略奪愛とある事が同じだと気づいてしまった、というお話
とある高校にいる三人の女子高生、理沙、芽衣、香菜。
普通な女子高生な感じの理沙。
ギャルっぽい感じの芽衣。
あまり表情を変えない香菜。
全く異なる三人だけど、妙に意気投合している三人。
そんな三人は今日もお昼時間に三人で机を囲うのだった。
「そういや聞いたー? 木村って彼女奪われたらしーよ」
「え? 何で?」
芽衣の言葉に理沙は口に運ぼうとしたミートボールを止めて芽衣を見る。
「木村君の彼女って藤谷さんだったよね?」
無表情なまま香菜も芽衣を見る。
「そう、それな」
「で、誰に奪われたの?」
「北沢だよ、隣のクラスの」
「人気でイケメンで陽キャな、あの北沢君?」
「そう、その北沢」
「確かに藤谷さんもクラスで人気だし、お似合いな二人って言えばそうだけど」
「他の子達も木村君と何で付き合っていたんだって言ってたわね」
「木村と藤谷は幼馴染なんだって、中学の時からの付き合いらしいよ」
「ああ、だからか、納得」
「中学の時からの付き合いなら、少なくとも二年くらいは付き合っているのにそんな簡単に略奪されるものなの?」
「付き合ったはいいけど、飽きたんじゃないの? だって木村って地味な陰キャって感じだし」
「でも、二年も付き合ったのにそんな簡単に乗り換えなくても良いと思うよ、木村君がかわいそうだよ」
「そもそも私、北沢君の事あまり好きじゃないのよね、だって他人の恋人奪うなんて人間のする事じゃないし、死ねば良いのよ、藤谷さんも簡単に木村君を捨てるなんて、彼女も死ねば良い」
「ひい、香菜ちゃん怖いよ」
「無表情で淡々と言うから、余計怖いし」
理沙も芽衣も無表情で怖い事を言う香菜に冷や汗をかく。
「そもそも北沢君は何で木村君の彼女を奪おうとしたの? 普通そんな事しないでしょ?」
「あ、確かに、普通に考えて付き合ってる二人の仲を引き裂くなんてそんな酷い事しないよね」
「さあ? そんなアホみたいな事する奴の気持ちなんてわかるわけないじゃん」
「まあ、そうだよねぇ、あ、芽衣ちゃんの卵焼き美味しそう、一つちょうだい」
「って、返事する前に食ってんじゃんかよ」
「えへへー、あまりにも美味しそうだったから、私のミートボールをあげるから、たくさんあるから二個取って良いよ」
「うわ、マジでキモいくらい入ってるわね、アンタどんだけミートボール好きなのよ」
「今日はミートボールの日だよー」
「それじゃない?」
「「え?」」
ミートボールを取り終えて二人は香菜を見る。
「理沙が芽衣のおかずを食べた時、美味しそうって言ってたじゃない? 北沢君もそれだったんじゃないの?」
「ちょっと何言ってるかわからないんだけど」
「あ、もしかして他人の弁当が美味しそうに見えるから勝手に取って食べる事と同じで木村君の彼女の藤谷さんが良さそうな彼女だと思ったから奪いたくなったって事?」
「そう、それ」
「ああー、なるほどね、ってなに? 略奪愛と他人の弁当のおかずを勝手に食べるって同じだと思ってんの? そんなバカな事」
「でも、そうだと思わない? 木村君の彼女の藤谷さんが良いと思って奪おうとする事」
「んー、他人のお弁当のおかずが美味しそうに見えて勝手に奪って食べる事、確かに似てるね」
ミートボールを食べながら理沙は二つの動作が似ていると気づく。
「じゃあ、何か? 北沢にとって木村の彼女の藤谷は、他人の弁当のおかずって事?」
「そういう事、おかずだから藤谷さんも何の抵抗もなく北沢君に好きなようにされたって事」
「確かにお弁当のおかずに意思なんてないから、勝手に手に取られたら食べられるだけだよね」
「アンタ達、藤谷の事悪く言ってるって気づいてる?」
「それに周りの皆も二人が付き合ってる事を知っていながら略奪されても誰も北沢君を注意する人はいなかったよね?」
「あ、そうか、他人のお弁当のおかずを食べられてもキレるほど怒る人ってそんなにいないね」
「そう、だから木村君から藤谷さんを奪った北沢君を誰も責めたりしないのよ、不幸になれば良いわ」
「香菜ちゃん怖いよ」
ここまで言っても感情的にならず無表情で淡々と言うからこそ怖さが際立っているのだった。
「でも、そうなると北沢君は藤谷さんを何のおかずだと思ったんだろう?」
ここで理沙がミートボールを食べる手を止めて思った疑問を言う。
「いや、北沢が藤谷を弁当のおかずだと思ってるのはあたし達の会話から出ただけで、実際は知らないから」
「そうね」
「って、いつの間にか考えてるし」
芽衣のツッコミなどお構いなしに理沙と香菜は腕を組んで考える。
「あ、そう言えば前に聞こえたんだけど、北沢君ってトマトをよく食べるって話してたよ」
理沙が今思い出したかのように言う。
「そう言えば、あいつの弁当チラっと見た時やたらトマトが多かったような」
「じゃあ、北沢君ってトマトが好きって事?」
「となると藤谷さんは北沢君にとってトマトに見えた?」
香菜がそう言うと少しの間を置いて理沙と芽衣が笑い出す。
「じゃ、じゃあ、北沢にとって、ぷぷ、藤谷は、ぷっ、トマトと同じって事? ぷーっ」
「あはははは、木村君、北沢君にお弁当のトマトを勝手に取られたって事、あはは」
話してる内容は笑えないのに例えがあまりにもおかしかったのか、二人は笑い続けるのだった。
「あー、おかし、略奪愛と他人のお弁当を勝手に食う行為が似てるなんてバカじゃないのって思ってたけど、ここまで似てる部分があるとマジ否定できないわ」
「でも、他人のお弁当のおかずを勝手に取って食べるなんて、意地汚いね」
「アンタが言うか、でも確かにそれな」
「じゃあ、北沢君って意地汚いって事?」
理沙が言った後、理沙と芽衣は再び笑い出す。
「た、確かに、北沢マジ意地汚いわ、見た目イケメンで中身が意地汚いって、マジヤバくね」
「お弁当のおかずと同じで見た目が良くても味がダメなら食べないよね、そう考えると木村君を捨てた藤谷さんも見た目が良いけど中身が薄情って事になるね」
二人はまた笑い出す。
「そういう事になるわね」
二人の言う事に香菜も無表情で頷き、お昼時間が終わるのだった。
~それから、二週間後~
「北沢と藤谷、別れたらしいよ」
「え? 何で?」
「んー、何かあたし達の会話を聞いてた奴等が面白おかしく周りに話したらしいよ」
「それが周りに周って二人の耳にも入ったって事ね」
「そう、それで藤谷が北沢に自分はトマトと同じって事って言って怒りマックスって感じ」
「北沢君は否定するよねー」
「当然否定したけど、藤谷は聞く耳持たずって感じ」
「彼女は思い込みが激しいのかもしれないわね」
「で、別れた二人はその後も大変で、北沢は意地汚い奴で藤谷は薄情な女って噂も学校中に広まったってわけ」
「うわー、人気な二人が一気に地に落ちたねー」
理沙はお弁当を食べながら言う。
「それで、まさかと思うけど藤谷さんは木村君によりを戻そうと言ったのかしら?」
「うん、言ったみたいだよ」
「予想通り過ぎるわ」
言って香菜は溜息を吐く。
「それで結果は?」
「見事に玉砕、ていうか普通に考えて有り得ないし」
「一度食べた物は返せないしねー」
「ちょっ、やめてよ理沙」
この前の話を思い出した芽依はまた笑い出しそうになる。
「返されても、一度他人が食べた物を食べたいなんて思わないわね」
「香菜、アンタもやめてよ」
「それで北沢君と藤谷さんは今どうしてるの?」
笑い出しそうになる芽依にお構いなく香菜は続きを聞く。
「周りの目や広まった噂で嫌になったのか、二人共不登校になってるらしいよ」
「人のものを奪って、大切な人を捨てるなんて愚かな事をするからよ、良い人生の勉強になったと思ってそのまま勝手に消えていけば良いわ」
「だから、香菜ちゃん怖いよ」
「あ、そう言えば木村が新しい彼女ができたって聞いたな」
「へえ、今度は大丈夫な子だと良いね」
「付き合うって言えば、私も彼氏ができたわ」
「「え?」」
香菜の突然の発言に理沙と芽衣は驚き持っていたおかずを弁当の上に落とす。
「ちょっとアンタ彼氏できたの!?」
「いつの間に!?」
「つい最近できたわ、あ、噂をすれば」
香菜はスマホを開いてメールを見る。
メールを返信して香菜はスマホを閉じる。
「今日の放課後デートに誘われたわ、今日は彼氏と一緒に帰るわね」
「別にそれは良いけどさ」
「香菜ちゃん、誰と付き合ったの?」
「木村君」
「「ええー!?」」
「恋愛の女神が微笑んだ」
香菜が木村と付き合った事にも驚くが二人が特に驚いたのは、その時の香菜がブイサインをして笑みを浮かべていたからだったとさ。
読んでいただきありがとうございます。
他人の物を欲しがる系のキャラクターってもしかしたら。