第1話
「おはよう」
「お、おはよう…」
高校入学式の朝、玄関を開けると隣の小学5年生になったばかりの祐希くんがランドセルを背負ってマンションの外廊下に立っていた。うん、間違いなくわたしを待っていたんだろうなぁ。心配そうにわたしのことを見ている。
祐ちゃんはすんごくかわいい男の子で、年齢を言わなかったら小学校低学年にしか見えない。
「どう?高校の制服。進学校だから地味ーなブレザーなんだけど」
「えっ?の、のんちゃんはいつもかわいいよ」
「ブレザーについては触れないんだ」
祐ちゃんは何か言いたげな顔をしているけれど躊躇っているのか、心細そうにわたしの全身を上から下、下から上と何度も首を動かして見ているだけである。
「今日は入学式だけだから早く帰宅できると思うしその時に話を聞くけど、それでいい?」
「あっ・・・うん、ぼくも帰ったら連絡するね」
早めに登校したいわたしの気持ちを察したのか、祐ちゃんはそれ以上言わず、一緒にエレベーターに乗って1階まで下りると、「いってらっしゃい」と手を振って見送ってくれた。
あれ?そういえば今日は抱き着いてこなかったな。
祐くんは事あるごとにわたしに抱き着いては「のんちゃん、大好き♪」と言うのだけれど、その仕草がかわいすぎてわたしも思わず抱き返してしまうのよね。傍から見れば仲の良い姉弟って感じ。でも、本当は祐ちゃんがわたしのことを一人の女性として本気で好きだってことに、ずいぶん前から気が付いている。
祐ちゃんとはマンションの部屋が隣同士なので、幼稚園時代から会うとあいさつはしていたけれど、仲良くなったのはわたしが小学6年生になったときに祐くんが1年生で入ってきて、集団登下校するようになってからだったりする。
一緒に小学校に通ったのはたった1年間だったけれど、わたしが中学校に入学してからもわたしの部屋で一緒にゲームをしたり、勉強を見てあげたり、何かと一緒にいる時間が多いと思う。
そんなことを考えながら歩いていたら高校に到着してしまった。距離的には通っていた中学校とそれほど変わらない感じかな?県内一番の進学校が歩いて通える範囲でよかった。
入学式やクラス分け、自己紹介などあっという間に終わり、高校では部活に入らないつもりだから部活勧誘は見ないで、そのまま帰宅の途へ。入学式にはお父さんが来てくれたけれど、終わってすぐ会社へ行っちゃった。中間管理職は大変だ。
「唯衣もそろそろ入学式終わったかなぁ…」
小中学校時代の唯一の友人…親友の唯衣は美術科のある高校へ進学したので寂しかったりもするけれど、唯衣が一歩でも早く夢に近づくようにと美術科への進学を後押ししたのはわたしだから、今までのように会えなくなるのは仕方がない。
ちょっとだけ唯衣の状況が気になったので、家の近所にある公園に立ち寄って制服姿をスマホで自撮りして唯衣に送ると、少しして唯衣からもセーラー服姿の写真が送られてきた。この地区でセーラー服の高校はそこだけなので、ちょっと新鮮。
中学時代は唯衣と祐ちゃんとやっくん(祐ちゃんの親友)の4人でよく遊んでいたのだけれど、少しずつ変わっていくのかな…