たぬきことばはまるで暗号だが、一流スパイの俺が読み解いてみせよう
俺の名前はフォックス。本名ではなくコードネームだが、誰もがその名で知る一流スパイだ。
遂にたぬきどもの本部に潜入した。これよりやつらの会話を盗み聞きし、やつらが何を企んでいるのかを暴いてやることにする。
「あしは晴れるかなぁ」
たぬきことばは『た』が抜ける。
つまりこれは簡単。(あしたは晴れるかなぁ)だ。
ふふふ。ここはどう見ても作戦本部らしい。偉そうにでっぷり太った二匹のたぬきはどうやら司令官レベルのようだ。ふふふふふ、二匹の会話を解読しまくってやる。早く──早く重要なことを喋りやがれ。
「晴れらいいね。君んちの子どもは運動会?」
「あぁ。走りか跳びの選手に選ばれんだ」
(晴れたらいいね/走り高跳びの選手に選ばれたんだ)──だな。たぬきの運動会なんてどうでもいい! 早く重要な機密事項の話をしやがれ!
「そっかぁ。うちの子はきんま競争だよ」
「それは恥ずかしいね」
「あぁ。穴があっら入りいよ」
チッ……。こんなつまらん会話、訳す気にもならねぇぜ。
てめーらが俺たちキツネの国にテロを仕掛けようとしてんのはわかってんだ。早くそのことについて喋りやがれ。
「っっっって走るやつのほうがよかっな。きんま競争じゃぶらぶらぶらぶらみっともないもんな」
(たったったったって走るほうが……)──か。いやどうでもいいわ!
「ところでいよいよあしだな」
(ところでいよいよ明日だな)──か。『だ』はいいのかよ。ってか、何がいよいよ明日なんだ?
「うん。あし、かなが百本入荷するよ」
ムッ……?
(明日、刀が百本入荷するよ)──刀だと!?
「うぁー、ぼく、あれ、あんまり好きじゃないんだけどなぁ」
そうだろうな。刀なんかより銃火器のほうがいいだろう。っていうかコイツラ、日本刀でも振りかざしてキツネの国に突撃してくるつもりか?
「キツネちに喰らわせてやろうよ」
クク……。ようやく凶悪な本性を現しやがったな?
「ここにも一本あるよ。これを喰らわせてやろう」
「うん。彼、気づかれてないって思ってるよね?」
なんだ……。なんの話だ……。
「ふふふ。キツネさん、そこに隠れてるのはわかってるよ」
「君ち、これを喰らうのが好きなんだろう?」
先手必勝!
刀で斬り懸かって来る前に撃つべし!
俺のサイレンサー付きの銃口が音もなく二匹のたぬきを葬り去ったあとの作戦司令室で、俺は呆然とするしかなかった。
床に倒れたたぬきの手には、一本の高菜が握られていた。
……もしかして、キツネの好物が高菜漬けだなんて、そんな根も葉もない情報をどこかから仕入れて、俺たちに食わせようとしていたのか?
プレゼントしてくれようとしていたのか?
おいおい……。
『ごんぎつね』みてーなことするんじゃねぇよ……。おまえらたぬきじゃねーか……。
……すまん。