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2.前

私は騎士様ウォッチングを終了し、支度を終えて定食屋の仕事に向かう。






朝の仕込みのお手伝いと、昼はウエイトレスだ。


ここ王都では美味しいと評判の定食屋で、なかなかに忙しい。






もともとは、こじんまりとした定食屋を夫婦で営んでいた。


しかし、忙しさで手が回らなくなり、アルバイトを募集したところ、タイミングよく雇ってもらえたのが私だ。






とても優しいおじさんとおばさんで、私のことを娘のごとく可愛がってくれている。


おばさんいわく、やんちゃな男ばかりの兄弟で、娘に憧れていたそうだ。


ありがたい






こうも良くしてもらうと、それに対して返さなきゃいけない心情に陥る。





それが日本人の性だ






そう、そうなのだ


私には日本人として生きた前世の記憶がある。


小さな頃から、何となく日常に違和感を覚える事はあった。


自覚したのは結構最近だ。






ある日、鏡を見て違和感を感じた。

そして思い出した。





この髪留め、

「黒髪だった時は合わなかっただろうになあ。」






黒髪だった時?







私の髪はゴールドの少しピンク掛かった色だ。

黒髪だったことは一度も無い。


よくよく考えてみると、頭の片隅から今の私には無い記憶が思い出してくる。






この世界には無い、車や高層ビル


大量の人が行き交う交差点






と言っても、はっきりとは覚えてはいない。


自分がどんな名前で、どんな生活をしていたのか


細かな事は、思い出そうとしても頭に靄がかかった様に思い出せない。






転生悪役令嬢いえーい!とか


知識チートやったるでー!とか


天才!神子かよ!とか


出来るほどの詳細な知識は無かった。




何となく、そういえばそうだったなあ〜って感覚で、思い出したからといって日常生活が特に変わる事はなかった。






しかし現世の私の母は、そうは思っていはいなかったらしく、昔からちょっと変わった子供だと思っていたらしい。






小さな頃は前世を自覚してはいなかったが、記憶の片隅には知識があったのだろう


母と買い物に行った時には


「野菜にはビタミンが入ってるから身体に良いんだよ!」


「ビタミン?って何かしら?」




家では


「石鹸でしっかり手を洗わないと、バイ菌さんとれないよ!」


「バイキンさん??ってどなた?」






意味はわからなかったが、子供にはよくあることだと思い過ごしていたらしい。






母よ、私のようなちょっと不気味な子供をよくぞ見捨てずに育ててくれた


ありがとう


どこの世界でもやはり母の愛は偉大だ


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