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公立小学校もの

猫の泣ける話

掲載日:2026/02/24

1.

僕は8歳の時、親父が勤める会社の寮に住んでいた。


それは西袋池にあり、今とは全く違い、空き地が多く、木造の汚い建物が周りに混在していた。


そもそも、その寮はどこかの旅館を解体して、運んできて組み立てたらしい。


だから南向きの部屋もあれば、北向きの部屋もあった。


庭は地面で、草が伸び放題になっていた。


踏むたびにざわざわと音がするその草むらは、僕にとって小さな冒険の舞台でもあった。


周りは商店街で環境は悪いが、僕は勉強などしなくてもクラスで2、3番であった。


そんなことで少しだけ自信を感じ、毎日元気に遊びまわることができた。


昼間は工場の機械音が絶え間なく鳴り響き、どこか遠くから「南無妙法蓮華経」と誰かが唱える声が、風に乗って聞こえてきた。


僕はその不思議な声も、全く気にせず、遊びに没頭していた。


塀の上にはいつも猫が一匹いた。


毛は少し乱れていたが、気高く堂々としているように見えた。


家には鰹節の入ったケースがあり、僕は好奇心に駆られ、猫を鰹節で誘ってみた。


するとその猫は縁側に上がってきて、鰹節をむしゃむしゃと食べた。


目を細めて味わう様子は、まるで僕に信頼を示しているかのようだった。


その猫はもう来なくなった。


塀の上で日向ぼっこしている姿を見るだけになった。


僕は隣のボロ家に誰かが住んでいて、猫に餌を与えているのだろうと察した。


当時は野球ブームで、ほとんどが巨人ファンであった。


僕も弟も、毎日ボールを追いかけていた。


ボールはテニスの軟球で、打ったボールが猫のいる家の庭に入ってしまった。


僕と弟はボールを取らせてもらいに、隣の家に行った。


「ボール、取らせてください」


隣に住んでいたのは、50代か60代のお婆さんであった。


小さな体からも感じられる孤独感は、僕には初めて触れる大人の寂しさだった。


お婆さんは一人暮らしで寂しかったのだろう。


僕と6歳の弟を快く家に入れてくれ、庭に落ちたボールを拾わせてくれた。


2.

それからしばらく経ってのことだった。


猫が再び寮の庭に入ってきた。


僕はまた鰹節を食べにきたのかと思った。


だが庭に鰹節を撒いても、なぜか猫は食べなかった。


ニャーニャーと泣くだけである。


うるさいやつだと思い、僕は猫を追い払おうとした。


すると猫は一目散に逃げ出した。


いつものように塀に飛び乗るのではなく、隣のボロ家に玄関から入っていった。


扉の隙間から見ると、前にボールを拾わせてくれたお婆さんが血を吐いて倒れていた。


猫はお婆さんの頬を舐め、必死に慰めようとしているかのようだった。


僕は心臓が早鐘を打つのを感じながら、母親を呼びに戻った。


「お母さん。隣の菅原さんが血を吐いてるよ」


母も様子を見に行き、すぐに救急車を呼んだ。


救急車は菅原さんを搬送したが、そのまま入院となった。


それから1ヶ月すると、隣のボロ家の取り壊しが始まった。


菅原さんは亡くなったらしい。


飼い主を失った猫は、うちの寮の庭に来るようになった。


僕が鰹節を与えると、ニャーニャー泣きながらむしゃむしゃ食べた。


よほど腹を空かせていたのだろう。


その小さな体が震えているのが見えた。


だが僕の両親は、こんな雑種の猫を飼うのに反対した。


僕は鰹節をこっそりやっていたが、次第に猫はやせ細っていった。


ある朝、庭を見ると、うちの軒先で猫が死んでいた。


小さな体は冷たく、もう動かなかった。


「お母さん。猫が死んでるよ」


「保健所に電話すると、飼い主とみなされお金を取られるのよ」


「へえ、そうなの」


「仕方がないから、庭にお墓を作ってやりましょう」


「あの猫は菅原さんが以前、飼っていた猫だよ。いつも塀の上にいた」


「じゃあ、塀の下にお墓を作ろう」


母はシャベルで穴を掘り、猫の死骸を埋めた。


その辺に転がっていた大きめの石を持ってきて、その上に載せた。


僕は時々、鰹節をこっそり猫の墓に撒いている。


猫の小さな命を、心の中でそっと思い出しながら。

























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