7.酒
しょんぼりぼりぼり
今日は騎士様現れず
元気のでないまま、定食屋の仕事をこなす。
「いらっしゃいませー」
仕事が終わり、家までの道をトボトボ歩いていた。
「そうだ、こんな日は久しぶりに飲んで忘れよう」
明日は休みだし、ぱーっとリフレッシュしないとやってらんないね。
そして案の定、見事な酔っ払いが完成した。
たまに息抜きでくる酒場で、マスターとはちょくちょく話す仲だ。
「そろそろ、水にしときなよエマちゃん。」
「マスターっ!今日は私飲むって決めてるんです!」
「そうかい、そうかい。はいどうぞ水。」
「ぷはー!良いね良いね、マスターんとこのお酒は最高だね!ちょっと水っぽい気がするけど!」
マスターは呆れた目を向けながら、更に水をコップに注いであげる。
「ほどほどにね」
「はいはーい」
机と友達になりながらぼーっとして何も考えたくなくて、目の前のお酒をだだみつめていると、隣の席に、誰かが座ってきた。
「こんにちは、お嬢さん?だいぶ飲んでるみたいだけど大丈夫ー?さあさあ、俺に話たらスッキリするよ!」
「アレク!」
「レオンも座りなよ。マスター!ビール2つね!」
確かに、いつまでもうじうじしていたら良くないよな。
隣の誰かさんに話して嫌な事はさっさと忘れようと、酒を流し込んだ。水だが。
定食屋の昼は忙しい。
ここ王都はそれなりに治安がいいため、ガラの悪そうな人はあまり見ない。
それでも多少は居る訳で…
大柄な男性が定食屋に入ってきた。
「おい、日替わり定食!」
「はーい!お待たせしましたー」
「おう、姉ちゃんいい尻してんなあ」
モミっ
ひゃあ!
「はーい、ありがとうございますーお触りは厳禁でお願いしますねー
今日の日替わり定食も美味しいので、たくさん食べて行ってくださいねー」
接客業をしている以上、それなりの事はたまにある。多少嫌な事があっても受け流さなければ仕事は続かない。
暴力を受けた訳でも、今すぐ死に追われた訳でもあるまい。
ただ、嫌なものは嫌だというだけだ。
特に私の場合、安心安全平和だった前世の記憶に引っ張られているのか、痴漢的行為には恐怖心を抱く。
知りもしないキモいおっさんに触れられるなんて、恐怖でしかなくない?
まあそう言う訳で、
心のモヤモヤが消えずに居たので、飲みたい気分だったのだ。
「今日は神様にも会えなかったし。」
「んー?神様?」
ふと、うつ伏せていた顔を上げたら神がいた。
「え、神がいる。あと、こけし?」
いつも見る朝の騎士様とその他1名。
「んー?神?こけし?」
「あ、私、神は格好良いって意味で使ってて。」
「そっかそっか、ありがとう!俺、よく格好良いて言われるんだわー。」
「え、いや、ちが…」
貴方ではなく、そのお隣が神です
「自己紹介がまだだったね。俺はアレクで、こっちがレオンね!お嬢さんは?」
「エマ」
「おーけー、エマちゃんね!ささ、飲んで嫌な事は忘れようよ!」
アレクさんが何か話しているが、視界に入るレオンさんで頭が一杯だった。
ただ、あまりの神々しさに直視出来ず
赤くなった顔を誤魔化しながら、終始こけし顔ことアレクさんの顔後しに、レオンさんを見つめ続けたのだった。
神の名はレオン…
レオン…
レオン様