狙われたカイ
カイが、依頼書の貼ってある掲示板を見ていると、
冒険者の女性が、声をかけてきた。
「君、一人だよね。
良かったら、お姉さんと一緒に行かない?」
女性は、深いスリットの入ったスカートを穿き、
上着は、胸だけを隠している踊り子のような服装だった。
この人からも、酒の匂いがする。
混ぜ物をした安い酒の匂い。
「臭い・・・・・」
『楽園』にも、酒はあった。
しかし、ここまで悪臭を放っていなかった。
女性は、カイを睨んだ。
「ハッキリという子だね。
いいかい、ガキだから、あんたには、わからないだろうけど
この匂いは、大人の匂いなんだよ!」
カイに説教を始める女性。
「馬鹿だね」
「うん、バカ」
「どうする?」
「相手にしなくていいんじゃない」
精霊たちは、勝手に話をしている。
勿論、その声は、カイ以外には聞こえていない。
しかし、カイと女性のやり取りを見ていた小柄な少女の目は、
カイを通り越し、その後ろの精霊たちを見ていた。
それに気が付いたのは、ミズナ。
「ねぇ、あの子・・・・・」
ミズナの言葉に、反応するほかの精霊たち。
「あれ、見えているの?」
「多分、そう・・・・・」
「試してみるよ」
フーカは、少女に近づく。
そして、少女の周囲を飛び回る。
すると、少女の目は、周りを飛び回るフーカに釘付けだ。
「あはっ、見えているね」
「もしかして、精霊眼の持ち主かもね」
ミズナは、そう言うと、少女に近づき、話しかける。
「あなた、この声、聞こえる?」
反応は無い。
「言葉は、無理みたいね」
ミズナが、カイのもとに戻ろうとした時、怒号が響く。
「ガキだと思って下手に出ていれば・・・・・
舐めてんじゃないよ!」
女性は、カイを平手で叩こうとしている。
だが、上げた手が動かない。
「よせ、そこまでにするんだ」
女性の腕を掴むローグ。
「ギルマス・・・・・」
「【ブーケ】、貴様は、酔い過ぎだ。
少し、頭を冷やせ」
「くっ・・・・・」
ブーケは、握られた手を払い除け、酒場のカウンターに向かう。
「すまなかったな、怪我はないか?」
ローグは、カイに謝罪をした。
「大丈夫です」
カイは、再び依頼書の貼り出されている掲示板に目をやる。
「へぇ~、色々あるんだ」
掲示板には、魔獣討伐、護衛、薬草採取など、様々な依頼があった。
「カイ、何か受けるつもりなの?」
「うん、村長からもらったお金も、あまり無いからね」
「なら、これなんかどう?」
ソイルが見つけ依頼は、『薬草採取』。
「これ、森の入り口に、沢山生えているし、
僕なら、すぐに見つけられるよ」
「そうだね、任せてもいい?」
「勿論、任せてよ!」
ソイルは、無い胸を叩いた。
カイは、『薬草採取』の依頼書を剥ぎ取り、受付に提出した。
「『薬草採取』の依頼ですね。
必要なのは、毒消し草、解熱草、回復の花の3種類です。
提出する際には、一束10本で纏めて、こちらに渡してください」
「わかりました」
カイは、依頼の内容を聞き、冒険者ギルドから出て行った。
ブーケは、その姿を、じっと見ていた。
━━あのガキ、このままじゃ済まさないから・・・・・
それに、ギルマスが面接をしたんだ。
きっと、何かある・・・・・
ブーケは、グラスに残っていた酒を、一気に飲み干すと、
後を追うように、冒険者ギルドから出て行った。
冒険者ギルドから出て行ったブーケは、とある酒場に入る。
「お前たち、仕事だよ!」
酒場の入り口で、大きな声を上げ、酒を飲んでいる男たちに告げた。
「姉さん、全員ですか?」
「ああ、相手はガキだが、ローグが気に掛ける程の人材だ。
全員で、出かけるよ」
目的が、子供だと聞き、男たちは笑う。
「そりゃ、大変だ!
俺たちでも、勝てねえかもな!」
大声で笑う男たちに告げる。
「ギルドで、ヘンリーがやられたよ。
あのガキが、何をしたかわからなかったが、
何かをした事は、間違い無いんだよ」
『ヘンリーがやられた』
その一言で、笑いが治まり、静けさを取り戻す。
「姉さんは、そのガキを、どうするつもりですか?」
「痛い目に合わせて、奴隷商にでも売るつもりさ。
それに、何か秘密がありそうだから、それも聞き出すのさ」
「個人的な恨みですか、それとも、他に?」
「ああ、金の匂いがするのさ」
その一言で、男たちが立ち上がる。
「ガキは、『薬草採取』の依頼を受けて、森に向かったはずだ。
あそこなら、行方不明になっても、問題ない。
追いかけるよ」
「「「おうっ!」」」
ローグと10人の男たちは、酒場を出て、カイを追う。
その頃、カイは、森に向かっていた。
フレイが話しかける。
「冒険者ギルドって、なんか嫌な場所だったね」
「うん、変な匂いがするし、僕も苦手だよ」
「うんうん、それに、あの女、嫌な感じがしたんだ」
「あの、変な匂いの人?」
「そう、だからカイ。
気を付けてね」
「わかった。
気を付けるよ」
カイたちは、鼻歌を歌うソイルを先頭に、薬草の生えている場所に向かう。
森に到着すると、薬草は、すぐに見つかった。
「カイ!
こっち、あったよぉー!」
ソイルは、見つけた薬草の上を飛び回る。
「じゃぁ、始めようか」
精霊たちは姿を現し、カイと一緒に、薬草採取を始める。
そして、日が傾くまでに、大量の薬草を摘み終えた。
カイは、街に戻る為に、森の入り口に向かって歩き出す。
その時・・・・・・
「待ってたよ」
木の陰から、姿を現すブーケ。
既に姿を消している精霊たちは、話し始めた。
「やっぱり、来たんだ・・・・・」
「予想通り?」
「どうする?」
「カイ次第じゃない。
でも、カイに手を出したら、許さないけどね」
見えないながらも、四体の精霊は、カイの前に陣取る。
だが、ブーケには、見えていない。
その為、カイが1人だと判断する。
「こんなところまで、1人で来るなんて不用心だね」
ブーケの後ろの木々から、10人の男が姿を見せる。
「姉さん、このガキですか?」
「そうだよ、油断するんじゃないよ」
男たちは、ジリジリと距離を詰める。
カイは、動こうとしない。
「痛い目に合いたくなかったら、大人しくしてな!」
観念したと思った男たちは、余裕の笑みを見せた。
しかし、先頭を歩いていた男の足に蔦が絡まり、木に吊し上げられた。
「うわぁぁぁ!」
突然の事に、男たちの判断が遅れる。
その隙を突くように、四方から蔦が伸び、男たちを捕らえにかかった。
「た、助けてくれぇぇぇぇ!」
「なんだ!
どうなっていやがる!」
蔦から逃げ惑いながら、口々に叫んでいた。
「気を抜くんじゃないよ!
『ウインド カッター』」
ブーケは、魔法を使い、男たちを助け出す。
「やってくれたね、まさか、罠を張っていたなんて・・・・・」
ソイルの精霊魔法を、ブーケは、罠と勘違いをする。
「ソイル、『罠』だって」
「違うもん、僕の魔法なのに・・・・・」
ソイルは、少し拗ねた。
「フーカ、ソイル、油断しないで!
まだ来るよ!」
二体の精霊の会話を、ミズナが遮る。
ミズナの言う通り、助けられた男たちは、腰に携えていた剣を抜く。
「痛い目に合ってもらうぜ!」
抜かれた剣を見て、精霊たちの表情が変わる。
「「「「殺す・・・・・」」」」
殺気が森に放たれる。
風が冷え、空気が凍り付く。
男たちも、森の変化に気が付いたが、もう遅い。
剣を抜いた事により『死』が与えられる。
突風が、男の首を刎ねた。
「うわぁぁぁ!」
思わず声を上げる。
目の前の男の首が、突然、飛んだのだ。
男たちの視線が、カイに向けられる。
「貴様、何をした?・・・・・」
ブーケも動揺している。
「一体、何が起こったんだい?」
立ち尽くすブーケ。
男たちは、思わず後退る。
すると、地面が割れ、男たちを飲み込んだ。
「えっ!?」
「うわぁぁぁぁぁ!」
叫び声を上げながら、地割れに落とされ、姿が消える。
「これなら、『罠』なんて言えないでしょ」
先程、『罠』だと言われたことを、気にしていたソイルは、
その事を、払拭するように、大きく地を割ったのだ。
「ば、ば、化け物・・・・・」
踵を返し、走り出す男たち。
「あんたたち、逃げるんじゃないよ!」
ブーケの声も聞かず、森の外に向かって走る。
だが、逃がすつもりはない。
男たちの逃げ道を、フレイの炎が塞いだ。
「うわぁ!」
道を塞いだ炎は、そのまま男たちに襲い掛かり、
全てを焼き尽くす。
成す術なく灰となる男たち。
生き残っているのは、ブーケ1人。
カイが、ブーケに向かって歩き出した。
既に、ブーケには、戦う意思が無いように思えた。
「わ、悪かったよ。
二度とあんたには、近づかないから、見逃してくれないか?」
「・・・・・」
「た、頼むよ、何とか言ってくれよ・・・・・」
武器を捨て、その場にしゃがみ込むブーケ。
だが、それは油断を誘う為の罠、
諦めた訳では無かった。
━━あと、一歩・・・・・・
カイが踏み込む。
「馬鹿だね、私の勝ちだ!
『ファイヤーアロー』」
絶対に外さない位置にまで、カイが進んだことで、放った魔法。
『ニヤリ』と笑みを浮かべるブーケ。
しかし、魔法は発動しなかった。
「え?・・・・嘘だろ・・・・・」
呪文を、必死に繰り返す。
『ファイヤーアロー』『ファイヤーアロー』『ファイヤーアロー』・・・・・」
だが、何度、叫んでも結果は変わらない。
「な、何故だぁぁぁぁ!!!」
姿を現す精霊たち。
「はっ、えっ、精霊・・・・・」
驚くブーケに、フーカが答える。
「魔法は、僕たちの力を借りて発動するもの。
だから、力を貸さなければ、魔法は使えないよ」
ブーケは、カイを睨む。
「お前は、精霊使いだったって訳かい!」
吐き捨てる様に言う。
フーカが答えた。
「違うよ、カイは、精霊使いじゃないよ。
カイは、人ではなくて、僕たちの主だよ」
「もしかして・・・・・精霊王!?・・・・・」
ブーケの呟いた『精霊王』の言葉に、カイが反応する。
「違うよ、僕はカイだよ。
もう、お喋りは終わり」
カイがそう言うと、ブーケの足元が崩れ、地割れに飲み込まれて、姿を消した。
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