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あたり

作者: ハラミ

伝統とは何かを考えさせる物語です。

ある高校のグラウンドに高校三年生が集まる。ミキとカオリは今日も恋愛の話で忙しい。八月は去ったというのに、太陽の熱はいまだに暑さを増している。学校の先生が生徒のノートの採点か何かをしながら、生徒のそばで座りながら見守っている。九時ぴったりの学校の鐘と共に、生徒会長のジュンタが朝礼台の上に登る。少し挨拶をして、毎月恒例のルール説明をする。「本日から九月が始まるということで、いつものようにこの学校の伝統のくじ引きのルールを説明する。」カオリは「今日みたいに授業がある日はいいけど、先月とか一日に授業なくてわざわざ学校来なきゃだし制服着なきゃでだるかったね。」とヒソヒソ言い、ミキは「それな。てか他の高校、先月からこの行事無くなったらしいよ。」と返す。カオリはどうでもよさそうに「それなんか聞いたことあるわ。あー生徒会長なりたい。一番頭いいとか凄すぎ。」と言い放った。ジュンタは大きな声で生徒に向かって「ではクラスの代表、前に出て。」と告げた。この高校の三年生は五クラスしかない。ひとクラスに三十人ずつで、三年生は合計百五十人。赤、青、黄色、緑、白と色で区別されている。白組の代表であるミキは「後でね。」とカオリに言い、朝礼代に登り、緑組の代表者の隣に立つ。ジュンタはロボットのような口調で「では赤組から順に引いてください。」と小さな箱を差し出す。「クラス代表者五人全員が引き終わるまで中を見ないように。」と慌てて付け足す。皆承知の上だ。五人とも引き終わり、ジュンタは「くじを開いて。あたりの人は大きな声で生徒に知らせてください。」と告げると、少し経ってから、ミキが「白組が当たりを引きました。」と声を震わせて宣言した。ジュンタはすぐに先ほどの箱より大きな箱を持ち、朝礼代から降り、白組の方に行き、「白組の皆さん、出席番号順にくじを引いて。みんなが弾き終わるまで中身を見ないように。」と言い放つ。ミキはまだ朝礼代の上で棒のように立ち尽くしている。カオリがくじを引く順番が来て、ミキに「今から引くよ!あんたのせいじゃないよ!早く戻ってきな!」と声をかけた。ミキは足を震えさせながら朝礼代から降り、ゆっくりと自分の立ち位置に戻る。ジュンタは一息ついてから、「全員引き終わりましたね。」と言った。生徒たちはザワザワしている。「今月は誰だ?」「早く紙開けよ!」一部の男子は興奮している。ジュンタは何も聴こえていないかのように「ではくじを開いてください。あたった方は名乗り出てください」と生徒会長らしく仕切る。カオリは紙を開いて、“あたり”の文字を見た。愕然とした。瞬きの仕方を忘れた。まさか三十分の一を引き当てるとは。いや、百五十分の一か?そんなことどうでもいい。今月の標的は私か。どうしたらいい。なんで私?先月の標的だったアツトはどうなったっけ?昏睡状態じゃなかった?え?1ヶ月間?十月まで?頭の中はぐちゃぐちゃだ。膝から泣き崩れる。「今月はカオリだ!」大声で、嬉しそうに誰かが言った。男子生徒はポキポキと指を鳴らしカオリに近づく。バットを持つ者もいる。女子はくすくす笑っている。ミキはカオリを見ながら安心したような顔でほっと息を漏らした。




*Shirley JacksonのThe Lotteryのオマージュです。

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