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第7話

 高校に入学して何日か経ったある日曜日、わたしは祐ちゃんを誘って水族館へ出かけた。


 淡水魚がメインの珍しい水族館で大きな公園の中にあり、外でピクニックなどもできるので、水族館の年間パスポートを購入しているわたしたちはとてもリーズナブルに1日遊べる場所だったりする。


 バス始発の停留所から二人でバスに乗り並んで座席に座ると、祐ちゃんはわたしの頭を見て「のんちゃんのカチューシャ姿、かわいい。大好き」と、めっちゃかわいい笑顔で言ってきた。まぁ、自分で言うのもなんだけど、カチューシャ姿のわたしは普段よりもかわいく見えると思っているし、祐ちゃんが気に入っているのも知っている。

 そんな祐ちゃんは水族館へ行く時、必ずリュックにコツメカワウソのぬいぐるみの顔がファスナーから出るように入れている。そのリュックを抱きしめている祐ちゃんがかわいすぎてヤバい。


 わたし達はバスに揺られながら、最近学校であったことなどの話をしているうちに、目的地の停留所に着いたので二人で降りると、そのまま水族館に向かった。


「水族館、ちょっと久しぶりだよね。コツメカワウソの赤ちゃん、大きくなったかなぁ?」

「テレビでやってたよね。わたしも見たいって思ってた」


 わたしと祐ちゃんは年間パスポートを使って水族館の中に入り、4階から順番に見ていく。何度も来ている場所だけれど、水って何となく癒やされる感じがして好き。4階から3階の様子も見ることが出来て、祐ちゃんはそこで一旦カワウソに目が止まる。

 そして3階に降りるとお目当てのコツメカワウソの赤ちゃんがいて、祐ちゃんは釘付けになってしまった。かわいい(子)がかわいい(何か)を見て「かわいい~」と言っている姿は何とも言えない尊さがある。わたしはスマホを取り出して、祐ちゃん&カワウソぬいぐるみと(生の)カワウソが一緒に写るように何枚も写真を撮った。


 2階と1階は海外の淡水魚がメインとなっていて、日本では見ないような魚が見られるのが楽しい。祐ちゃんもカワウソほどではないけれど、いつもいろんな魚を見て喜んでいる。

 わたし的には本当はゆらゆらしているくらげを見るのが一番好きなんだけど、くらげが沢山展示されているN港水族館は少し距離があるので、1年に1回ぐらいしか行けないのが残念なところ。祐ちゃんが中学生になったら、もう少し遠くまで連れ回しても大丈夫かなぁ……


「一通り見終わったから、お昼にしようか?」

「うんっ!ちゃんとレジャーシート持ってきたよ」


 広い公園内のあちこちで食事が出来るようになっているけれど、ショップの近くはどこも混み合ってしまうので、芝生エリアにレジャーシートを敷いてのんびりお昼ご飯を食べるのが、わたしと祐ちゃんのお気に入りスタイル。

 わたしたちは、水族館を出て芝生エリアに移動して、芝生の上にレジャーシートを敷いて二人並んで座った。


「今日は、おにぎりと唐揚げとコロコロハッシュドポテトを作ってきたよ」


 わたしは二人分のお弁当を広げると、祐ちゃんは「うわぁ、美味しそう!早速食べていい?」とわたしの顔を見ながら嬉しそうに言ってくれるので、作りがいがあるというものだ。


「「いただきますっ」」


 お弁当を食べ始めたところで、わたしは話を切り出した。


「祐ちゃん、食べながらでいいから聞いてほしいんだけど」

「うん?」

「この前、祐ちゃんが言っていた、わたしと『同級生になりたい』という話の件ね」

「あ……うん……」


 祐ちゃんがおにぎりを食べる手を止めてしまったのを見て、わたしは慌てて付け加えた。


「悪い話じゃないと思うから、そんな警戒しなくて大丈夫だよ」

「ほんと?」

「ほんとほんと」


 祐ちゃんは、ちょっと警戒しながらもおにぎりを食べるのを再開した。


「やっぱり現実的に考えて、同級生になるなら大学だと思って、おじいちゃんに相談したんだけど」

「うん」

「そうしたら、もしわたし達がまだ将来なりたい職業とか決まっていないなら、おじいちゃんの会社の企業内弁護士にならないかって提案されて」

「企業内弁護士?」

「うん。外部の顧問弁護士の他に社員の弁護士を入れて、法律に関わってくる部分などを円滑に回るようにしたいんだって。それで、弁護士になるには法学部に通うのが一番いいんだけど、N大学の法学部だったらおじいちゃんが二人分の学費等全部面倒見てくれるって言ってくれたの」

「えっ?の、のんちゃん、ちょっと待って。何か情報が多すぎるよ」

「じゃあ、今、わたしが言った内容って、項目がいくつあった?」


 こんな感じで確認すると、祐ちゃんはちゃんと自分で考えて情報を整理し始める。


「えっと…まずは、のんちゃんのおじいちゃんの会社で企業内弁護士という部署?で働いてほしいということと、弁護士になることと、N大学の法学部って大学と学部を指定されていること、だよね?おじいちゃんが言っている二人分って、のんちゃんとぼくで合ってる?」

「合ってるよ。おじいちゃんの会社に弁護士として入社するという条件で、学費等は全部おじいちゃん持ちになるという大盤振る舞い」


 おじいちゃんの提案を理解した祐ちゃんは目をまんまるくして、その後何度も瞬きをしながら何かを考え始めた。


「おじいちゃんの言うとおりにすれば、のんちゃんと同じ大学に通えて、同じ就職先で働けるってことだよね?のんちゃんの希望が優先だけど、ぼくはおじいちゃんの提案を受け入れたい。あっ、でも同じ大学学部に通うって同時期じゃなかったりする…?」

「わたしと同級生になりたいんでしょ?だから、大学1年生から一緒に通うつもりよ」

「ほんと?それはうれしいけど……そうすると、のんちゃんは5年間どうするの?」

「うーん、受験勉強と司法試験の勉強をしながら、おじいちゃんの手伝いをすることになるのかなぁ」


 とりあえず、祐ちゃんを待つ5年間の計画はまだ内緒なので適当に言ってみる。


「じゃあ、のんちゃんもおじいちゃんの提案に賛成ってことでいいの?」

「もちろん!こんな好条件ないよ。特に将来なりたい職業とかってまだ決めていなかったし、逆に目指す道が出来ておじいちゃん様々って感じ」


 わたしの将来の夢というか希望は、わたしのお母さんみたいなお母さんになることだから、就職先のこととか大学に行ってから考えてもいいやぐらいに思ってたけれど、色々と順番が変わりそうだし、型にはまっていない分面白くなりそうだと、私の心はワクワクしている。


「あと8年頑張れば、その先ずっとのんちゃんと一緒にいられるんだ……」


 祐ちゃんもそう呟きながら、目をキラキラさせている。大学のレベルとか司法試験のレベルとか、全く気にしていないのが祐ちゃんらしい。唐揚げとハッシュドポテトを頬張りながら、嬉しそうにしているのが丸わかりだ。


「あ、そうだ。ぼく、今日はチョコチップクッキーを作ってきたから、一緒に食べよ♪」


 祐ちゃんは昼食を食べ終えると、自分のリュックからチョコチップクッキーを取り出した。水族館へ行く時、わたしがいつもお弁当を作るからなのか、祐ちゃんもお菓子を作って持ってきてくれる。

 これで全くもてないのが不思議だって言いたいところだけど、小中学生のうちはかわいい子よりスポーツが出来て格好いい子の方がもてるから、やっくんの方が人気が高いって聞く。でも、このまま成長したら高校生になった時、もてまくるんじゃない?


「はい、どうぞ」


 わたしは祐ちゃんが差し出した袋からクッキーを取り出して食べてみる。


「チョコチップが沢山入っておいしいぃ~♪」

「ほんと?ちょっと入れすぎたかなって思ったけど、これはこれでありだよね」


 祐ちゃんも「おいしい~♪」と言いながら、クッキーを頬張っている。あぁ、こういう関係っていいなぁ……


 食べた後は二人でレジャーシートに寝転がり、一昨日放送された異世界アニメの話とか、近所に新しくできたパン屋さんの話などをする。健全なアニメでも夜中にしか放送されないからリアルタイムで見ることができず、いつも録画して見るしかないって祐ちゃんが言っているけれど、確かに土日の朝とか平日の夕食時間頃のアニメって未就学児でも安心して見られる感じのものしかやってないよね。夜中に放送されているアニメで結構面白いのいっぱいあるのになぁ。


「あっ、そろそろ帰る準備をしないと、バスがなくなっちゃう!」


 この水族館&公園は最寄り駅がとても遠くて、バスも朝夕の数本しか走っていないという、車を運転できないわたし達には過酷な地域なので(笑)、急いで後片付けをしてバス停に向かった。


 祐ちゃんは帰りのバスの中でもご機嫌で、「おうちに帰ってからすべきことリストを作らなきゃ」って張り切っていた。うん、わたしも頑張らないと!


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