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商店街の恋

母の日のお話です。

毎年母の日にカーネーションを買いに来る少年、かれこれ十数年。

最初は小学1年くらいの時、お父さんと一緒に買いに来た。

3年目からは一人で買いに来たが、本当は3本買いたかった花は意外と高くて、少年のお小遣いでは1本しか買えなかった。


泣く少年に花屋の店主のすみちゃんが、

「君のお母さんは君がたくさんいたらきっと嬉しくて喜ぶだろうけど、大切な君は一人でいいって言うと思うよ。だからそんな君からもらう花は1本でもお母さんには宝物なんだよ」

と優しく諭す。

泣きながらコクコクと頷く少年は大事そうに1本のカーネーションを買って帰った。


次の年もその次の年も少年はすみちゃんの花屋に買いに来た。


そしてすみちゃんを見つめる少年の目がキラキラと眩しいことに商店街の店主たちは気付いていた。

商売柄、客のことは観察してしまう癖がついている。


惚れている。


そんなキラキラした目をして気付かないわけなかろう。

惚れられたすみちゃん以外は。


そんな花屋の男店主・すみちゃんは2年前に結婚した。


店はすみちゃんとアルバイトがやっていて奥さんは繁忙期に手伝いに来る。

まさに繁忙期の母の日に買いに来る少年のため、店主たちが動く。


指輪は仕事する時邪魔だ、貴金属は植物に良くないと嘘をつき外させ、バイトの子には各々の店から賄賂を渡して、すみちゃんが結婚していることを客に口外するなと脅し、手伝いにくる奥さんは商店街の奥様方が巧みに誘い出し、代理を送り込み、少年とバッティングしないようにしていた。

振られてしまい、母の日を少年の暗黒日にさせるのだけは阻止せねばとその使命感に燃える店主たちに異変が起きる。


少年が18歳、高校3年生の母の日。

いつも通り1本のカーネーションを買う。

しかし少年は更にもう一つ注文をする。

カーネーションをたくさん買った。

その数18本。


少年に何が起きた?とハラハラ見守る商店街店主たち。

まさか告白するのでは?と店主たちがざわつき出し、目配せで、なんとかしろ!お前がなんとかしろ!と困惑する中、

花を買い店を出ると、すうっと息を大きく吸うと少年は大きな声でこう言った。


「今まで見守っていただき、ありがとうございました!」 


!!!!!!

バレていた。

焦りまくる店主たちに少年が畳み掛ける。


「もう大丈夫です、卒業できます」

と頭を下げた。


通行人たちが

「なになに?この時期卒業式だっけ?」

「誰に言ってんの?」

と少年を訝しげに見ている。


魚屋のたっちゃんが思わず走り出す。

八百屋のやすが涙を拭きもせず号泣している。

精肉店のかずも店を任せて飛び出して来た。

乾物屋のみつは、

「行ってこい!」

と奥さんに背中を押されて、つんのめりながら走る。


「知ってたんか?」

と聞くたっちゃんに少年は、

「最初は小学生の買い物を見守ってくれてるんだと思ってましたが、途中で違うと気づきました。僕が傷つかないようにしてくれていたこと知っていたけど、諦められなくて…

でももう大丈夫です。だからこれは皆さんへの感謝の気持ちです」

と花束を渡す。


シャイなみつが感極まって、

「よく頑張ったな」

と少年に抱きつく。

「頑張れたかわからないけど…」

と少年は涙をこぼす。

やすはずっとおいおい泣いている。

かずもみつと一緒に少年をハグしてる。

「余計なお節介だったな」

とたっちゃんが頭をかきながら詫びると、

「みなさん、下手くそだからバレバレです。僕も下手くそだからバレバレだったけど…

でも楽しくて、花屋さんに来るのは毎回ドキドキするけど楽しくて…

なんだか心強かったです。強くなれた気がしてました」


たっちゃんが、

「また来年来いよ」

と声をかける。

少年の顔が明るくなり、

「はい!また来年!」

そう言うと笑顔で大きく手を振り、いつも通り1本のカーネーションを持って帰っていった。


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