち上がると、セレーヌを引き連れ北の城門へと向かった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 北の城門は、当然この時間なので閉まっていた。ロランとセレーヌは用心して物陰から様子を伺ってみる。城門の前には衛兵が一人立っている。おそらく城門の外にも同じように衛兵が立っていることだろう。ロラン達が起こした騒ぎは、まだ北の城門には伝わっていないらしく、特段変わった様子はない。衛兵ものんびりした雰囲気だ。


 ロランとセレーヌは顔を見合わせ、お互い無言で頷くと、正々堂々と門へと近付いて行った。こんな時間に外へ出ようというのだから、少しは怪しまれるだろうが、目だった行動をとるわけにもいかないし、時間もない。適当に言いつくろって門を開けてもらう算段でいた。


 ロランが北の門の衛兵に話しかけようとしたまさにその時、衛兵の方から寄ってきて少し下がれと両の手の平で押し込む動作を見せた。

 

 「え、引き止める気か。」


 戦うことも止む無しとロランは覚悟を決め、剣に手を伸ばそうとしたが、すぐ誤りに気付く。


 ゆっくりと門が手前に開き、数名の商人風の旅人が現れたからだ。彼らを入れるために門を開けようとしていただけなのだ。


 「ありがとうございます。」「こんばんは。」


 彼らは口々に愛想良く衛兵にお礼を言いながら入ってくる。


 ロランとセレーヌはその機に乗じて、彼らとすれ違いで町の外へ出る。


 町の外は闇────灯りなどない。しかし今夜は運良く満月のため、月明かりでほのかに道は見える。その道に沿って二人の男女は足早に闇の中へ去っていくのだった。少なくともこの夜、二人の後を追う者はいなかった。


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