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世界樹が産んだ子。  作者: タロさ
8/13

分かれる運命

街を出発した冒険者一行が向かったのは、誰もいなくなった村。

この村で、一泊の予定だ。


32名が集まったデラ ウェール捜索隊。

名目上はそうなっているが、本当の目的は、森の中の村探索隊。

その冒険者たちの中に、カイの姿もあった。


カイに、人族を助けるつもりはない。

単純に、この方が、相手を監視しやすいという

ミズナの意見に従った結果なのだ。


村まで、あと少しで到着するという時に、冒険者たちの目に飛び込んできた光景は、

遠くからでもわかる程、青々と茂る草花だった。


「確かあそこが村だったはずだよな・・・・・」


最近見かけなかった光景に、全員の足が止まる。


ここに到着するまでの道のりでは、枯れた草花と乾燥した土しかなかった。

しかし、ここには、まるで村だったことを隠すように、草花が茂っている。


村に入ると、ビッドは、土を触った。

水気があり、立派な土壌だった。


「この土なら、作物も育つだろう・・・・・」


冒険者たちは、予定通り、ここでの一泊を決めた。



その夜、『スターズ』に所属する魔法使いの双子、

【パル】と【パム】は、ビッドのテントを訪れる。


「ビッドのおじさん、今、いい?」


「なんだ?」


いつも通りの口調だが、どことなく2人に、落ち着きがない。


「あのね・・・・・ほぼ間違いがないと思うけど、私たちが向かっている村って、

 『精霊の住処』だとと思うの」


「『精霊の住処』だと・・・・・」


「うん」


ビッドもBランクの冒険者だけあって、

『精霊の住処』の事は、聞いたことがあった。

人族が、立ち入ってはならない禁忌とされる場所。

勿論、立ち入れば命は無い。


「この村に来て、確信したんだ。

 村があった場所にだけ、生えている草花。

 精霊の仕業としか、考えられないよ」


「うん、私もそう思う」


パルの話に、パムも頷いている。


「私たち魔法使いは、下位精霊の力を借りて、魔法を使うの。

 でもね、精霊がいなくなった街では、あまり感じなかった感覚を

 ここでは、感じるの。

 それに、その力が異常な程、強いんだよ」


彼女たちの感覚に間違いはない。

長年一緒のチームだけに、その言葉を信じる以外の選択肢は無かった。


「そうか・・・・・」


ビッドは悩んだ末、夜分だが、冒険者たちを集めて説明をする事にした。

そして、今後の判断は、各々に任せる事に決めた。


「この先は、各自の判断に任せる。

 ここで、降りても構わない。

 期日は、明朝。

 しっかりと考えてくれ」


『精霊の住処』と聞き、魔法使いたちは、愕然としていた。

それは、絶対に近寄ってはならないと、教えられているからだ。



翌朝、冒険者たちが集まった。

ビッドが、声をかける。


「皆、それぞれに決めたと思う。

 この場から去っても、恨むつもりはない。

 遠慮なく、申し出てくれ!」


ビッドの話が終わると、予想通り、魔法使いたちの撤退が相次いだ。

その中には、パルとパムの姿もあった。


冒険者32名の内、この先に進むのは、25名。

リーダーのビッドは、代表者なので、残っている。


「パム、パル、元気でな」


ビッドは、そう言い残し、冒険者たちを連れて、森に向かう。

25名の冒険者たちは、5人1チームとなり、森に入る。


カイが配属されたチームは、最後尾だ。

メンバーは、剣士が3人、弓使いが1人、魔法使いとしてカイがいる。


「おい、坊主、もっと早く歩け!」


大剣を担ぐ男が、カイに向かって文句を言う。


「わかった」


カイは、速度を上げて歩き出す。


「チッ、どうしてこの俺が、こんなガキと・・・・・」


大剣を担ぐ男は、カイに向かって、グチグチと文句を言ながら歩く。

カイの冒険者ランクは、E。

最下位ランクのカイは、足手まといにしか見えない。

その為、Cランクの大剣を担ぐ男にとっては、邪魔でしかない。


━━いざとなったら、このガキを囮にしてやる・・・・・


大剣を担ぐ男は、そう思いながら、森の中を進む。



冒険者たちは、既に、森の出口が分からない所まで入り込んでいた。

木々で、太陽は遮断され、薄暗く、時間もわかり難い。


冒険者たちは、警戒を強める。

その時、冒険者の一人が、足元に錆びた剣を見つけた。


「おい、これ・・・・・」


周囲を見渡すと、そこら中に落ちている。


「止まれ!」


ビッドの合図で、全員が止まる。

剣を拾い上げるビッド。


土を払うと、柄の部分には、ウェール家の紋章が刻まれていた。


「ここで、戦闘があったのか・・・・・」


ビッドが辺りを見渡すと、少し離れた場所で、

羽の生えた妖精が遊んでいた。


「ピクシー?」


ピクシーは、高値で売れる。

冒険者たちの目の色が変わった。


「村を見つける前に、ラッキーだな」


「誰が捕まえても、平等に分けようぜ」


「ああ、賛成だ。

 そっと、近寄るぞ」


戦闘があった場所だということも忘れ、

冒険者たちは、ピクシーを捕らえる為に、静かに行動を起こした。

罠とも知らず・・・・・


ピクシーに近づいて行くと、少し離れた場所にあった川が、目に映る。

思わず、叫びそうになる冒険者たち。


「川があるぞ」


小声で呟いた。


森の中を歩き回ったおかげで、喉が渇いている。

ピクシーの事も重要ではあるが、それよりも、喉の渇きを癒す事を優先した。

我先にと、川に向かう冒険者たち。

その為、今まで保っていた陣形が崩れた。


あと数歩で、川に到達すると思われた時、

先頭を進んでいた冒険者たちの姿が、叫び声と共に消えた。


遠目では、わからなかったが、

草や枯れ木で隠された地面に、亀裂が入っていたのだ。

そこを踏み抜き、6人の冒険者が命を失う。

亀裂を隠したのは、ピクシー。

人族が落ちたことに、ピクシーが笑う。


「あははは・・・・・バカな人間。

 簡単に罠に嵌ったよ」


後を追っていた冒険者たちは、ギリギリのところで踏み止まるが、

喉が乾ききっている為に、川から目が離れない。


見なければ、我慢も出来た。

しかし、見てしまえば、そうもいかない。


『おあずけ』を食らった冒険者たちにとって、

目の前の光景は、地獄でしかない。


「畜生・・・・・」


「水が・・・・・」


ビッドも喉が渇いている為、川に近づく方法を考えた。


「どこかで、亀裂が無くなっているかも知れない。

 このまま上流を目指そう」


喉が渇いている冒険者たちは、その意見に素直に従う。

しかし、どこまで進んでも、亀裂は無くならない。


それどころか、亀裂は広がる一方で、段々と川が遠のいた。

冒険者たちの顔に、疲労感と絶望が見え始める。


そんな気力も体力も、失いつつある冒険者たちに、

待ち構えていた魔獣たちが、襲い掛かる。


「なんで、オオカミとクマが同時に襲ってくるんだ!」


「こっちも来たぞ!

 大蛇だ!

 援軍を・・・・・」


「た、助けてくれぇぇぇ!」


散り散りに逃げ惑う冒険者たち。

全ては、下位精霊たちが仕組んだ罠。


カイが見ているので、張り切っている。

時折、見えない事を良いことに、カイに手を振っている精霊もいた。


魔獣たちを誘導して、冒険者たちを追い回す。

そして、確実に仕留める。


次々と、命を奪われてゆく冒険者たち。

魔獣に蹂躙される光景に、ビットの心は、折れて行く。


暫くは、悲鳴と呻き声が聞こえていたが、

今では、その声も聞こえてこない。


カイを除き、生き残っているのは、ビッドだけになっていた。

そのビッドも、無傷ではない。


木にもたれ掛りながら、片腕の無くなったビッドは、後悔の言葉を漏らす。


「やはり、あいつらの言うとおりだったな・・・・・」


村での話を思い出して、苦笑いをする。

その瞬間、大蛇に、頭から丸飲みにされ、この世から姿を消した。



カイは、その様子を眺めていた。

フレイが話しかける。


「これで終わりなの?

 あの男は、どうするの?」


あの男とは、今回の依頼主、ニルス ウェールだ。


「うん、『楽園』に手を出した事、後悔させる。

 けじめは、つけてもらうよ」




カイたちは森を抜け、ウェールの街に戻る。

そして、ギルドに顔を出した。


当然の事だが、今回の探索の事は、ギルドに報告しなければならない。

カイは、受け付けをしていたレイカの前に立つ。


「あの、探索の事で・・・・・・」


話始めた所で、カイの姿を見たレイカが、椅子から立ち上がった。


「ギルマスを呼ぶから、少し待っていて」


カイの返事を聞く前に、奥に向かって駆け出す。

暫くすると、ローグを連れて来た。


「戻ったようだな、こちらで話を聞こう」


ローグに案内されて、応接室に入る。

ソファーに座ると、いきなり話が始まった。


「大方の事情は、先に、村から戻った冒険者たちから聞いている。

 なので、その後の事が聞きたい」


カイは、森の奥地で魔獣の襲撃を受けて、全滅したと話す。

しかし、傷一つも負っていないカイに、ローグは、怪しさを感じる。


「一つ聞いてもいいか?

 お前には、怪我がない、それに、服装も汚れていない。

 これは、どういう事なんだ?」


ローグの目は、カイを不信に思っていることが見て取れる。

カイは、迷わず、ある程度の事実を告げる。


「僕は、最後尾のチームの一番後ろだった。

 魔獣の襲撃を受けた時も、まだ、その場には、辿り着いていなかったから

 無傷のまま、帰って来れたんだ」


「助けなかったのか?」


「無理」


確かに少年一人で、どうこうなるとは思えない。

それに、村で離脱した冒険者たちからも、話しを聞いている。

生き残り、報告に来たことだけでも有難い。


「わかった、疑ってすまない。

 ゆっくり休んでくれ」


「そうする」


カイは、応接室を出た後、冒険者ギルドからも出て行こうとしたが、

掲示板の前で、精霊眼を持つ女の子が待っていた。


「見つけました・・・・・」


再び、ギルドを出たカイの後を、追いかけてくる。

カイは仕方なく、足を止める。


「何か用?」


「話を聞いてほしいの?」


昨日と様子の違う女の子に、カイは、興味を持った。


「別にいいけど・・・・・」


「有難う。

 ついて来て」


女の子は、カイを連れて歩く。

そして、辿り着いた場所は、領主の屋敷だった。

女の子は、スタスタと歩き、中に入っていく。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


門兵の挨拶に、『ただいま』と声をかけて、前を通り過ぎる。


カイも、女の子の後を追う。

屋敷に入ると、執事が出迎えた。


「お帰りなさいませ」


「部屋を準備して頂戴、今日から、しばらくここに泊まるお客様よ」


カイは、一言も、そんな話は聞いていない。

女の子の顔を見るが、目を合わせようとしない。

そして、悩んでる間に、執事が返事を返した。


「畏まりました」


執事は、一例をすると、その場から去る。


「案内するわ」


彼女に従い、屋敷内を歩く。

通されたのは、応接室。


「暫く、ここで待っていて。

 私は、着替えてくるから」


女の子が、応接室から出て行くと、フーカが話しかけてくる。


「カイ、僕、意味が分からないんだけど・・・・・」


「うん、僕もわからない」


二人が困惑しているところに、フレイも話に参加する。


「ともかく、あの子が話してくれるのを、待つしかないわね」


「そうだけど・・・・・」


3人は話をしているが、ソイルは、出された紅茶と

横に添えてあるジャムに、興味津々だった。


ジャムを、少し舐めてみる。


「!!

 これ、とっても甘いよ!」


精霊たちは、ジャムに魅かれた。


「ん!

 本当だ、甘くて美味しい・・・・・」


「うん、僕も、気に入ったよ」


「うん、うん」


四体の精霊は、ジャムに夢中になっている。

その時、扉が叩かれる。


「失礼致します」


ドレスに着替えた女の子が、応接室に入ってくる。

その姿は、先程とは別人に思えた。


「お待たせしたわね。

 それで、何処から話せばいいのかしら?」


ソファーに腰を掛けた女の子は、紅茶に口を付けた。


「わからないよ、ここに呼んだのは、君だろ」


「そうね・・・・・」

 

テーブルに紅茶を置くと、女の子は、話し始める。


「私の名前は、【チナ ウェール】。

 冒険者の時は、【ルナ】と名乗っているわ」



不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。

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