初仕事 3
「いつから気付いてた?」
「まあ、最初からかな。」
するとシャルは少し驚いた顔をする。
「……聞こうか。」
「まず、初めに違和感を覚えたのは君から話を聞いていた時だ。」
シャルは黙って話を聞いている。
てっきり襲いかかって来るのかと思ったがそうではないらしい。
「君はお祖父さんが攫われたと言って自分の元へ来た。しかし、君の話を聞いていると店が襲われたという話が出てきただけで君の祖父が攫われたという話は出てこなかった。」
まぁ、早とちりしたという可能性もあったが思い込みや楽観視は危険だと知っている。
その時点から既に警戒はしておいた。
「次に建物全体に火が回っていたと言っていたが木製のテーブルやイスはほとんど無傷だった。散乱していた窓ガラスも熱による変色や変形しているものは無かった。そしてこの鉄の玉。これについては正直良く分からん。が、落ちていた場所から窓ガラスを割るのに使われたということは分かった。」
黒く変色しているのは火事による熱によってだと思っていたが、そこだけは理解出来なかった。
火事が起きていたなら木製のテーブルやなんかは燃えていただろうからな。
「あ、あと君が所々言葉が詰まってたりお祖父ちゃんの事をお父さんって言おうとしてたりとか。まぁ、それくらいかな。色々と不審な点があったから警戒させてもらっていたよ。」
「……で、どうなの?父さん?」
シャルは自分の後ろの方へと声をかける。
気配は無かった。
急いで振り返るとそこにはサン・ジョルジュの場所を教えてくれた頭の光っているやたらと体格の良い爺さんがいた。
「まあ、及第点って所かな。」
「えーと……。」
話について行けない。
「お父さん?お祖父ちゃんじゃなくて?」
まずそこが気になってしまった。
あれだけ腰が曲がって頭も光っているのにシャルの父親だとは思えない。
「お?まだ気付いてないのか?ほれ。」
すると目の前の老人は光っているカツラを取る。
そこにはふさふさの髪の毛があった。
「あ、なるほど。」
それならばあれだけ体格が良いのも頷ける。
「はぁ、やっぱり及第点には遠いか?クレアなら一瞬で見抜いたぞ。」
「……え?」
話を聞くと彼がサン・ジョルジュの店長で情報屋だったらしい。
名をシャルル・セインと言い、シャルの実の父親だということだ。
「まず、俺の違和感に気付けなかった時点で駄目だな。」
そして、今自分は彼からダメ出しを受けている。
どうやら独自の情報網でクレアさんの死と自分が後を継いだ事を掴み、教育してやろうと今回の芝居を打ったんだそうだ。
「次に路地裏に3人以上って所で何も引っかからないのは駄目だな。時間帯は夜の9時。いくら店が火に包まれていようと位置的にあの路地裏は真っ暗だ。あの辺りは街灯もほとんど無いから尚更な。はっきり見えるわけないだろ。でもまぁ、それくらいだな。」
「あ、あの……。」
手を上げ、質問する。
「この鉄の玉は?」
「……実はな、襲われたのは事実だ。」
どうやら全てが芝居では無いらしい。
「昨日の朝、店を開く直前にこれを投げ込まれたんだ。犯人はそのまま逃走。追ってみたが影も形もなかった。」
つまりはこの状況を作り出すためだけに割れていない他の窓ガラスも全て割ったのか。
凄いな。
「なるほど……。」
すると、シャルルはニヤリと笑顔を浮かべる。
「そこでだ。所長さんよ。」
「はい?」
何か嫌な予感がする。
いや、予感というかこの後の流れが想像できる。
「本当の依頼だ。店を襲った犯人を捕まえてくれ。」
「まぁ、これくらい出来て当然でしょ。あそこの所長ならね。」
シャルが偉そうに言ってくる。
「……シャル。お前、何調子に乗ってんだよ。お前の下手くそな演技のせいで今回バレちまったのもあるんだぞ。設定は完璧に刷り込んでから行けって何回も言ってるだろ。罰としてお前もロイと一緒に犯人捜しをしてこい。」
「えっ!こいつと!?嫌だよ!」
露骨に嫌われている。
まぁ、別に良いんだが。
「うるせぇ!お前もまだまだ未熟者なんだからロイと一緒に経験を積んでこい!犯人捕まえてもロイからお前の活躍を聞くからな!だらけんじゃねぇぞ!」
「うぅ……。」
あからさまに落ち込んでいる。
というかまだ受けるとは言っていないのだが。
まぁ、受けるつもりだが。
「ロイ。こんな奴だが面倒見てくれや。お前のことはクレアから頼むって言われててな。店も近いうちに再開するしこれからも娘ともどもよろしく頼むわ。」
「は、はい。」
クレアさんから自分の事を聞いていたのか。
一体いつ自分の事を知らせたのだろうか。
やはり、あの人のする事は全く予想がつかない。
すると、シャルルは何か思い出したようだった。
「そういえばその鉄の玉な、情報屋の俺でも初めて見た物だ。異世界に関係してるかもしれねぇ。気を付けろよ。」
どうやら、まだまだ休む暇はないようだ。
さぁ、頑張るとしよう。
「はぁ……。」
シャルはため息をついている。
上手くやって行けるだろうか。
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