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竜の魂   作者: 長月 四郎
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第3話 二人の竜騎士

 二人が夕陽丘亭に入ると、フロントに立つ初老の紳士が満面の笑みで出迎えた。


 「いらっしゃいませ。」


 ロランが一歩前へ出て応対する。


 「二部屋並んだ部屋で、値段はいくらでもいいから出口に近い部屋をお願いします。」


 「二部屋並んだ部屋ですか────。今日はお客様多くてほとんど部屋が埋まってしまっているんですよ。間に一部屋挟んで良ければあるのですが・・・・・・。」


 そう言われてロランが思案していると、セレーヌがフロントデスクに身を乗り出し


 「それなら、部屋は一つでいいわ。ベットは二つの部屋でね。それならあります?」


 と会話に割って入る。


 「えー、それなら空いてますよ。ベットが別々の部屋ですね。そこの階段を上がってすぐの部屋と、一番奥の部屋とどちらに────、ああ、出口に近い所でしたね。それじゃ階段を上がってすぐの部屋がいいですね。部屋は一つでも二人でお泊りなので、二人分の40Gになります。よろしいですか。前払いでお願いします。」


 「分かったわ。私が二人分払います。」


 ロランは何か言いたそうにしてたが、セレーヌはさっさと払ってしまった。


 「もし、晩御飯がまだなようでしたら、そちらが食事をする場所になっていますので、ご利用ください。うちのシェフの料理は美味しいと評判で、宿泊客以外の方もわざわざ食べに来てくださるぐらいなんですよ。」


 初老の紳士はそう言うと、部屋の鍵をセレーヌに渡すのだった。


 「どうもありがとう。そんな美味しいお料理なら是非食べてみたいわ。」



 二人は今夜寝泊りする部屋へ行き、どちらがどのベットを使うか決めると、直ぐ部屋を出て、フロントに勧められたこの宿の食堂で食事をすることにした。

 そこにはテーブル席が数セットあるのだが、確かに繁盛していて、二人が来たときにはテーブルは一つしか空いていなかった。二人はそのテーブルに座って、そろってシェフのお勧め料理を注文する。

 まずは、すぐに自家製パンが席に運ばれてくる。


 「セレーヌ。やっぱり宿代、自分の分は自分で払うよ。」

 

 パンを運んできた店員が去ったところでロランがそう言って20G取り出す。


 「こんな所で行儀が悪いわよ。まだそんな事言ってるの。さっき部屋でその話は終わったじゃない。いつまでも気にする性質なの?」


 「・・・・・・。」


 ロランは、一晩とはいえセレーヌと同じ部屋で寝泊りすることになったことに、少なからず動揺しているようで、さっきからどうも会話がうまくかみ合っていなかった。会話も途絶え、視線を向ける先に困っていると、その時、フロントに男女二人連れの客が訪れた。


 さっきの初老の紳士が応対する。

 

 「それは、ちょっと困ります。」

 

 と、初老の紳士が語気を荒げて言うのが聞こえる。二人連れの客がなにやら無理難題を言っているようだ。その無理を言う客は、どちらも革の鎧に青いマントという同じ格好をしている。その女性の方が、ロランの方をちらっと見やった。


 ロランはその女性と目があった時、その女性が口元に微笑みを湛えたのを見た気がした。これはもうなんていうか、同じ匂いを感じるというか────、あくまで勘でしかないがロランはその二人にただならぬ危険を感じるのだった。


 小声でセレーヌに話しかける。


 「鎧姿に青いマント、剣を持った二人組が入ってきた。こっちを気にしている。待て!後ろを振り向いてはいけない。」


 「青いマントなの。それはきっと竜騎士よ。こんなところに竜騎士が泊まりに来るはずはないわ。きっと私が目的・・・・・・。」


 「なるべく自然に、後ろのドアから外に出るんだ。さっき部屋で打ち合わせておいた場所で会おう。できるね。」


 セレーヌは黙って頷き、トイレにでも行くかのような素振りで席を立った。


 その後二人の竜騎士は、フロントが止めるのも聞かず、ずかずかとロランのテーブルの前まで歩いてきた。

 二人の竜騎士とはエステル・セドランとジル・セドランである。

 エステルは先程までセレーヌが座っていた席に勝手に座ると、微笑みを湛えながら静かな口調で、


 「ここにいたお嬢様はどこに行ったのかしら。」


 とロランに問うのだった。

 

 「いえ、ずっと一人ですよ。」


 とロラン。


 「すっとぼけるな、ガキが。」


 とジルがテーブルを叩いて凄む。エステルは逸るジルを右手で制して話を続けた。


 「どうやらフロントで揉めている隙に逃がしたようだね。坊やは随分、勘がいいんだね。良い剣士になるよ。でも嘘はよくないねぇ。」


 その時、無頓着にも前菜の皿を持ったウエイトレスが、ロランのテーブルの側までやって来て、そこでやっと異様な雰囲気に気付いたようで驚きとともに「はっ」と声を上げ立ち止まった。手には二つの皿を持っている。


 エステルがその皿をあたかも自分に持ってこられた料理であるかのように、自ら手を差し出して受け取ると、自分とロランの席の前にそれぞれ置いて、


 「娘がどこへ行ったか、知っているんだろう。どうやら手荒な真似をしてでも聞くしかないようだね。」


 とあくまで静かに、微笑みを切らすことなく、聞き分けのない子供に言い聞かすかのようにロランに凄むのだった。

 

 「エステル姉、俺に任せてくれ。小僧外に出ろ。ここじゃ宿屋に迷惑がかかる。お前も少しはやるんだろう。ガキは俺がしつけてやる。」

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