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プレゼント

買っちゃった。

ついに買ってしまった。

リボンがかけられた白い箱をうやうやしく掲げる。


区役所職員になって二年目、給料はそれほど多くない。ボーナスは出るけどそれは貯金に回さないと将来怖い。だから毎月コツコツ貯めて一年かかってようやく買えた。


これは雅基(まさき)さんへの誕生日プレゼントだ。


雅基さんの家に住むようになって一年ちょっと。一回り年上の雅基さんは俺が通ってる美容室のオーナーさん。

いつも髪の毛を切ってもらっていたが、ある時、俺が引っ越すという話をしたら雅基さんが、

「俺の家、部屋空いてるから来ないか?」

と声をかけてくれた。

次の部屋が決まるまでの一時凌ぎの居候のつもりが、住み始めてすぐ雅基さんに、

「ヒロくんのことが好きです。初めて店に来てくれた時からずっと好きです。お付き合いしてもらえませんか?」

と告白された。


雅基さんはいつも俺の髪をかっこよくしてくれるし、落ち着いてるし、渋くてかっこいい。

でも付き合うのはよくわからなくて、はぐらかしたら毎日さっきの告白をするようになった。

一緒に住んでるといろんな面が見えてきて、居候なのでご飯を作ると美味しいと喜んで食べてくれるし、きっと仕事部屋だったはずの部屋をベッドやデスクを新調し、ホームクリーニングまでして俺に明け渡し、俺が居心地よくなるようにとリビングのソファーを大きいソファーに買い替えたり、甘いもの苦手なのに俺の誕生日に大きなホールケーキを買ってきてくれたり、こんな居候に優しくしてくれる。

「少しずつでもいいですか?」

と答えになってない返事をしたら、ギュッとハグされ、

「お願いします」

と言って涙ぐんでいた。


今は恋人と言えるのかな。

関係は安定してきたと思う。


そんな雅基さんの誕生日は来週。

プレゼント何にしようか考えて、雅基さんがずっといつか欲しいと言っていたハサミを買った。

美容師さんってハサミをいくつも持ってるんだね、初めて知った。雅基さんもたくさん持っていて使い分けるんだって。

毎日手入れを欠かさないし全部大事にしているけど、いつか欲しいと言っていたハサミはとんでもない値段でなかなか手が出ないと言ってた。

それとなく値段を聞いてびっくりして足にスマホ落とした。

数十万円…そんなに高いの?


初めての雅基さんの誕生日、しかも独立して今年10周年の記念の年、俺そのハサミをプレゼントしたい。

そう思ってコツコツ貯めたんだ。

そしてやっと買えた。

ウキウキする、喜んでくれるはず、喜んでほしい。


誕生日が迫る夜、帰宅した雅基さんがTVを観ながら、

「俺、美容師やめてWebデザイナー一本にしようと思う」

と言い出した。


思わず飲んでたペットボトルを落とす。

「ヒロ!水溢れてるよ!」

とタオルで拭いてくれるがそれどころじゃない。

雅基さん何言ってるの?

「…なんで美容師やめるの?」

「Webの仕事も増えてきたし、そっちだけでいけそうかなって」

雅基さんは副業でWebデザイナーもしている。コンスタントに仕事が来て忙しそうだ。

「店は?お店どうするの?」

「譲ってほしいって人は何人かいるんだよ、だから心配ない」

「俺どこで切ってもらえばいいの?」

「ヒロの髪は一生俺が切るから安心して」

と髪を撫でる。

違う、そんなこと聞きたいんじゃない、言いたいんじゃない。

「まあ、収入は減るけど食べていけないほどではないし」


「やだ!やめちゃダメ!」

「ヒロ?」

「絶対ダメ!」

「え?なんで?」

「ダメったらダメ!」

子どもみたいに駄々こねることしかできなかった。




ヒロはなんであんなに反対するんだ?


ヒロが俺の店に来るようになったのは高校生の頃。

「かっこよくしてください!任せます!」

と注文され、あまりにもざっくりで笑ってしまった。

でもやり甲斐がある、注文通りヒロをかっこよくした。元々顔立ちがいいからどう転んでもかっこいいんだけどね。でもそんなヒロがかわいくて、すぐ好きになった。大学生、社会人になっても通ってくれて、ある日、ヒロから引っ越すことを知らされた。


会えなくなっちゃうの?店に来なくなる?そんなの嫌だ!そう思ったら止まらなかった。

「部屋空いてるから来ないか?」

そう言っていた。必死だった。

でも本当は住んでたアパートが取り壊しになるから区内の別の場所に引っ越すだけだった。区の職員だからそうだよな、俺の早とちり。

ヒロは居候としてうちに来てくれた。

一緒の家に居るのが嬉しくて、数日後にはヒロに告白した。なかなかいい返事をもらえなくて粘り強く告白し続けて、やっと、

「少しずつなら…」

と受け入れてもらえた。

涙が出るほど嬉しかった。



でも美容師と公務員では休みは合わないし、夜は俺の副業で忙しい。一緒に住んでるのに二人の時間が無さすぎる。それが嫌で、二人で居たくて、Webデザイナーだけにすれば在宅で出来るし、一緒に居られるって思った。美容師に未練がないわけではないけど、俺はヒロとの時間を大事にしたい。それが最重要課題なんだ。


なのに猛反対された。

なんで?一緒に居られるんだよ?


悩みまくってヒロとの関係を知ってる友人に相談した。

「なんで反対するんだろう?」

「そんなの決まってるだろ?収入一択」

え…

「一回りも若い、かわいいヒロくんがお前みたいなおっさんと付き合うメリットってなによ?」

「髪の毛カットできること?」

「それもあるけど、金でしょ」

「ヒロはそんな子じゃないよ」

「ヒロくんはいい子だよ、でもさ、Webデザイナー一本にしたら確実に収入減るだろ?

不安にならないか?普通に考えて。

このおっさん大丈夫か?ってなるだろ?」

「……」

「不安なんだろ?安心させてやれよ」


そうか。

そこまで考えが至らなかった。

でもそんな理由寂しすぎないか?

虚しくないか?

金なの?

いや、ヒロはそんなんじゃない!

でも…



帰宅したらヒロが、

「やめないで」

と開口一番に言う。

おかえりよりも前に。

「そんなに不安?」

「え?」

「俺の収入が減るのがそんなに不安?」

「雅基さん?」

悲しい、寂しい、不甲斐ない…


「なあ、ヒロ、俺たち距離置かないか」

「え…」

ヒロが泣いてる。

泣かせたことなかったのに、大切にしてたのに、そんなこと本当は思ってないのに、泣かせちゃった…


俺は寝室に行きベッドで丸くなる。

ごめん、ヒロ、ごめん。

泣かせてごめん。

でも…


そのまま寝てしまった俺は翌朝目が覚め、ベッドにいないヒロに昨夜の仕打ちを思い出す。

当然か…俺まで泣きそうだ…

手に何か触れる。リボンのかかった白い箱が置いてある。

『雅基さん 誕生日おめでとう』

とカードが添えられていた。

あ…そうか、俺、誕生日か…


あんな酷いことしたのに…

箱を開ける。

え…これ…

俺がずっと欲しいって言ったけど高くて手が出なかったハサミ…

きっと、いや、絶対無理したに違いない。

ハサミに涙が落ちる。

慌てて拭く。

でも涙が止まらない。


だからやめないでって言ったのか。

これ使って欲しかったのか…


ヒロの姿を探す。

いた、ソファーで寝ている。

頬に涙の跡が残ってる。

ヒロ…


俺、やめないよ、続けるよ、このハサミ使わせてもらっていいか?

Webの案件、いくつか来てたけど断ろう。

こっちの仕事をセーブしよう、夜はできる限りヒロと過ごしたい。

大切なものはヒロだけだ。

いや、あともう一つ、このハサミもだ。


ヒロ、このハサミでカットさせてくれないか?

一番大切な人の髪の毛をこのハサミで最初にカットしたいんだ。

そう呟いて俺は涙の跡にキスをした。

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