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世界樹が産んだ子。  作者: タロさ
9/13

懲りない人間

チナ ウェールの語った内容は、カイに出会う少し前まで遡る。


チナ ウェールは、ルナと名乗り、冒険者ギルドで情報を集めていた。


偽名を使った理由は、領主の娘だとバレると、

厄介ごとに巻き込まれる可能性があるからだ。


その為、服装も変え、変装していた。


そこまでして、チナ ウェールが求めたのは、

この街の枯れた土地を、元に戻す為に、精霊を探す事だった。


『精霊眼を使えば、見つけられる』

そう思っていた。


しかし、何処を探しても、精霊に関する情報が無い。

だが、諦めかけた時、冒険者ギルドで、精霊を連れているカイと出会った。


そこで、カイに精霊を譲ってもらうつもりで、話しかけたが

あっさりと断られた。


その為、もう一度、他からの精霊に関する情報を探してみたが、

やはり、簡単には見つからない。


そんな時、父親であるデラ ウェールの探索と、

森の中にあるという村を探す依頼に、冒険者たちが集められたことを知る。


チナ ウェールは、慌てて冒険者ギルドに向かったが、

既に、出発した後だった。


諦めきれず、人のいなくなった村に向かったとの情報を仕入れ、

その村に急いだ。

しかし、村に向かう途中で、数名の冒険者たちと鉢合わせになり、

その人たちから話を聞いた。


話を聞く限り、『精霊の住処』の可能性が高く

絶対に行かないほうがいいとの忠告を受けた。

そして、ここにいるのは、森に行くことを断念した者たちだと冒険者たちは話す。


チナ ウェールも精霊眼を持つ魔法使い。

『禁忌』の話は知っている。

その為、冒険者たちと一緒に街に戻り、連絡を待つことにした。



それから数日後、探索から冒険者が戻って来たと聞き、冒険者ギルドに急いだ。

だが、冒険者ギルドには、探索に出向いた筈の冒険者たちの姿はなく、

その場に居合わせた者たちの会話から、部隊は全滅した事を耳にする。


同時に、帰ってきたのは、カイだけだと知った。


その時、チナ ウェールにある考えが過る。


━━カイは、精霊の住処の出身なのでは・・・・・・


『もしそうなら、もう一度頼んでみよう』そう考えた。


しかし、それ以前に、人族の仕出かした事に、

何らかの報復を与える可能性が高い事に、気が付く。


現在、少しでも情報を得る為に、

チナ ウェールは、カイを屋敷に招いている。


応接室で、向かい合う二人。


そこに、届けられるジャム。

精霊たちが気に入り、カイのジャムだけを舐めるので、

チナ ウェールが、メイドに持って来させたのだ。


━━少しでも、良い印象を与えないと・・・・・


チナ ウェールは、静かに精霊たちの様子を(うかが)う。

精霊たちの姿は、メイドには見えていない。

だが、メイドが部屋から出て行くと、精霊たちは姿を現し、ジャムに飛びついた。


「甘いものが好きなのね」


「うん、彼女たちは好きだよ」


四体の精霊は、ジャムを囲んで、テーブルの上に座っている。


「これ、本当に、美味しいね」


「村長、作れるかなぁ・・・・・」


「人族だから、知っているかもね」


「そうね、今度聞いてみましょう」


フーカ、ソイル、フレイ、ミズナは、『楽園』に戻った時に、

村長に、作らせるつもりでいる。


そんな四体の精霊を放って置いて、カイは尋ねる。


「僕たちを、ここに招いた理由を、聞いてもいいかな?」


「ええ、勿論よ」


チナ ウェールは、話をする前に謝罪を口にした。


「この度の『精霊の住処』の探索について、お詫び致します」


人族で言う『精霊の住処』とは、『楽園』の事。

勝手に探索を始め、あわよくば手に入れようとしたのだ。

まず、その事を謝罪しなければと思った。

だが、カイに簡単に受け入れるつもりはない。


「2回も来たよね、それに2回目の首謀者は、まだ生きている」


チナ ウェールもわかっている。

今回の探索は、兄であるニルス ウェールの仕業だ。


兄を差し出せば、精霊たちの怒りが収まるかも知れない。

しかし、同じ一族の者として、それは避けたいところである。


「兄を・・・・、ニルス ウェールを許す方法は、無いのでしょうか?」


「無理。

 あいつら、完全に村を狙っていたよ。

 ピクシーが罠に引っ掛かけて、簡単に倒したけど」


「ピクシーの罠・・・・・ですか・・・・・」


「うん、ピクシーは、精霊の部下だから、言う事を聞いてくれるからね」


「やはり、あの森には『精霊の住処』があるのですね」


「あるよ」


あっさりと認めるカイ。

しかし・・・・・


「また、攻めて来る?

 でも、それは無理。

 今度は、僕たちが先に攻めるから」


その言葉を聞き、最悪の状況だと知る。


「お待ちください!

 もう少しお話を!」


何とか、場を繋ごうとする。

しかし、自身の手に負える話ではない事は、理解している。


この街が無くなると感じたチナ ウェールの頭には、母の姿。


━━お母様に頼るしかない・・・・・


「この場に、母を呼んでも宜しいでしょうか?」


「母?

 別に構わないけど」


「有難うございます」


チナ ウェールが、手元の呼び鈴を鳴らす。

すると、扉が開き、メイドが部屋に入って来る。


「お呼びでしょうか?」


「お母様を呼んで頂戴」


「畏まりました」


一礼をして、部屋から出て行ったメイド。

暫くすると、再び扉が叩かれた。


そして、豪華なドレスを着た女性が入ってくる。


「チナ、どうかしたのですか?」


女性は、『チラリ』とカイを見た後、チナ ウェールに再び話しかけた。


「見た事のない御仁ですね、紹介して頂けるかしら」


チナは、立ち上がるとカイに目配せをした。

(貴方も、立って頂戴よ)


だが、カイは、そんな高度な技は、持ち合わせていない。

その為、『?』を頭に浮かべている。


その様子に、思わず声を上げる。


「お母様に、紹介するから立ち上がって頂けますか?」


「あ、ああ」


カイは、ソファーから腰を上げる。


『コホンッ』と軽く咳払いをした後、

チナ ウェールは、母、ナタリー ウェールにカイを紹介する。


「お母様、こちらはカイ。

 『冒険者』だと紹介させていただくわ」


含みのある言い方。

ナタリー ウェールは、娘のハッキリと身分を明かさない紹介に、

厄介ごとの雰囲気を感じる。


「それで、私を呼んだ理由は、何かしら?」


「実は・・・・・・」


チナ ウェールが、話しをしようとした時、カイが問う。


「この人も首謀者の一人なの?」


領主、デラ ウェールに続き、兄、ニルス ウェールもが、攻め込んで来たのだ。

その為、ナタリー ウェールの事も、そう思われた。


カイの質問に、チナ ウェールでなく、ナタリー ウェールが答える。


「首謀者ですか・・・・・もし、私が、あなたの言うところの首謀者でしたら

 どうしますか?」


「殺す・・・・・」


躊躇なく答えるカイ。

全く迷いが無い。


その為、ナタリー ウェールは、ここに呼ばれた理由を理解した。


━━あの子には、荷が重そうな案件なのね・・・・・


ナタリー ウェールは、曖昧な返事で誤魔化す。


「申し訳ありませんが、首謀者とは、一体、何のことですか?」


その答えに、カイの顔つきが変わる。


「あんたたちは、僕たちの村を、襲う計画を企てた。

 そして、実際に兵士も向かわせた。

 あそこは、絶対に守る」

 

カイの言葉に、ナタリー ウェールは、理解する。


━━あの村・・・・・兵士・・・・・

  そういう事ですか・・・・・

  あの人たちは、虎の尾を踏んだのですね・・・・・


数日前、夫であるデラ ウェールのもとに、

少し離れた村の者が訪ねて来た。


普段なら、平民の面会など断る筈なのだが、

その時は、面会を許し、デラ ウェールは、村人の話に聞き入っていた。


村民から伝えられた話。


「あの森の中には村があり、

 そこには、食料も、財宝もあります。

 村の者が、その森の中の村から、

 瑞々しい果物を持って帰ってきましたので、間違いございません」


村民の話を聞いたデラ ウェールは、

部下を率いて、その村に向かったのだが、そのまま帰らぬ人となった。


そして、今回は、兄であるニルス ウェールが、冒険者たちを向かわせたのだ。


結果は、言うまでもない、ほぼ全滅。

ただ一つ、違う事だとすれば、一人だけ戻ってきた事。


ナタリー ウェールには、予想がついた。


━━多分、ここにいるカイ殿が、戻って来た方なのですね・・・・・


そして、この屋敷に来たのだと。

だが、それでは、チナ ウェールが、ここにいる理由がわからない。


「チナ、貴方は、このカイ殿の知り合いなのですか?」


「えっ・・・・・」


言葉に詰まる。

正しく『精霊を配下に持つ者』だと言えない。

『あわあわ』しているチナ ウェールの姿を見ていたカイが、口を開く。


「この人は、ギルドで僕たちを待ち伏せしていた。

 僕たちを追って来たのは、今回が二回目。

 ここに連れて来てくれたのも、この人だよ」


ナタリー ウェールは、チナ ウェールに顔を向けた。


「貴方が、この屋敷に招いたのですか?」


「・・・・・はい」


「それは、どういうつもりで・・・・・」


チナ ウェールを問い詰めようとした時、カイの言葉を思い出した。

そして、カイの方に向き直る。


「あの・・・・・先ほど、『僕たち』と仰いましたか?」


「うん、僕たちだよ」


カイは、そう前置きした後、精霊たちに話しかける。


「みんな、出ておいでよ」


その言葉に従うように、四体の精霊が姿を現した。


「カイ、姿を見せて良かったの?」


フーカは、再び、テーブルに座り、カイの紅茶の横に添えつけてあるジャムを

舐め始めながら聞いた。


「うん、構わないよ。

 その方が、話しが、し易そうだから」


カイとフーカが話している様子を、呆然と眺めているナタリー ウェール。


「お、お母様・・・・・」


『はっ』として、我を取り戻す。


「だ、大丈夫です。

 それより、これは、現実ですか?」


「ええ、私も、実物を見たのは、二回目ですが・・・・・」


「凄いわ、本物の精霊様よ!」


興奮気味に、チナ ウェールの手を取るナタリー ウェール。


そんな2人の目の前に、フレイが立ち止まる。


「ねぇ、私たちの飲み物は、無いの?」


「そうね、気が付かなくてごめんなさい」


ナタリー ウェールは、メイドを呼び、紅茶を準備させた。

ジャム多めで・・・・・


暫くして、落ち着きを取り戻したナタリー ウェールたちは、話しを再開する。


「それで、精霊様方は、この街に報復に来たのでしょうか?」


「そうだよ、だって先に手を出したのは、人間だからね」


「確かに、その通りですですが・・・・・」


言葉に詰まる。

だが、このままでは、夫に続き、長男であるニルス ウェールも失うことになる。

そして街も・・・・・。


ナタリー ウェールは、どうしても、その事を回避したい。


だが、ナタリー ウェールの思いを、無下にするかのように、

応接室の扉が、大きな音を立てて開かれた。

そして、そこに現れたのは、兄であるニルス ウェール。


「母上、お話が・・・・・・」


話を振りかけたニルス ウェールの目に飛び込んで来たのは、

ジャムに夢中になっている精霊たちの姿。


「精霊だと・・・・・」


ニルス ウェールは、森の中の村の襲撃に失敗したが、

再びチャンスが巡ってきたと、笑みを浮かべる。


「母上、この者達を捕らえ、この街の現状を変えて見せますぞ!」


ニルス ウェールは剣を抜き、兵士に招集をかける。


「屋敷に侵入者だ!

 警備兵、集まれ!」


応接室の中に、流れ込む兵士たち。


だが、ナタリー ウェールが、慌てて止める。


「剣を収めなさい。

 戦っては、なりません」


相反する命令に、兵士たちは戸惑う。

だが、ニルス ウェールは、母の命令を、聞こうとしない。


「母上、何故ですか?

 この者たちを捕らえれば、街が活気を取り戻すかもしれませぬ。

 それなのに、何故、止めるのですか!?」


「ニルス、よく聞きなさい、今、戦えばこの街は滅びます。

 それでも、尚も戦いを望みますか?」


「そ、それは・・・・・・」


「夫である、デラの事を忘れたのですか?」


諭すように問いかけるナタリー ウェールだったが、

ニルス ウェールは、納得しない。


それどころか、反旗を翻す。


「この街の領主ともあろう者が、そんな弱気でどうするのですか!

 やはり、母上には任せてはおけません。

 これからは、私が領主となり、この街を守ります。

 兵士たちよ、この機を逃すな、男は殺せ!

 精霊たちは、捕らえるのだ!」


その言葉に従い、兵士たちは、再び剣を向けた。



ブックマーク登録、有難う御座います。

不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。

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