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第5話

 『思い立ったらすぐ行動!』 これ、超大事。


 高校生活最初の土曜日、わたしは電車でおじいちゃんちに出かけた。土曜日も休みの高校で良かった。


 祖父の家は少し山奥の方にあって、最寄り駅から車で30分かかる。バスは廃線になったらしく、公共交通機関で行くことはできない。そして、祖父母が住んでいる地域にはコンビニもなければ信号機もない。夜の外灯もなく、家の明かりがポツポツとあるだけでほぼほぼ真っ暗だから、星は本当に綺麗に見える、冬の夜空を見上げた時には毎回鳥肌が立ってしまうほどに。今わたしが住んでいる街もそこそこの田舎なので、夜空を見上げればそれなりの星は見えるけれど、数が全然違う。


 祖父のご先祖様は代々その土地に住んでいて、少し離れた隣の家には祖父のいとこ一家が住んでいる。反対隣は100m以上離れているけどね。

 家の前の小さな道路を挟んで畑と田んぼがあって、少し遠くに山がある。家の裏には川が流れていて水もとても綺麗だから、小学生の頃は夏休みにその川に入って遊んだりもしていた、わたしも大好きな場所である。

 だけど、そんな絵に描いたようなど田舎なので、近くに病院はなく、お母さんが生きていた頃は、すぐに病院へ駆け込めるよう、母のかかりつけの病院(都会)の近くに祖父母も一緒に住んでいた。お母さんは田舎も都会も味わえてすごく楽しいって言っていたけれど、田舎でもっとのんびりもしたかだっただろうなぁって思う。


 わたしはお母さんと過ごした日々を思い出しながら電車に揺られて約1時間半、おじいちゃんちの最寄り駅で電車を降りて改札口を出ると、既におじいちゃんが車で待機していた。


「おはようございます。おじいちゃん、いつもありがとう」

「ははは、よく来たよく来た。ばあさんも待っとるけ、早く車に乗れ」

「うんっ」


 わたしはおじいちゃんの車の助手席に乗り、祖父宅へ出発した。


「もっと頻繁に来てくれて構わんのに」


 毎回、片道30分の距離を迎えに来てもらっているので、本当にありがたいって思う。おじいちゃんの地元の人達はそれが当たり前の生活だから、そのぐらいの距離は全然気にしていないのだけれど。

 車の中では高校に入学した時の話などをして盛り上がっていたら、あっという間に祖父宅に着いた。山道にありがちなくねくね道も多いけれど、道中信号が全くないのが早く感じる理由かもしれない。


「俺は車を止めてくるから、先に中へ入れ」

「うん、おじいちゃん、ありがとう」


 わたしは荷物を持って玄関のドアを開ける。


「おばあちゃん、おはようございまーす」

「あらあら、よく来たねぇ」


 おばあちゃんが小走りに玄関口まで走ってきた。


「さあさあ、早く上がって。少しゆっくりしたらお昼ご飯を一緒に作りましょうね」

「うん!」


 わたしは靴を脱いで上がり、リビングに荷物を置いてから和室へと向かった。


「お母さん、ただいまぁ」


 神棚と祖霊舎の前で二拝・二拍手・一拝をする。祖父宅は神道なので、仏壇ではないのだ。また、お母さんの御霊代がこっちにあるのは、知佳さんに氣を遣ってのことである。

 おじいちゃんちは色々と面白い。家の敷地の半分が昔ながらの日本家屋で、もう半分が今時の住宅という作りになっている。元々は全部日本家屋だったのを、お母さんのために増築したのだ。昔はトイレが外にしかなかったらしいけど、今は家の中にもトイレがある。外のトイレも和式だったのを洋式に変えたらしい。

 和室の方はふすまを開けっぱなしにしているので、とても広く感じてすごく好きな空間だ。風が通りやすいように両方の部屋の窓を開けているため、川の水が流れる音や鳥のさえずりなどがよく聞こえる。わたしは畳の上に大の字で寝っ転がり、ゆっくり時が流れるのを感じていた。本当に心地よい・・・


 どのくらい時が経ったのか、おばあちゃんがわたしを呼ぶ声が聞こえてきた。


「のんちゃん、そろそろお昼ご飯作ろうかねぇ」

「はーい」


 わたしはどこかに飛んでいた意識を引き寄せ、少し体を動かしてから台所へ向かった。



◇◇◇


 昼食後、わたしとおじいちゃんとおばあちゃんはリビングの和風スペースの座布団の上に座り、ちゃぶ台の上に乗ったお茶を飲みながらまったりしていた。


「ところで、私達に相談したい話って何かしら?」


 おばあちゃんはわたしが電話で話した時から気になって仕方がなかったらしい。


「うーんと、ちょっとぶっ飛んだ話になるけどいい?」

「空が話す内容よりもか?」


 空とは、わたしのお母さんの名前である。


「それと同じぐらいかも?」

「じゃあ、大丈夫だ。十分耐性はできている」


 とおじいちゃんとおばあちゃんは笑っている。確かにお母さんの発想はいつもぶっ飛んでいたなぁと考えたら、これから自分が話す内容も全然問題ない氣がしてきた。


「わたし、高校を卒業したら先に子供を産んで子育てをしながらゆうちゃんの高校卒業を待って、一緒に大学へ行こうと思うの。だけど、お父さんと知佳さんに負担をかけたくないから、おじいちゃんとおばあちゃんに全力で頼ろうと思って。あ、この場合の全力っていうのは金銭面・生活面・精神面のことね」

「それって、全部じゃない(笑)」

「ふーむ、俺やばあさんを頼るのは全く問題ないのだが、何かが引っかかるんだよなぁ」

「ゆうちゃんって、今いくつだったかしら?」

「11歳になったばかり」

「・・・・・・理解した」


 さすがIT企業の取締役社長、理解が早くて助かるぅ。と思ったら、おじいちゃんはそのまま黙ってしまった。おばあちゃんも何かを察しておじいちゃんを見てコクコクと頷いている。


 お母さんが亡くなって今住んでいるマンションに引っ越した後、祖父母はわたしの面倒を見るために度々うちに来ていたため、ゆうちゃんとも度々会っていて仲が良いしお互いに気に入っていると思う。なので、わたしの相手として反対されることはないと思ってるのだけれど・・・


「ゆうちゃんはのんちゃんがそんな風に考えていることを知っているの?」

「ううん、まだ言っていない。けど、高校入学式の日にゆうちゃんから『彼女になってほしい』って告白されたのと、あと『のんちゃんと同級生になりたい』って言われて、どうするのがいいか考えてた」

「のんちゃんはゆうちゃんのことが好き、でいいのよね?」

「うん、わたしすごーく愛されているし、あんなに何でもできて頭の良い子はそうそういないし、一緒にいて居心地がいいし、他の女の子にもててほしくないって思うのは嫉妬だと思う。ちなみに、わたしはショタコンではない!」

「あら、本当に好きなのならショタコンでもいいじゃない。何かと忌避感を持たれたり、犯罪と結びづけられがちだけれど、私はのんちゃんの恋を応援するわよ」

「さすが、おばあちゃん!!」


 思わずおばあちゃんに抱きついてしまった。


「それで、具体的にはどうするつもりなのかしら?」

「わたしは高校卒業と同時に大学には行かず、子供を産んでここで子育てをしたい」

「ゆうちゃんとは離れてもいいの?」

「ゆうちゃんが高校を卒業するまでは色々とバレたらまずいでしょ?ここだったら、誰の噂にもならないし、ゆうちゃんも普通に学生生活が送れると思うから」

「私はのんちゃんと一緒に暮らせるのは嬉しいし、ひ孫に早く会えるのも願ったり叶ったりだけれど・・・」

「それで子育てをしながら受験勉強も並行して、ゆうちゃんの大学受験に合わせて一緒の大学・学部を受けようと思ってる。ゆうちゃんは特にまだ将来何になりたいか方向性も決まってないみたいだけど」

「あら、ゆうちゃんには夢がまだないのかしら?」

「ううん、ゆうちゃんの夢はわたしをお嫁にしてずっと一緒にいたいってことだから、わたしと一緒にいられるなら何でもいいみたい」

「まぁ、かなり情熱的ねぇ」

「ほんと、こんなに愛されているわたしってすごいって思っちゃう」


 おばあちゃんと二人でケタケタ笑っていると、何かを考えるようにしばらく黙っていたおじいちゃんが、


「今日はここに泊まっていくんだろう?一晩考えさせてくれ」


と言って立ち上がり、書斎に行ってしまった。


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