俺ばかり
「はあああ……」
盛大なため息をつくのは樹だ。
「なによ?デカいため息ついちゃって」
「聞きたい?」
「いや、全然」
とつれないことを言うのは拓真。
「話したいくせに」
と俺が言えば、高晴もニコニコ笑ってる。
「あのさー」
結局話してるしw
「なんかさあ、いっつも俺ばっかりなんだよね」
樹がぼやく。
「ん?」
「なにが?」
みんな?顔してる。俺もわからん。
「彼女! 電話するのもLINEするのも、どこか行こうって誘うのも、なにしようか、なに食べようか、決めるのぜーんぶ俺!」
「ほう」
「で?」
「なんでいつもいつも俺なの?
なんでいつも俺ばかり!?」
樹がヒートアップする。
「つまり彼女の方からも何かしらのアクションが欲しいってこと?」
と拓真が聞く。
「そう!」
「そんなに嫌なのか?」
と俺が聞くと、
「俺ばっか好きみたいじゃん!」
わはははは!
「それじゃダメなの?」
「俺ばかりが嫌なの!」
「樹のこと頼りにしてるってことなんじゃないの?」
「違うでしょ、待ちなんだよ、姿勢が!」
「姿勢が待ちとは?w」
「うーけーみ! 受け身!」
「ウケるw」
「もっと俺に前のめりになれってこと!」
うははははは!
拓真が、
「まあ、わからなくはないよ、俺は」
「だろ!?」
「頼られてるのはいいんだけど、俺ばかり好きみたいって思うのはわかる」
「ほら!」
「なんか不公平っていうか、対等じゃねえよな」
「俺、拓真と付き合う」
樹と拓真が抱き合う。
キモいw
「奏多は?」
「俺? 俺はそういうのないなあ」
「いつもどうしてんの?」
「俺の場合、向こうがほとんど全部やってくれるというか…」
「マジで? そんなマメな子この世にいるのかよ」
「つーか、お前、やってもらっててなんとも思わないの? 彼女から私ばかりとか言われない?」
「うーん、言われないなあ。いつもありがとうとは思ってるし言ってるつもり」
「高晴は?」
「俺はいくらでもしてあげたいから、むしろ俺ばかりでいい」
「マジ? お前虚しくならねえの?」
「なんで? 好きだから尽くしたいんでしょ? それで喜んでくれるなら嬉しいし、足りないくらいだよ」
「高晴、お前悟り開いちゃった?」
「違うわw」
「彼女に尽くされたいって思わない?」
「付き合ってくれてるんだから好きでいてくれてるとは思うし、どれだけ向こうが尽くしてくれても俺の方が絶対もっと好きだし」
「そんないい女なのかよ、お前の彼女って」
「会わせろ」
「そこにいるけどね」
「え?」
「今なんて言った?」
「今度会わせるよ」
「高晴がこれだけ尽くす彼女見てえ!」
高晴がニヤッと笑う。
やめろ、さっきから俺、絶対顔赤い。
お前、臆面も無くよく俺の方が好きとか言えるな、本人目の前にして。
そう、俺と高晴は半年くらい前から付き合っている。
まだ樹や拓真には話せていない。
高晴は話せばいいのにって言うけど、俺が照れちゃってダメ。もう少し待ってって言ってる。
そんな意気地のない俺でも高晴は気長に待ってくれるし、高晴の献身っぷりは目を見張るものがある。
「そんなに気を遣わなくていいし、なにもしてくれなくていいから」
と言ったことはあるが、
「俺が奏多を好きなんだ、なんでもしてあげたい、するのが嬉しい」
と言って聞かないんだ。
俺だって好きなのに……
俺だって、俺ばかり好きみたいと言いたい。
思うのはいつも俺ばかり愛されてるってこと。
でも高晴が一つだけ特別だと言って喜んでくれてることがある。
二人でいる時、高晴のことを『はる』と呼ぶことだ。
その時はすごく喜ぶ。
この顔が見たいんだ。
はるが俺にしてくれること全てが嬉しい。
そうされると俺がはるにしてあげたいことも増えていく。
はるへの思いがどんどん蓄積されていく。
それを貯めていつか大きな『俺ばかり』にしてはるに返す。
だから待ってて、はる。