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借り人競争

体育祭シーズンなので体育祭にちなんだお話です。

5月下旬、夏かと思うような暑さの中開催された体育祭。

新学期が始まって約二ヶ月、ようやくクラスがまとまり始めた頃に行われる行事として、その団結力が試される。

俺のクラスはそれなりに盛り上がってる。

クラスTシャツ作ったり、オリジナルの応援考えたり、応援グッズを放課後みんなで残って作ったり、運動苦手な俺だけどこういう雰囲気は好きだ。


100m走やリレーや騎馬戦、なぜか玉入れとかもあったり体育祭としてみんなムキになりながらも楽しんでいる。

リレーでぶっちぎりでゴールしてキャーキャー言われてるのは3年生の(そう)くんだ。俺の幼馴染、(ゆう)のお兄ちゃん。

小さい頃からかわいがってくれて、なんでもできる蒼くんはいつもかっこよくてヒーローみたいだった。すごいなあ、蒼くんは。


そして我が校の名物と言えば、借り人競走。

文字通り物ではなく人を借りてくる。

しかし少女漫画や恋愛物が大好きな校長の趣味で、借りる人が限定されている。

『好きな人』のみ。

もはや借りるではなく狩り。

そして借りる時にはきちんとその理由を述べてから借りるのがルール。要するに告白だ。

万が一断られたら運営委員から白旗を貰い、それを持って一人でゴールするという地獄。

しかし、健闘を讃え、学校中から拍手喝采、校長がお腹を貸すサービス付き。

そのサービスは要らないと思うのだが、意外と校長のポヨポヨしたお腹に癒されると好評だ。


教員の間で、こういったことを体育祭という学校行事の中で遊びにするのは如何なものかという意見が出たらしいが、もそもそ立候補で出場者は決まるし体育祭後のアンケートで圧倒的人気を得ているし、一度実施しないと決まった年にはボイコット騒ぎに発展し、急遽実施したこともあったらしい。校長の腹といい、いろいろコンプライアンス、ギリギリなのは確かだ。

盛り上がるし、カップル成立率が高いため人気が高い種目だし、不成立となったとしても勇者として讃えられるのだから普通に失恋するよりは救われるのかな?


隣のクラスの佑が来た。

(りつ)、今年は何組成立するか賭けようぜ」

 人の恋路を賭け事にする不届き者だ。

「自分の時、笑えないからやだよ」

と言うと、

「真面目だねえ、で、何組よ?」

人の話聞いてる?

「8組」

「乗るのかよw俺5組。近い方が勝ちな、勝ったら学食プリン一週間な」

学食プリンは一週間食べ続けても全く飽きない、人気メニューだ。

「財布用意しとけ」


さあ、いよいよだ。

と言っても俺は出ないし楽しむだけ。

1年からスタートする。

あちこちで、

「俺と付き合ってください!」

「ずっと好きでした!」

「お願いします!」

と言う告白と、

「はいっ!」

「…ごめんなさい」

「……コクコク(涙で声が出ない)」

という返答に校庭が沸く。

照れながらも仲良く二人でゴールする者、白旗を手に一人でゴールし、友達や担任に出迎えられ讃えられる者、悲喜交々だ。


「今のところ二組だな」

「今年は成功率高いね」

佑と賭けの結果を気にする。


次は2年、俺たちの学年だ。

俺のクラスからは中山(なかやま)さんが出てる。

真っ直ぐこっちへ来る。

え?クラスの奴なの?


安藤(あんどう)くん、好きです!」

どストレート!潔い!

安藤の答えは?

頷きながら号泣してる。

それ見て中山さんも泣いてるし、クラス全員がもらい泣き。


「3組は確定か」

うっかり涙ぐんでしまった俺を佑が揶揄う。

ほっとけ。


続いて3年。

出場者を見て驚く、蒼くん!?

「兄ちゃん、出んのかよ…」

佑も驚いてる。

モテる蒼くんの出場で校庭がざわつく。

誰のところに行くのか?

蒼くんはこっちへ来る。

蒼くんの好きな人2年生なんだ、知らなかった。

そして俺たちのクラスの前に立つ。

同じクラスの女子たちが全員ソワソワし始める。誰?誰?ワクワクする。


佐山(さやま)律くん!」


は?


ソワソワしてた女子たちが凍りつく。


「小さい頃からずっとずっとずっと好きです!

俺と付き合ってください!!」


は?


一瞬静まり返った後、キャ────ッ!とウォ────ッ!の悲鳴が轟く。


は?

俺?


佑がめっちゃ笑ってる、涙流して腹抱えて笑ってる。

笑い事じゃねえんだわ。


「律、俺と付き合って」

そう言って蒼くんが手を差し出す。


え、どうすればいいの?

え?ええ?


「佐山、返事しろ!」

とクラスの奴らに急かされる。

女子は泣いている。

「ほら、返事してやれよ」

と佑も俺を蒼くんの前に連れていく。


「律、好きだ」

真っ直ぐ俺を見る蒼くん。


めっちゃ恥ずかしい、どうしよう。

蒼くんはヒーローなんだ、かっこよくてなんでもできるヒーローなんだ。

俺だってずっと憧れてた…憧れって好きってことなの?違うよね?え?違う?え?好き?え?


そんなのわかんない!


パニクった俺は運営委員から白旗を奪い取って逃げる。


「あ──っと!ここでハプニングです!告白された側が白旗を持って逃走!前代未聞の珍事です!」

と放送委員が絶叫してる。


「お前何してんだ!」

と爆笑してる佑。

「佐山!逃げんな!」

とクラスの奴らや先生たちまでもが囃し立てる。

「律!待てっ!」

と全力で俺を追う蒼くん。


「白旗を持ったまま校内へ逃げ込みました!追う告白者、果たして結果は!?」


白旗持ってるんだから勘弁してよお。


校庭からは爆笑と共に、

「蒼、行け──っ!」

と鼓舞する声や、

「佐山、出てこい!!」

という怒り狂った女子たちの声。

後ろからはずっと、

「律──っ!!」

と叫びながら蒼くんが迫ってくる。


白旗!白旗だから!

もうやだ──!




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