相性
さっきからなに真剣にやってんだ?
岳のスマホを覗き込む。
「わあ、央輔くん!」
「なにしてんだ?」
「央輔くん、質問に答えて」
「なにこれ?」
「相性診断!」
「お前、こういうの好きだな」
「二人の答えを比べられるんだよ、凄いでしょ? これで相性わかるんだよ」
ふーん。
「央輔くんやるよ」
はいはい。
岳と付き合い始めて4ヶ月、大学のサークルの勧誘で声をかけたのがきっかけだった。
「『おでかけサークル』ってなんですか?」
と興味津々で聞いてきた。
「一人よりみんなで出かけた方が楽しそうなことをやるサークルだよ」
と説明したら、
「よくわかんないw」
とケラケラ笑ってる顔がかわいらしくて微笑ましかった。
岳はサークルに入ってくれた。
明るくて屈託のない岳はすぐにみんなと仲良くなり、『おでかけサークル』で一緒に出かけることも増えた。
楽しそうに参加してくれる岳の姿を見ていて、みんなと一緒もいいけど、二人で出かけたい、二人でいたいと思うようになるのに時間はかからなかった。
『おでかけサークル』でフェスに行った帰り、俺は岳に告白した。
岳は、
「俺でいいなら……」
と頷いてくれた。
付き合い始めてからは毎日が楽しくて、岳と一緒にいられることが嬉しくて仕方なかった。
今も幸せすぎてニヤニヤしちゃう。
そんなことを思い返していたら、
「央輔くん、ちゃんとやって!」
と怒られた。
項目いっぱいあるな、左が俺で右が岳か。
入力していく。
好きな飲み物は?
コーヒー コーラ
好きな動物は?
犬 猫
行きたいのはどっち?
海 山
好きな色は?
黒 赤
好きなスポーツは?
サッカー バスケ
好きな教科は?
数学 英語
好きな季節は?
夏 冬
行きたいのはどっち?
水族館 動物園
好きな映画のジャンルは?
アクション サスペンス
好きな学校行事は?
体育祭 文化祭
行きたい国は?
カナダ イギリス
女性の髪型、好みは?
ボブ ロング
スマホにケースは?
つける つけない
好きな数字は?
7 2
好きな本は?
小説 漫画
朝食は?
パン ご飯
好きな時間帯は?
夜中 朝
ネズミー行くならどっち?
ランド シー
北と南、どっちに住みたい?
南 北
好きな卵料理は?
オムライス だし巻き卵
「…………」
「…………」
全然違う、全く違う、正反対。
一つも噛み合わないってある意味奇跡。
ウケる。
おかしくなって笑ってたら、
岳がめっちゃ凹んでた。
人ってこんなに凹む?ってくらい落ち込んでる。
「どうした?」
「……こんなことある? こんなに合わないことある?」
「みんなこんなもんだろ?」
「これ見てよ! 相性度0だよ? 0!」
本当だ、『相性度0』って診断されてる。
なんか書いてある。
『合うものの数が少なかったカップルさん。
落ち込む必要ありません、合わないからこそいつも刺激をもらって楽しめるのではありませんか? 合わないことを嘆く必要はないのです』
お、いいこと言うじゃん。
「ほら、岳、これ読め」
岳にも読ませる。
読んでも岳は凹んでる。
「そうは言っても合わなさすぎでしょ……
俺と央輔くん、相性悪いんだ……」
こうなると岳は長い、しばらく回復しない。
厄介だ。
まだコメントは続きがあった。
なになに?
『一つも答えが合わなかったカップルさん』
あ、俺たちこっちだった。
読んでみる。
『超ラッキーカップル!
だって、これから先一つでも答えが一致したら手に手を取り合って喜んじゃう未来しか見えないでしょ? 最高じゃないですか!
そんなわけないだろ? 相性悪いんだ……と凹んだあなた、あと一つ質問します』
「岳、岳!」
「……なに?」
うっすら涙浮かべてる。
かわいい……
じゃなくて、
「ほら、ここ読んで、超ラッキーカップルだって、喜べ」
すんすん
ダメだ、自分でやっておいてこれだからタチが悪い。そこがかわいい。
「岳、『あと一つ質問します』って書いてあるよ、やる?」
すんすんすん
「更に悪くなったらどうするの?
俺、立ち直れない……」
だからやらなきゃいいのに……手遅れだけど。
「あと一つだからやってみようよ、な?」
「……うん」
岳と俺が入力し、ボタンを押す。
それぞれの回答とコメントが表示される。
『あなたは恋人と別れたいですか?』
いいえ いいえ
『ほら! 恋人も別れたくないって言ってるよ?
答え同じだね! 恋人にキスしてあげて!』
いいこと言う。
言われた通り俺は岳にキスをする。
岳はすっかり機嫌が直って、
「央輔くん!」
と抱きついてくれる。
あーかわいい! 大好き!
俺はアプリに課金した。




