0₋0 『回想₋記憶と残像₋』
気流が乱れ、空気が荒み、空間が歪み崩れていた。
『破壊』。その一言では言い表せない破滅の権化が、その全てが一つの正体不明の存在に引き寄せられていた。否、『存在』という言葉は不適応と言えるほどの、謎がその莫大な破滅を文字通りに異空間に引きずり込んでいた。
空間の叫び、星の悲鳴、滅亡の断末魔が引き裂かれるほどの轟音が、森羅万象を覆す意味不明さが事象を混沌に落としてめていく。
「――――!」
誰かの声だった。
若い、若い青年の声だった。
感情的に暴力的に、ガラス瓶を床に叩きつけるような激発した気持ちの渦が木霊する。
彼は確信していた。
―――あの考えは絶対に成功しないと。
万象が歪み、空間が断裂し、異空間に封じられた破滅が世界という檻からその爪先を覗かせる。
「―――!!」
誰かの叫びと共に、青年が走り出した。触れればどうなるかも分からない事象の崩壊を突っ切り、その脚を動かし、疾風の如く空へと駆ける。
身体能力物理法則どうのこうの、それが全くというっていいほど息を潜ませて、青年の身体の軌道が乱雑にに複雑に絡み合っていく。
異空間の門、そこを突破するように空中を蹴り、猛然と世界を蹴り飛ばす。
「――――!」
何かが破裂する音。しかしそれが何なのかすら理解する前に、青年が門に触れる直前に『終わり』は終わった。
―――――ッ!!
刹那の内に幾千の考えが脳を過り、しかし青年は迷うことなく加速。光をも超える速度によって閉じかける異空の門を潜り抜けた。
それが彼の始まりであり、青年にとって一種の終わりとなった。