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始まりたい

広田(ひろた)いつから東京?」

「俺?3月末には行く」

「もう荷物まとめたの?」

「全然。何を持っていって、何を置いていけばいいのかわからなくて捗らない」

「手伝おうか?」

「マジ?助かる……あーやっぱいいや」

「なんでよ?」

「だって部屋丸ごと晒すわけじゃん?」

「そうだな」

「男の子なんで見られたくない物の一つや二つや三つ…あるわけですよ」

「ふっ、それは持ってく荷物?w」

「俺の癒しですので必須ですね」

「ふはっ!慰めだろ?w」

「あなた、デリカシーないねえ」

「お前は羞恥心がねえな」

「ふっ」

「くくくっ」


広田は4月から東京の大学に通う。


「お前は?石井(いしい)

「うーん、来週には行こうと思ってる」

「早くね?」

「早く行きたい」

「なんで?」

「なんでって…」

「そんなに楽しみなの?向こう行くの」

「楽しみと言うか、切り替えるのに時間かかりそうだし」

「切り替え?」

「うん」

「大学生になるから?」

「いろいろ」

「なんでそんな含んだ言い方するんだよ」

「いろいろはいろいろだよ」

「そういうところあるよなあ、お前って」

「なによ?」

「肝心なところぼかすんだよな」

「そんなことねえよ」


石井は九州へ行く。

距離は遠いし、仲はいいがそんな遠いところへわざわざ会いに行くほどではない。

でも一緒にいてとても楽しかった、それは本当だ。


「そんじゃ、俺行くわ」

「うん」

「元気でな」 

石井が手を挙げる。

「石井もな」

広田も手を挙げそれに応える。



「…………」

「…………」



「…………………」

「…………………」



っ!

広田がグッと拳を握りしめ自分を奮い立たせる。  

そして顔を上げると、くるりと振り返り石井の元へ走る。



「石井!」

「あ…」

下を向いて歩く石井はサッと涙を拭う。

「お前、なんで泣いてる?」

「泣いてないよ」

わざと明るく笑う。

「泣いてんだろ?」

「……」

「泣くなよ」

「ずずっ…うっ…」

「俺さ、言わなきゃいけないことがある」

「……ずずっ」

「今日で学校は卒業したけど、まだ卒業できない、俺終われない」

「……」

「終わりにできない、始めたい」

「……」

「お前と始まりたい」

「うううっ…」

「もっと早く言えばよかった、終わりが怖くて言えなかった…」


「離れちゃうから…」

「え?」

「俺のこと忘れちゃうから…」

「忘れないよ!忘れるわけないだろ?」

「忘れるくらいなら嫌いになって…」

「嫌いになんか絶対ならない」

「怖い」

「怖い?」

「距離が、時間が、俺との思い出が他の人で上書きされるのが怖い…」

「上書きはお前がしてよ」

「ううっ…」

「俺の思い出には全部お前がいてよ、

お前とじゃないと思い出にならない」


「遠いから…」

「俺が会いに行く、電話もLINEもする。

不安なら言って、距離は縮められないし、時間も戻せないし進められないけど、俺はずっと傍にいるから」

「傍?」

「覚えてて、俺の体温も胸のドキドキもお前を呼ぶ声も俺の全部を覚えてて。そうすれば傍にいられる」

「…うん」

「俺にも覚えさせて、お前の全部を覚えさせて、だからお前とキスしたい」

そういうと細い路地に石井を引っ張り込んで広田はキスをする。

初めてで、少し震えてて、ぎこちなくて…

でもすごく好きで、大好きで…

だからキスしたい。


「んん…」

「ごめん」

「…謝るならしないでよ」

「違う」

「え?」

「順番間違えた」

「順番?」


「石井、俺、お前が好きだ」

「うっ…」

「泣くな」

「ずずっ…」

「返事聞かせて?」

「…ううっ」

「なあ、聞かせてくれよ」

「…広田が好き」

「…泣きそう」

「ふっ」

「なんで笑うんだよ」

「広田、もう泣いてるよ」

「当たり前じゃん、ずっと好きだったやつに好きって言ってもらえたんだから」

「俺たちはいつもタイミングがおかしい…」

「うん、そうな」

「始められるかな…できるかな…」

「できるよ、それにもう俺は始めてるんだけど?」

「ふっ」

「俺、覚えなきゃいけないことがたくさんある。お前にも覚えてもらわなきゃいけないことがたくさんある。とりあえずキスは覚えた、全然足りないけど」

「ふっふ」

「もっと深く濃く覚えたい」

「すけべ丸出し」

「時間ないから直球勝負するしかない」

「俺、いいって言ってないよ」

「いやいや、これはもう同意だろ?」

「どうかな」

「抱き倒す」

「俺がそっちでしょ?」

「いや、俺だろ」

「やだよ、俺が抱く」

「いーや、俺が抱くから」


広田がまた石井にキスをする。

「んん!なにすんだよ!」

「キスして先に溶けた方が負けな」

「は?」

「溶かしてみろ」

と広田が煽るも、

「その手に乗るか、勝手に溶けてろ」

石井はかわす。

「おい!石井!どこ行くんだよ!」

「帰る」

「帰るな!」

「帰るって」

「帰さねえって!」

「男の子の見られたくない物で慰めてもらえ」


「ふっ」

「ふはっ」

「石井、好き」

「…嫌い」

「…犬」

「しりとりw ぬいぐるみ」

「ミント」

「とんぼ」

「ぼ?ぼ?」

「うはは!」






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