第12話
実質一人暮らしが始まってから、家のことは全部自分でやらなければいけなくなって、毎日があっという間に過ぎていく。
気づけば、もう高校2年生になる。
1年生のあいだに、気軽に話せるクラスメイトはできたけれど、「友達」と呼べるほどの関係は、結局できなかった。
学年2位の男子にはなぜかライバル視されていて、何かと絡まれるし、ちょっと面倒くさい。
ちなみに学年1位は、わたし。
「お金の力で成績を取ってる」とか言われるけど、こっちは毎日コツコツやってるだけだし。言い返そうと思えば、いくらでも言い負かす自信はある。
……あれ? そういうスタンスだから、余計に友達ができないのかしら?
でも、学校ではひとりでも、外にはちゃんと安心できる居場所がある。
勉強面でも、ありがたい環境が揃っている。
例えば、英会話レッスンもそのひとつ。
お父さんと知佳さんが英会話の先生を自宅に招いてレッスンを受けるときに、私とゆうちゃんたちもオンラインで一緒に参加させてもらっていて、生きた英語に触れながら、楽しく勉強できている。
アメリカにいる家族も相変わらず元気で、奏ちゃんが私のことを忘れないように、定期的にオンライン通話で近況を伝えている。
だから、寂しさを感じることはないし、学校で友達ができなくても、「いつメン」がいるから問題なし、って感じ。
「今日の英会話レッスンも面白かったね」
「向こうのみんなでショッピングモールに行って、お店の商品を手に取りながら会話したり、カフェでドリンク注文したり、日本のアニメショップのレポートとか、あれ最高だった!」
「先生、動画配信者に間違えられてたけどな」
「学校の授業もあんな感じでやってくれたら、英語得意になる子も増えるかもね」
週2回の英会話レッスンには、唯衣、ゆうちゃん、やっくんも参加していて、レッスン中は日本語禁止で全力で楽しんでいる。
「ネイティブの発音に慣れるし、みんなが積極的に話してると、自分も会話に入りたくなるよな」
「身内だから恥ずかしがる必要もないし、間違えても先生がポイントを押さえて直してくれるのが助かる」
「そういえば、のんちゃんはアメリカ行かないの? お父さんたちに会いに」
「うーん、今度の夏休みに行こうかなとは思ってる。でも……そうだ! みんなも一緒に行かない? 航空券は各自だけど、泊まるところも食事も全部うちで大丈夫だから!」
「興味はあるけど、まずは親に聞かないとね。パスポートも持ってないし」
「俺も」
「ぼくも、お父さんに聞いてみる」
さすがに海外旅行は即答できないよね。
でも、もし行くなら、みんな一緒がいいなぁ。
英会話レッスンのあとは、それぞれ好きなことをしながら雑談する時間。
唯衣はデッサン、ゆうちゃんとやっくんは英会話の復習、そして私は――副業。
最近流行りのAIを使った副業を、スキマ時間にちょこちょこやっている。
法律事務所のバイトは続けているけど、お金を稼ぐ手段はいくつ知っていても損はないし、ちょっと試してみたら、これが意外と面白くて。
月額の有料プランを使ってるから、まずはその分を回収できればいいかな、って感じで気軽にやってるつもりだけど――
調べものがあるときにAIにざっくり聞いてから、自分で調べるとすごく時短になるのよね。
もちろん、AIの言うことを鵜呑みにするわけじゃなくて、ちゃんと裏取りもするけど。
で、稼いだお金でゆうちゃんを甘やかす。
本人はそう思ってないかもしれないけど、わたしにとっては「ゆうちゃんへの投資」なのだ。
デート代を出したり、役に立ちそうな本を贈ったり、お揃いのものを買ったり、面白そうな体験教室に誘ったり――
そういう“楽しい未来のための使い道”なら、いくらでも考えつく。
大人になると、仕事や子育てで「やりたいことができなくなる」ってよく聞くし、ネット記事でも見る。
だったら今、やれることをやっておこうと思う。そしてそのためには、お金も必要になる。
将来、何があるかわからないからこそ、お金の知識は早めに身につけたい。
「知らなかった」じゃ済まないこと、きっとたくさんあるだろうから。
うちの高校には、資格取得を目的にした「資格部」なんていう部活があるんだけど、わたしがそこに入ったのも、ある意味“効率厨”な思考の結果。
週1で参加すればOK、取れる資格は何でもOK。
高校生が受けられる検定はだいたい網羅できるし、環境としてはかなり恵まれてると思う。
小さい頃、入院中にITパスポートの勉強をしていたお母さんの姿を、私はずっと見ていた。
おじいちゃんの会社がIT系だったこともあり、お母さんは「学ぶこと」をすごく大切にしていた。
その姿勢を、私は受け継ぎたい。
ちなみに、高校1年生のうちに取った資格は――
英検3級、日商簿記3級、FP3級、ITパスポート、MOS。順調、順調。
って、なんだか話がそれちゃった。
AIとチャットしながらふと顔を上げると、大好きな人たちが、思い思いの時間を過ごしている。
そんな空間の真ん中に、自分がいる。
好きなことをして、好きな人たちに囲まれている。
わたしは、この時間が本当に大好きだ。
この静かな午後のひとときが、いつまでも続けばいいのに――
そう思えるくらい、今のわたしは、しあわせだ。