ウェールの街からの捜索隊
何事も無かったかのように、冒険者ギルドに戻ったカイ。
「依頼の薬草を持ってきました」
受付に薬草を提出し、依頼料を受け取ると、冒険者ギルドから、帰ろうとした。
しかし・・・・・
ローグが、呼び止める。
「カイ、待ってくれ!」
「どうかしました?」
「ブーケという冒険者を知っていると思うが、
その・・・・・もしかしたら、お前を狙うかもしれん。
だから、気を付けるんだ」
「はい、わかりました」
既に終わったことだが、カイは、何も知らないふりで通す。
カイは、冒険者ギルドから出ると、その足で宿屋を探すことにした。
「野宿じゃダメなの?」
カイの質問に、ミズナが答えた。
「村長から、学んだはずです。
村や街では、宿屋に泊まるようにと・・・・・」
「うん・・・・・わかっているよ」
宿屋を探していると、市場に出た。
「思ったより、人がいないね」
市場のはずなのに、殺伐としている。
売るほうも売られるほうも、覇気がない。
また、売っている商品は、芋1つでも、高価な値段がついている。
「これじゃぁ、誰も買わないわ」
「うん、今日のご飯、どうなるんだろう・・・・・」
フレイとソイルは、顔を見合わせた。
「やっぱり、街の外で、狩りをしようよ」
「僕は、カイに賛成。
こんな状態なら、宿に泊まっても、ご飯出ないでしょ」
「それも、そうね・・・・・」
流石に、食事が無しになりそうな雰囲気に、
ミズナも、街の外に出ることに賛成した。
本来、精霊は、食事を摂らなくても問題は無い。
しかし、『楽園』での生活で、食事を摂る事に慣れ、
食べる事を、楽しみにしている精霊たちには、我慢出来ない。
その為、『食べない』という選択肢は無い。
市場から引き返し、街の外に向かおうとした時、
正面から、馬車が迫る。
「あっ!
危ない!」
カイは、慌てて馬車を躱した。
すると、御者の男が叫んだ。
「バカヤロー!
死にてえのか!」
馬車は、そのまま駆けて行く。
街の中を、物凄い速さで駆けていた馬車は、
少し離れた商業ギルドの前で止まった。
御者が扉を開けると、執事に続き、若い男が降りて来た。
「なんだ、出迎えは無いのか!」
太々しい態度の男は、商業ギルドを見ながら不満を口にした。
「ニルス様、ギルドマスターのリドリー殿は、中でお待ちかと・・・・・」
「ふむ、そうか・・・・・」
亡き領主、デラ ウェールの息子【ニルス ウェール】は、
不満そうに、階段を上る。
「危ないなぁ・・・・・」
カイは、そう言いながら、ニルス ウェールを見ていた。
「なんか文句でも言う?」
「別にいいよ」
カイたちは、街の外に出る為に、入り口に向かって歩いた。
翌日、カイは、再び冒険者ギルドを訪れた。
そこには、昨日の少女の姿があった。
「あれ、精霊眼の子だよ」
「そうだね」
カイたちは、その子の前を通り過ぎ、依頼を貼ってある掲示板に向かう。
女の子は、カイたちの後ろをついて来た。
「見つけた・・・・・」
女の子は、カイの服を掴んだ。
「僕に何か用なの?」
「うん、精霊と話せるでしょ?」
女の子の声が聞こえたのか、ギルドの中が静かになり、
誰もが、耳を傾けていることが分かった。
フーカが声をかける。
「カイ、ここじゃ不味いかも?」
「うん・・・」
カイたちは、冒険者ギルドから出て行った。
すると、女の子は、ついて来た。
そのまま歩き、誰もいない空き地に誘導した。
カイは、足を止め、振り返る。
「精霊の事で、何か用事があるの?」
「・・・・・うん」
彼女の名前は、【ルナ】。
精霊魔法の使い手だが、最近は精霊の数が減り、
魔法が使えないことが多々あるそうだ。
「それで、僕にどうしろと言うの?」
ルナは、精霊に向けて指を差す。
「それ、頂戴」
「駄目」
「どうして?
四体もいるのだから、一体くらい、くれてもいいでしょ」
「駄目だよ。
それに、彼女たちは、物じゃない」
ルナは、引かない。
「お願い、お金は無いけど、体で払うから!」
「体なんて、要らないよ」
あっさりと断るカイ。
「わたし、こう見えてスタイルいいのよ」
ポーズを取り、必死にアピールするが、カイは相手にすることなく、
その場を離れる為に、歩き始める。
「ちょ、ちょっと待って!」
慌てて、後を追うルナ。
「まだ用があるの?」
「その子たちを、渡せない事はわかったわ。
だったら、どうやって捕まえたか、教えてよ」
カイは、ルナを睨む。
「彼女たちは、友達だ!
捕まえたり、したわけじゃない!」
カイは、怒って、その場から走り去る。
━━人間は、身勝手だ・・・・・・
カイは、人に対して不信感を持ち始めた。
再び、冒険者ギルドに戻ったカイ。
仕事を探す為に、掲示板に向かう。
その時、受付で騒いでいる男の声が、聞こえて来た。
「父上の探索は、どうなっているんだ!」
「それは、誰も受けて下さらないので・・・・・」
「なら、放置しているのか!?
父上は、この街の領主だぞ!」
受付で騒いでいる男に、見覚えがある。
昨日、カイを馬車で轢きかけた男、ニルス ウェールだった。
「昨日は、商業ギルドに行き、手掛かりを探したが、何も見つからん。
そして、今日は、冒険者ギルドに来てみたが、
誰も依頼を受けていないとは・・・・・
マスターを呼べ、ギルドマスターのローグは、何処にいるんだ!」
大声で騒ぎ立てるが、この街の領主の息子だけあって、
手荒に追い出す事も出来ず、受付のレイカは、困り果てていた。
「私に御用ですか?」
姿を見せるローグ。
「ローグ、父上の探索は、どうなっているのだ!」
「依頼は、貼りだしております。
しかし、受ける者がいないのです」
「はっ!?
冒険者なら、そこに、いるではないか?」
ニルス ウェールは、酒場のほうに顔を向ける。
「確かに、冒険者はいます。
しかし、見合った報酬を用意していただかなければ、誰も動きません」
「なんだと!
この街に住む者なら、領主の為に動くのは、当然の事であろう。
それなのに、多額の金銭を要求するとは、どういう料簡だ!」
金を出すことを惜しみ、安価で冒険者を使おうとしているニルス ウェール。
しかし、その金額では、冒険者は動かないことを伝えるローグ。
話しは、平行線のままだった。
痺れを切らしたニルス ウェールは、言い放つ。
「では、こうしよう。
本日より、入行税を上げる。
今までは、銅貨5枚だったが、銅貨20枚にする。
それで、依頼料を払おう」
この街で、宿屋に泊まると、一泊銅貨20枚。
同じ金額の入行税がかかると、相当の負担になることは明白だった。
「そんな・・・・・」
言葉を失うローグ。
「無茶苦茶じゃねえか!」
「どうやって生活するんだよ・・・・・」
冒険者たちからも、戸惑いの声が上がる。
その様子に、笑みを浮かべるニルス ウェール。
「嫌なら、私の依頼を受けて頂こう。
それなら、今回の話は、無かったことにするが?」
堂々と脅迫をするニルス ウェールだが、抵抗することが出来ない。
ローグは、渋々だが、ギルドから報酬を払うことにして、
冒険者たちに、依頼を受けるように声をかける。
「だれか、この依頼を受けてくれ。
報酬は、1日、銀貨1枚。
探索にかかった日数分を、ギルドが責任をもって報酬を支払おう」
当初、ニルス ウェールが提示したのは、銅貨30枚。
探索依頼の中では、最低の金額だった。
しかも、必要備品と食料は自前。
全く金にならない依頼だった。
しかし、冒険者ギルドが間に入り、銀貨1枚にまで上げたことにより
Bランクの冒険者チームが、名乗り出た。
名は、『スターズ』。
総数8名のチームだ。
リーダーの【ビッド】は、ローグに話しかける。
「詳しい話が聞きたい」
「わかった」
ローグは、ビットと他のメンバーたちを連れて、応接室に向かう。
「私も話に参加しよう」
ニルス ウェールも、後に続いた。
応接室に入った『スターズ』のメンバーは、詳しい話しを聞き、後悔する。
「俺たちだけでは、無理だ。
森の中にある村に向かって、誰も帰って来ていないなんて、
とんでもない化け物がいるか、それに見合う魔獣の群れがいるかのどちらかだろ。
そこに俺たちだけで向かうのは、死にに行くようなものだ。
もっと、メンバーを集めてくれ。
それが無理なら、俺たちは降りる」
「・・・・・」
ローグも詳しく話を聞いたのは、初めてだった。
今まで、ただの探索だと思っていたのだ。
しかし、実際は違う。
父親の探索と、森の中の村の探索だった。
「ニルス様、この依頼は難しい」
「何故だ!
父上の話だと、一攫千金の村なんだぞ!」
ローグは、気が付いた。
ニルス ウェールの狙いは、
デラ ウェールの探索に託けた、森の中の村の探索だ。
商業ギルドに行ったのも、その村の情報を得る為だったのだ。
ローグは、尋ねる。
「ニルス様、森の中の村が見つかったら、どうなるのですか?
勿論、報奨金は、出るのですよね」
ローグは、確認をした。
しかし、ニルス ウェールの答えは、思った答えと違う。
「依頼料を払うのだから、村が見つかった場合は、すべて私のものだ」
本来、財宝や利益になるものの探索の場合、見つけた時には、報奨金が出る。
しかし、ニルス ウェールは、父親の探索と偽り、
その報奨金を、払う気が無かったのだ。
ローグも、流石に、我慢の限界だった。
銀貨1枚で、村に向かわせ、報奨金も無し。
しかも、偽装の依頼。
この話を受けることは、冒険者ギルドの面子を、潰す事にもなり兼ねない。
「ニルス様、この度の話、お断りします」
「なんだと!?」
「あなたの話を聞く限り、虚偽の依頼と判断しました。
それに、依頼料が銅貨30枚。
どう考えても、理に適っておりません」
「なら、入行税は、銅貨20枚だぞ!」
「仕方ありません。
お好きにどうぞ。
ただし、、私たち冒険者ギルドは、この街を撤退いたします」
「撤退だと・・・・・」
脅せば何とかなると思っていたニルス ウェール。
余らせたお金を着服し、遊びまわるつもりでいたのだ。
しかし、冒険者ギルドが撤退するとなると、大問題になる。
そうなれば、今までの着服がばれて、母に叱られる事になる。
現在、この街の権力は、表向きは、ニルス ウェールだが、
実際は、母である【ナタリー ウェール】が握っているのだ。
ニルス ウェールは、考えた。
━━今回は、仕方ない。
村が見つかれば、何とでもなるはずだ・・・・・
ニルス ウェールは、態度を軟化させる。
「わかった。
入行税は、今まで通りにする。
報奨金も出そう。
依頼料は、ギルドで不足分を出していただき、銀貨1枚。
これで、折り合いをつけて頂こう」
ローグは、この話を書面にまとめ、改めて依頼を掲示板に貼り付けた。
それから一週間後、冒険者たちは、森の中の村の探索に出発した。
不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。